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事件が解決したら憑依探偵令嬢と呼ばれてしまうのでしょうか  作者: モチダ


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「昨日、僕も襲われたんだ!」


そう言うとエリオットは、少し服を捲れば見える範囲だけ、打ち身の痕や擦り傷を見せてきた。

顎から胸にかけてと、背中側、そして掌に傷が多いのは、角材のような物で身体を壁に押さえつけられたのを両手で押し返そうと、抵抗して出来たものだ、と実演付きで熱弁している。やけに具体的だ。


「顔は見えなかったが!服装はちゃんと覚えているぞ!!」


事実、服の色や特徴だけではなく、帽子や布で如何ように顔を隠していたのか、手袋や靴の特徴までしっかりと覚えていた。

それにも関わらず、身長や体格、目の色等については一切触れない。


何ともちぐはぐな証言かつ弁解を、まくし立てる様に聞かされるその間、アイザックはシャーロットの目を耳を、塞ぐように抱き寄せている。

流石に加減をしていた先日とは違い、がっちりのがっつりな人間要塞である。


「どうだ分かったか!!僕だって被害者なんだ!見当違いな憶測で他人を貶めようとするのはやめろ!!胸糞悪い!」


「見当違いな憶測?」


言いたい事を言い終えたならさっさとお帰り願いたい所だが、一応は反応してみせるべきだろう、と思い、アイザックは事務的に聞いてみる。

オウム返しで済ませてしまったのはご愛嬌だ。


「そこの女が先刻言っていただろう!!事件以降閉じこもっていたのに最近外に出た人間が怪しい、と!昨日はお前達が呼び出したから、僕は親切に出てきてやったと言うのに!それなのに、この僕を疑うなんて!!これだから身分も頭の程度も低い、低俗な人間と話をするのは嫌なんだ!」



「⋯⋯⋯⋯⋯⋯へえ?事件以降閉じこもっていたクセに突然の外出、しかもそれが連日だなんて、何かあると勘繰られるには十分だと思うけど?まあいい、それで?今日は何の用だ?まさかキミも僕達に親切ごかして忠告に来てくれた訳ではないだろう?」


冷めた笑顔のアイザックの、声のトーンが普段より数段階は低くなっている。

挑戦的にエリオットを見ると不敵に笑った。


「それとも、僕達ではない()()に用事かな?」


「そ、そんなものはない!!不愉快だ!僕は帰る!!」


「ああ、エリオット。聞いていたかも知れないが、()()とは明日もここで会うことになっているんだ。キミも一緒にどうだ?」


「知らない!断る!!僕は関係ない!」

「本当に?」


「何が言いたい!」


真っ青になったり真っ赤になったり忙しいエリオットに対して、涼しい顔のアイザックが困り顔をつくって笑う。


「いやなに、偶然にも昨日、見知った人間が2人も襲われたと言う。もしかして一緒にいる所を襲われたか、どちらかが襲われている所をもう一方が助けに入ったか、⋯などと推測してみたんだが。違ったか?」


「知らない!!知らないと言ったら、僕は何も知らないんだ!!!帰る!!」



「⋯⋯⋯⋯⋯」

決して元々静かなカフェと言う訳ではないのだが、騒音の元が去ったせいか、客もスタッフも皆、呆気に取られているせいか、はたまたその両方か、しばしの静寂に包まれる。

そんな中、アイザックが物騒なことをボソリと呟いた。


「⋯⋯あいつ、そろそろ社会的に抹殺しても良いかな」


なかなかに本気のトーンである。流石のシャーロットも苦笑いで答える。


「公爵家の令息同士でイザコザを起こすと、あとが面倒よ」


宥めるように頬を両手で包むと、小首をかしげてアイザックの顔を覗き込む。

アイザックがこんな風に怒るのは、大抵シャーロット絡みだからだ。


「だってあいつ、ロティを悪く言った。ロティについて何か言及する事はおろか、視界に入れることも認識することも許可した覚えはない。⋯やっぱり抹殺だな」


ああやっぱり、とシャーロットは思う。


アイザックの好意に甘えて、エリオットの言葉は一切耳に入れていないので、何を言われたかは知らない。

モンスターの言葉なんてまともに聞いていたら、シャーロットは体調不良で数日寝込んでしまう可能性すらあるのだ。



と、言うのも⋯⋯


社交界におけるシャーロット・バートンの評判は、身体が弱く内気、と言うのが大抵である。

あまり社交界に姿を現さない彼女と直接言葉を交わした事のある人間は少なく、目撃される姿は大抵が遠目からのもので、常に婚約者に支えられている儚げな、そして仲睦まじいと言ったものがほとんどである。


