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そうと決まれば善は急げ、です。
「それではアイザック様…ではなく、イ、イジー?⋯⋯私、急用を思い出しましたので⋯」
「ダメだよロティ、どこに行くつもり?僕以外の急用って何かな?」
アイザック様に手首を掴まれ、そのまま手を繋がれてしまいました。
これはアレですね、捕獲ですね。逆らったらダメなやつですね。
「ありません。行きません」
アイザック様からすれば、婚約者との折角の逢瀬の時間。
邪魔をしているのは私ですものね。
いいでしょう、いいでしょう。
中身は私ドロシーですが、身体は愛らしいロティ。
私は口を閉じておりますので、思う存分眺めて下さいませ。
そして私はこの時間を利用して、今後の動きをまとめるとしましょう。
まずは⋯、えっと、アイザック様⋯?
手を撫でないで下さいませ。
ちょっと⋯、いえ、かなり気になります。
アイザック様、私、今後の犯人探しについて考えるところでこざいまして。
…あの、手に頬ずりをするのは、数日、お控えくださいませ。
居た堪れないのです。
ごめんなさいロティ。どうか許して、これは不可抗力ですよ。
「⋯⋯⋯⋯⋯」
あああもう、私、どうしたらいいでのでしょう。
触らないでくださいなどと言ってしまえば、ロティ大好きアイザック様が、どれ程悲しまれることか。
本音を言えば言いたいのです、喉元まで出かかっているのです。
いやもう、ちょっとアイザック様。
そろそろ手をお離しくださいませ。
長いです、長いのですよ。
そろそろ頬から手を離す頃合いではないでしょうか。
もう本当言いたいです、言っていいですか。
まさかアイザック様も、婚約者の死んだ姉(身体はロティですが)の手を触っているなどとは、夢にも思っていないのでしょうけど!
中身はロティではなく、私ドロシーですよ!!
死んだ姉が乗り移っているのでございますよ!!!
「⋯⋯⋯⋯⋯」
ところで私、いつ、どのように死んだのでしょうか。
困ったことに何も覚えておりません。
あらあら。
タイミングの良いことに、お茶を飲まれるために、アイザック様が手を離してくださいましたよ。
これで考え事に集中できるというものです。
この隙に少しずれて距離を取りたいところですが、ああ、はい、ダメなのですね。
アイザック様がロティを大好きすぎます。
大変微笑ましいことですが、今は大変困ります。
「このお茶とても美味しいから、ゆっくりじっくり味わってくださいませね」
可愛いロティ(の身体と声)からのお願いですわよ、勿論聞いてくださいますね。アイザック様。
ダメ押しににっこりと微笑んでおくことも忘れません。
さて、私、死ぬのは始めてですが、こんなにも何も覚えていないものなのでしょうか。
私が犯人を覚えていれば瞬時に事件は解決、すぐにでもロティに身体を返してあげられましたのに。
いつどこで死んだか覚えていないので、誰に会ったとか、誰に殺されたとか、全く思い出せないのでございます。
おっとアイザック様がカップを置きましたので、すかさずおかわりを注ぎます。
ほらほら、可愛いロティ(の身体)が淹れたお茶ですよー。
まあアイザック様、なんて嬉しそうにカップを手にお取りになられるのでしょう。
今度こそ、ゆっくりじっくり味わってくださいませ。
さてさて、ポンコツさが悔やまれますが、覚えていないものは仕方がありません。
犯人は思い出すものではなく、探し出すものなのです。
そうと決まれば情報収集、でございますよね。
まずは私がいつどこでどのように死んだのか。
どなたに聞くのがいいでしょうか?
お父様、お母様、家令、メイド長、学園のお友達、先生…
「先生⋯⋯」
おっと、いけません。思考がそれるところでした。
そして、⋯⋯⋯誰に聞いても不自然です。
困りましたね。早くも積みです。
「ねえロティ?僕と一緒に居るのに、誰のことを考えてるの?」
「!!!!!」
ひゃぁああああああ
あろうことかアイザック様、私(身体はロティ)をお膝に座らせます。
腰をガッチリホールドされていて、逃げられそうにありません。
が、ここは逃げないとロティに申し訳が立ちません。
「ロティ、逃げないで?」
「はい、逃げません」
ごめんなさいロティ。
私が貯めていたお金で買える分だけ、ロティの大好きなあのお店のアップルパイを、ホールで毎月届く様に手配しておくので、どうかそれで許してちょうだい…。
「ふふふ、いい子。それじゃあロティ。犯人探しにあたって、まずは状況整理といこうか」
「!!!!!!!」
何と痒いところに手が届くアイザック様なのでしょうか!素晴らしいです!!
「はい!よろしくお願いします!!」
「…きみに辛い事を思い出させてしまうけど、必要な事だから。ごめんねロティ。」
「!!!」
優しい手つきで髪を頬を撫でて下さるアイザック様の、お顔が少しお辛そうです。
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
⋯ああ、本当に、私は何て⋯⋯。
まったくもって自分のポンコツ加減が嫌になります。
考えればわかることでしたのに。
色々衝撃的すぎて、などと言うのは言い訳にもなりません。
⋯そうですか。そうなのですね⋯。
⋯私が死んで、ロティにそんなに辛い思いをさせてしまったのですね⋯⋯。
ごめんなさい、泣き虫なロティ⋯。
もう抱きしめてあげられないのがとても辛いわ。
私は死んでも、ずっとロティが大好きよ。
ずっとずっと、大好きよ。
だから、どうかもう、悲しまないで⋯⋯。




