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「まず確認ですけど、ドロシー嬢は今、自分が置かれている状況をどの様に理解されているのです?」
「その、死んで彷徨った私の魂がロティの身体に乗り移った、と⋯」
改めて言葉にすると何とも滑稽なお話ですが、アイザック様は真面目なお顔で続けます。
「なるほど。僕は死後の世界とか、疑いも信じてもいない人間なので、魂がどうとかは分からないのですが」
「⋯ですが、現にこうして私ドロシーが、ロティの身体を使ってアイザック様とお話をしていますよ?」
「それなんですけどね。⋯どう説明すれば良いのかな⋯、僕も仕組みなどはよく分かっていないのですが」
アイザック様にしては珍しく、歯切れの悪い物言いをされます。
「⋯⋯とりあえず、今のあなたの状況が「ドロシー嬢の魂がロティの身体に入った」ものではない、と言うことは間違いないです」
⋯⋯どういうことでしょう?
間違いない、とまで言い切られてしまいました。
「ドロシー嬢はご存知ないと思うのですが、ロティは他人を見抜くのがとても得意なんです」
「⋯見抜く⋯?」
ロティの事で知らない事なんてありません、と言いたかったのに、本当にご存知ないお話が出てきてしまいました。
「はい。それを使って「お姉様になってみる」と、ロティが言い出しまして」
「私になる⋯⋯?それは、えっと⋯」
「犯人を見つけるため、です」
「⋯⋯っ」
ロティの話題に突然出てきた、犯人という言葉に胸がザワザワします。
ロティは何をしようとしていたのでしょうか。
それは、危険なことだったのではないのでしょうか。
私も犯人探しをしようと考えましたが、ロティがするのは話が違います。
私が変わることが出来て本当に良かったです。
犯人探しが終わったら、ちゃんと身体をお返し⋯いえ、どうやらそれは違うというお話でしたっけ。
「ですから、今、あなたは「ドロシー嬢の魂がロティの身体に乗り移っている」のではなく「ロティがドロシー嬢になりきっている」状態です」
話についていくのに精一杯で、何も言えずにいる私を、理解していると判断したのか、それとも後でまとめて質問を受け付けるおつもりか、アイザック様はどんどんお話を続けます。
「分かりやすく「なりきっている」と表現しましたが、言葉から想像するものより、精度はかなりのものだと思います。ロティが自覚している認識外の事までロティは再現⋯⋯と言う表現がはたして正しいのか分かりませんが今はそう言わせて頂きます⋯⋯、再現、出来ますからね。見抜いた相手の、本質や深層心理などからくる言動なので、ロティの認識とは無関係のようです。⋯なので、ほぼ本人と言っても遜色ない、と、僕は思っています」
「認識⋯無関係⋯」
分かったような分からないような、分かりません。
「つまり、ロティが知るはずのない事まで再現出来るのです。例えばドロシー嬢、あなたはロティがいない時にだけ密かに僕に向ける表情があるの、自分で気付いていましたか?」
え??そんなの、ありましたっけ?
「ぼんやりと何かを考えたあと、…何というか、満足気?に微笑むんです。よく友人なんかは似た様なタイミングで「シャーロットの事好きすぎだろ」などと言ってくるので、多分、そう言う類のことを考えている時の表情ではないかと思っていたのですが」
「それ、は⋯」
アイザック様は本当にロティの事が大好きですね、などと密かにほくそ笑んでいたのを、ご本人に見られていたと言う事ですか!??
なんと恥ずかしい、淑女にあるまじきです⋯っ
「ああ、お気になさらず。むしろ家族や友人達からは呆れを通り越してドン引かれる類の事を、微笑んで済ませてくれるドロシー嬢は淑女の鑑だとさえ思っています」
はてさて??淑女の定義とはそのようなものでしたっけ???
アイザック様の慰めの下手さに、私は呆れを通り越してドン引いております。
「⋯今回も、度々そう言う表情をしていましたよ。見事な再現、ですよね。これはロティの才能に寄るもので、例えばドロシー嬢が生きていたとしても同じ事が出来ます。だから「魂が乗り移った訳ではない」と言い切ることが出来るのですよ」
アイザック様が間違いないと言い切った理由が分かりました。
そしてロティの才能、と言う所で嬉しそうなお顔をされたアイザック様。ロティの事が好き過ぎでしょう。
それはそうと、先程から気になっている事があるのです。
「あの、⋯ロティの知らない事も、と言う事は、その、⋯ロティが私になる?ことで、事件のことを思い出せるのではないか、とか、⋯そう言う⋯?」
もしそれを期待されていたのでしたら、何も覚えていない私のポンコツ頭が大変申し訳なさすぎます⋯
「流石に、事件の真相まで分かるとは思っていませんでしたよ。そして実際に何も覚えがない様子でしたね」
「う⋯⋯っ」
ポンコツ頭で申し訳ありません⋯⋯
「それはつまり、ドロシー嬢の思惑とは無関係の事件だったと言うことです」
「?⋯どういうことでしょう?」
「つまり、ドロシー嬢が相手と心中を図った末の悲劇⋯ではなかった、と言うことです」
「まさか、そんな⋯っ」
「ええ。ですが、そんな有り得ないような可能性も、全て潰していく事が真相解明に繋がりますから」
「⋯私が、事件の日の記憶につながるヒントを深層心理?とやらで持っていれば、お役に立てたのでしょうね」
申し訳ない限りです
「仮にロティがドロシー嬢になることで事件の日の何かを思い出したとしても、それを手放しで信じることはしませんよ。ですから、僕もロティも、待ち合わせの相手はオスカー先生だと思っていますが、今のドロシー嬢の記憶だけで証拠にしたりはしません。そして勿論、他の可能性も考慮します」
そうです。犯人は思い出すものではなく、探し出すもの。そう誓ったではありませんか。
「それでは、私ドロシー・バートン!不肖ながら誠心誠意、犯人探しに一切の協力も惜しみませんので!何でもお申し付け下さいませ!!犯人に揺さぶりをかけますか!?現場100回、学園に行って証拠探しを致しますか!??」
拳を握り意気込みを見せる私から、気まずそうに視線をお外しになるアイザック様。
⋯⋯もしかして私、お役御免ですか!!?
「それなんですけどね。⋯先刻も言った通り、僕も仕組みなどは分かっておらず、なので、この話をした事による影響と言うのがどのようなものか⋯」
またしても歯切れの悪いアイザック様。
ああ、そうなのですね
「⋯⋯⋯⋯私はそろそろ、ロティに戻る、という事ですね」
きっと先程の話がトリガーになるとか何かそういう事を、ロティから聞かされていたのでしょう。
握りしめた拳を下ろし、きちんと両手を揃え膝に置く。淑女然としてアイザック様に向かい微笑みます。
「嘘がお下手なアイザック様、どうか、しばらくお話し相手になって下さいませ。消える時を今か今かと待つよりは、楽しい気持ちでいきたいと思います」