その可憐さで公爵家令息との婚約が結ばれており、健康面と滅多に社交界に顔を出さない事から、公爵夫人としての役割を果たせるか危惧する声もあるが、聡明さと何より令息からの溺愛により問題ない、とされている。


学園での評判も概ね似たようなもので、まず、授業以外で姿を見かけることが少ない。

授業中も、うつむきがちで必要以上に他人と会話をしない彼女を、婚約者が常に傍で、文字通り支えているのだが、成績は大変優秀だと言う。


最近は姉と一緒にいる所を度々目撃されていたが、それでも他人と言葉を交わすことは少なかったようだ。

とにかく、シャーロット・バートンはその病弱さ故か、あまり人と会わず、会話も少ない。

極度の人見知りだと言うのが、貴族社会共通の認識であった。



実際の所は

「見抜かれる方も嫌だろうけど、こっちだってわざわざ、他人の隠したいものを知りたくなんてないからね」

そう、全ては他人と極力関わらないようにする為の策だった。


見抜いても気にならない相手も少なからず、いる。

見抜かないように意識をそらしたり、遮断する方法も多少なりとも身につけた。


それでも完璧とは言えない。


それならば、関わらなければ、顔を見なければ、声を聞かなければ、見抜く材料は格段に減る。

お互いの為なのだ。



「病弱だから他人と会わないんじゃなくて、他人と会うと体調不良を起こすリスクが高い」と言うのがシャーロットの主張である。


表面からは決して分からない、歪で鬱屈とした、時には狂気じみた欲望を抱える人間は少なくないらしい。そして実際に行動に起こす人間も。


下手にそんな人間の思考を見抜いてしまった時は、数日悪夢と高熱に浮かされ、嘔吐が止まらない。

妄想なのか実際に起こした光景なのか、おぞましい映像が脳にこびりついて離れない。

知らないはずの匂いや、声や音や、手触りや指の感触や、舌触りや喉越しや、ありとあらゆる全ての感覚が纏わり付いてシャーロットを苦しめるのだ。



そういった事情を知るアイザックは、シャーロットの要塞と言う大役を喜んで引き受けている訳だが、それが溺愛に見えてしまうのは仕方ないと言えよう。

大義名分のもと時と場所を弁えず人目も憚らず、イチャイチャベタベタしてしまうのも、全部全部、仕方のないことなのである。


「わざわざイジーが手を汚す必要なんてないでしょう。もう既に色々綻びが出でるじゃない」


アイザックの胸に寄りかかりながら、シャーロットが宥めるように言う。


「あー⋯あいつは、喋れば喋るほど自分の首を絞めていく典型みたいな奴だからね」


「哀れで滑稽ね。⋯いえ、哀れなのは護衛の方かしら」

「そう?」


さしたる興味もなさそうにアイザックが答える。

シャーロットが自分以外の人間の事で心を煩わせるのが、気に食わないらしい。


「哀れと言うのか気の毒と言うべきか。…護衛対象である公爵令息が自ら、襲われて負傷した、つまりは護衛が無能だ、と言い触れて回っているのだから、たまったものじゃないでしょうね」


「実際、有能とは言えないよ。大方、エリオットに「離れていろ」とでも言われて素直に言うことを聞いた結果、怪我を負わせた訳だろ?」


手厳しい様だが、仮にシャーロットに付けた護衛が同じ事をすれば、アイザックは解雇で済まさないだろう。


「そうね、結果が全ての世界だものね。⋯ヘイトスピーカー令息は、護衛を引き離して何をしていたのかしらね」


「女との逢瀬でないことは確かだ」


シャーロットの髪を撫でながらアイザックが揶揄すると、シャーロットは反対の手を取りその指を弄りながら言う。


「あら、分からないわよ、公爵家令息として一時期は数多の令嬢から追い回されていたそうじゃないの」


「その結果、女嫌いをこじらせたんだけどね」


「ご愁傷さま、公爵令息と言うのも大変ね。そしてそれ以上に大変なのは公爵家よね。他に…跡継ぎ候補はいないの?」


「まともな跡継ぎ候補」という言葉を、辛うじて飲み込みながらシャーロットは聞いてみる。


「無駄な争いを避けるために長男が後継すると決まっているみたいだよ。弟がいて補佐となるべく教育を受けているそうだけど、なかなか優秀らしい」


「あらあら、それは⋯、⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯っ」

「⋯ロティ⋯⋯?」



しばしの沈黙の後、シャーロットの華奢な身体はガタガタと震え出して止まらなくなってしまった。


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