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どうしましょう、大ピンチです。
ウォルター様に、ロティの身体の中身が、私ドロシーだとバレてしまったかも知れません。
更に更に、どう言うわけか、アイザック様が何か企んでいるなどと誤解させてしまった模様。
「⋯えっとその、ウォルター様ったら、何やら誤解を?されていましたが⋯。ふ、不思議ですね?どうして私がお姉様だなどと⋯」
恐る恐るアイザック様を伺うと、少し拗ねたお顔で覗き込まれてしまいました。
「ロティ?先輩の言う事は聞かなくて良いって言ったのに」
「そ、そそそ、そう言う訳には⋯」
「ふふ。本当にロティは優しくて可愛い。あーあ、妬けてきちゃうなあ」
そう言って両手で私(ロティの身体)の顔をつつみ込んできます。
あ、大丈夫そう。
アイザック様には気付かれていないようです。
とは言え、ウォルター様の「ドロシーを演じてる」発言を蒸し返されないためにも、こちらから別の話題を振るのが良さそうです。
「ええと、そう。どうしてウォルター様は先生に気を付けて、などと言ったのでしょうか?何かご存知ですか?」
「んー?ヤキモチじゃない?」
アイザック様。世の男性の皆様が皆様、アイザック様のようなお方ではないのですよ。
「ロティ?僕が何かご存知だったとして、それを言わずにただ「先生に気を付けて」って言ったら、どう思う?」
「⋯⋯⋯⋯ヤキモチだな、と思います」
「ふふ、ほらね」
アイザック様は綺麗な笑顔で、愉快そうに私(ロティの身体)の頬の感触を楽しんでいます。
中身が私ドロシーだと疑われないためには、頬くらい触らせてあげるべきなのでしょう。
「では、先生は、どうして⋯、その、嘘をついた⋯のでしょうか⋯?」
「嘘?」
「その⋯、あの日、わた⋯、あ、姉と、⋯会っていないって」
昨日から考えても分からなかった、もとい、考えれば考えるほど悪い考えが浮かんでくる疑問を、ようやくのことで、アイザック様に吐き出します。
「んー、それは。⋯先生が嘘をついたとは限らないよね?」
「え?だって⋯」
思いもよらない返答に頭が混乱しています。
先生は嘘をついていない?どういうことでしょう⋯
「ドロシー嬢の待ち合わせの相手が先生だと確定しているなら、先生が嘘をついていることになるけど。でも、そうじゃないよね?」
「そ⋯⋯です、ね」
「それとも何か、相手が先生だって言う証拠でも見つかった?」
「いえ⋯」
ただ、私ドロシーが待ち合わせをする相手は先生しかいないと、そう確信しているだけで。
けれど、それだけでは証拠にはならないですし。
そもそも私がドロシーだとアイザック様は知らないから、こんな事を言っても信じてもらえない訳で。
たけど、何でしょう。
この、試されているような、何かを聞き出そうとされているような、この落ち着かない感じは⋯
アイザック様は本当は気付いていて、私から言わせようとしている⋯?
「それに、さ?本当に先生と待ち合わせをしていたとして。会えなかった、と言う可能性もあるよね?」
「それ、は⋯」
「先生と会う前に、⋯⋯とか、ね?」
アイザック様は言葉を濁して、その代わりと言わんばかりに、頭を背中を優しく撫でてくれます。
分からないです。
どうしてこんなに優しくなさるのでしょうか。
私を疑っているのでは、ないのですか?
「うーん、とにかくさ。先輩の言う事は聞いちゃダメだよ?」
どうしましょう。
急に何だかものすごく色々と不安になってきました。
先程生じたザワザワした感じ、いえ、本当はずっとどこかで感じていた様な…違和感がまとめて押し寄せてくるような⋯⋯
「⋯えと、そう言えば⋯、せ、先生⋯、も、私と話して、姉を思い出す、と⋯、そう、仰っていました⋯⋯」
どうしましょう。どうしたらいいのでしょう。
中身がドロシーだとバレないように、疑われないように⋯
「ちょっとした表情がソックリだって言ってたね」
「ア、イ、イジー⋯、も、⋯そう思いますか?」
ドロシーだと疑われたら…バレてしまったら⋯⋯
まってください。
中身がドロシーだとバレると、何がいけないのでしたっけ⋯?
「んー?いいや、全然?似てないよ?」
本気でそう思っている顔です。
本当に?
本当に気付いていないのですか?
「そ、⋯ですか、そうですね。エリオット様も、そんな事は仰いませんでした」
「あいつは、ロティの事を全く見もしなかったからね」
それは。それでは。
どういう事になるのでしょうか?
アイザック様は?
気付いているのですか?
気付いていないのですか?
こんなにロティを大好きなアイザック様が。
気付かないなんてこと、あるのでしょうか?
気付いているのなら。
なぜ、何も言わないのでしょうか?
なぜ、中身がドロシーなのに。
こんなにベタベタするのでしょうか?
「ロティ?⋯今日は長く外に居たから、疲れちゃった?」
中身がドロシーなのに
どうして
そんなに優しい瞳で愛おしそうに見てくるのでしょうか?
「続きは明日にして、帰ろうか」
「明日⋯」
何か、違和感が⋯
こんな違和感を抱えたまま⋯
明日もアイザック様と?
明日も一緒に行動をして、大丈夫なのでしょうか?
アイザック様を信用して、大丈夫なのでしょうか?
「ロティ?」
「⋯あ、明日も、イジーと居られるなんて。嬉しい」
「!⋯ロティ、⋯⋯ふふ、僕もだよ」
「!!!!!」
アイザック様。今⋯⋯
「ふ、うふふ⋯ふふふふふっ⋯⋯」
「ロティ?」
今、一瞬、口づけをなさろうとしましたね。
「ふふふふふっ⋯⋯」
アイザック様は、本当にロティが大好きなのですね。
そうですか。そうでしたか。
アイザック様は、私ドロシーがロティの身体に乗り移ってからと言うもの、唇はおろか、頬にも額にも、手にすら、口づけをなさいませんでした。
それは、私が、ロティの中身が、ドロシーだと気付いているからですよね。
アイザック様。
どうして、気付いていないフリをなさるのですか?
あなたは、何を隠しているのでしょうか⋯⋯?




