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「おはよう、ロティ」
朝一番からまぶしい笑顔のアイザック様。
流れるように隣に座ると、宝物を扱うように私(ロティの身体)の手を取ります。
こうして見ると、やはりロティを裏切っている様には思えません。
「ロティから早く会いたいなんて言われて、僕、本当は昨日の夜にでもすぐ来ようと思ったんだけどさ。いくら婚約中でも駄目だって皆に止められちゃった」
それはそうです。アイザック様。
ちょっとロティを大好き過ぎやしませんか。
お屋敷の皆様にご迷惑をお掛けしない為にも、次からは日にちと時刻を指定する事にしますね。
「あーあ。早く結婚したいね、ロティ。そうしたら夜でも会いに来れるのに。⋯いや違うか、朝も昼も夜もずっと一緒に居られるのにね」
結婚しても1日中一緒にいられるわけではないと思いますよ。アイザック様。
ですがアイザック様なら、どうにかこうにか一緒に居られる様にしてしまうかも知れません。末恐ろしいお方です。
「それで今日はどうしたの?何かあった?もしかして、戻ってきた?」
戻ってきた、とは何でしょう?
ペット⋯は、いません。落とし物?
もしや、夜の内に来たい程、そして朝一番に取りに来る程、大切な落とし物!?
それは⋯、無駄に期待をさせてしまったかも知れません。
「申し訳ありません、アイザック様⋯」
一瞬、動きを止めたアイザック様でしたが、すぐに綺麗な笑顔で続けます。
「いやだなあ、ロティ。アイザック様だなんて」
私はそっとアイザック様のお手を離すと、姿勢を正して向き合います。
「アイザック様。お話がございます」
「ロ⋯」
「アイザック様も本当は気付いていらっしゃいますよね?私はロティではありません」
「⋯⋯」
「ロティの姉、ドロシーでございます」
アイザック様は真面目な顔で、私(ロティの身体)の顔をチラリと見ると、向かいの椅子へ移動した。
「うーん。この場合、僕は何とお呼びするべきかな?ロティ?ドロシー嬢?」
「⋯この場に限り、ドロシーでお願いしたいです」
「いいでしょう。分かりました、ドロシー嬢。それで?話とは何ですか?」
表情も話し方も、ロティに対するものとはすっかり変わってしまいました。
そう言えば元々、私ドロシーと話す時はこんな風でしたが、おかしなもので、何だか慣れないようなむず痒い心地です。
「私、腹芸は不得意ですので単刀直入に申し上げます。私、アイザック様を信用していいのかどうか、測りかねております」
「ふっ、ふふ。それは、困りましたね?僕はあなたの信用を得るために何をすれば?」
「知っていることを全て話して欲しいのです。隠さずに、全て、です」
「いいですよ、何から話しましょう?」
良いんですか?良いんですね!聞きましたよ!!
それでは気が変わる前にどんどんいきましょう!!
「で、では。なぜ中身が私ドロシーだと、気付いていないフリをなさったのです?」
「ふふ、最初に聞きたい事がそれなんですね。…それはドロシー嬢がロティのフリをしたから、です。それなら、その方がやりやすいかなって」
「やりやすい、とは⋯?」
「仮に、僕がドロシー嬢を相手にする風に接していたとしますね。そうした場合、ドロシー嬢はどうしました?」
「それは勿論、⋯普段アイザック様に接する時のように致します」
「ですよね。ではオスカー先生やエリオット、ウォルター先輩と会う時は、どの様に振る舞うつもりだったのです?」
「そ、それは、ロティのフリをして⋯」
「出来たと思いますか?」
「う⋯⋯⋯⋯っ」
確かに。
ロティのフリをするなら人と会う時だけではなく、普段から徹底するべきなのでしょう。
私は器用な方ではないので、特に。
「ふふ。まあ、正直言うと昨日までのドロシー嬢でも、かなり不自然なロティでしたが。更にまずいことになっていたと思いますよ」
今、さらりと衝撃発言をなされました。
「わ、私⋯ロティを完璧に演じていたと思うのですが⋯⋯」
「え?完璧に演じているつもりだったんですか?」
「ぐっ⋯⋯」
「ああ、因みに。バートン伯爵夫妻と使用人の皆さんには、僕の方から上手く誤魔化しています」
「ぐぅっ⋯⋯⋯そ、それは、お手数をお掛けしました…」
「いいえ、お安い御用ですよ」
私の心境など知ってか知らずか、優雅にお茶を飲まれるアイザック様。
ちょっと待ってください、では昨日のやり取りは⋯⋯?
「で、ですが⋯先生やウォルター様と違い、アイザック様とエリオット様はドロシーの影も感じず、ロティである事を信じて下さっているものとばかり⋯⋯」
「逆ですね、どう見てもドロシー嬢でしたよ。時々ロティの恥じらう姿を彷彿とさせる瞬間はありましたが、どこからどう見てもドロシー嬢でした」
「⋯⋯っ」
「ふふ、見た目って大事ですね。どう見てもドロシー嬢なのに、見た目がロティだから、皆、ロティだと信じてくれたのは、本当に助かりました」
ぐうの音も出ません。
「あ、大丈夫ですよ。昨日も言いましたがエリオットの奴は全く気付いていません」
昨日も思いましたが、アイザック様は他人を慰めるのがお得意ではないようです。
「で、では⋯イチャイチャスキンシップが激しかったのは、ロティらしさを演出する為の、必要な行為だったと言うわけですね?」
「それなんですけどね。イチャイチャ出来ればもっと信憑性が増したんでしょうけど。流石にロティの姿とはいえ、ロティ以外の女性を相手にイチャイチャするのは僕も気が引けまして⋯」
え?
「イチャイチャ⋯してました、よね⋯⋯?」
「え?してないでしょう??」
⋯⋯⋯え?
「で、ですが!⋯手を握ったり、髪や頬を触ったり、お膝に座らせたり、⋯しました、よね?」
「はい、しましたね。仲良しアピール」
「なかよ、え、⋯イ、イチャイチャでは⋯⋯」
「イチャイチャは、していません」
何ということでしょう。
あんなに恥ずかしい思いに耐えたアレやコレやが、イチャイチャですらなかったなんて⋯⋯
「えええっと、あの、非常にお聞きし辛い事なのですが、大変つかぬことをお聞きするのですが⋯っ」
「はい、なんでしょう?」
「アイザック様と、私、は、その…ロティを裏切るような関係、だった、なんてことは⋯」
「え?そんなのないですよ」
あははと笑うアイザック様。
「⋯⋯⋯ですよね」
「どうしてそう思ったんですか?」
「⋯ロティの記憶なのか私の記憶なのか、覚束ないのですが。⋯アイザック様、「ロティを裏切る事になっても自分の思いを貫く」などと仰いませんでしたか⋯?」
ロティを裏切る事になっても、などと言うセリフを本人に向けて言うとは思えません。
そうなると、私ドロシーの記憶と言うことになってしまう訳ですが⋯。
どうか、どうか私の思い違いであって下さいませ⋯⋯っ
「うーん?⋯⋯あ、ああ、はい。言いましたね」
「言ったんですか!?」
「はい、ロティに」
「ロティに!!?」
「うーん⋯。それを説明するには、ドロシー嬢にはちょっと衝撃的かも知れない話を聞いてもらわないといけないのですが。⋯大丈夫ですか?」
これ以上、衝撃的なお話があるのですか⋯⋯⋯⋯




