11 sideウォルター
俺はウォルター・キンバリー。
ドロシーとシャーロットの姉妹とは、小さい頃によく遊んでた幼なじみの仲だ。
ドロシーは小さい頃から控えめでちょっと抜けた所がある、素直で純粋な、恥ずかしがりやの女の子だった。
キツく見られがちな外見を本人は気にしてたけど、俺はカワイイと思ってた。
だけど、お互いに貴族としての教育が始まる頃には、小さい頃の様に会うことも減ってしまった。
更に、俺が研究に時間を取られるようになったこの数年は、学園でドロシーを見かける機会すら減ってしまった。
一方、シャーロットは初めて出会った時から気に入らなかった。
相手によって、まるっきり態度を変えるあいつを、最初は猫かぶりか八方美人なんだと思った。
その内に、あいつは「鏡」なんだと思った。
下手に来る相手には下手に出て返し、高圧的な相手には同じように高圧的に返す。
相手が大人でも子供でも関係ない。
馬鹿にした態度には格上が相手でも馬鹿にして返すし、信頼されればどんな目にあっても信頼で返す。
大きくなるにつれ、それなりに躱す術や隠す事も覚えたよーだけど。
小さい頃は「まんま」鏡として返してたんだから、子供のする事だと見逃してもらうには、かなり危ういもんだった。
人間誰しもが持つ、善意には善意で、悪意には悪意で返すと言った風な、一見当たり前のそれとも少し違う。
あいつの場合はあまりにも顕著で異質で、ある種の擬態のよーな、悪癖だと理解した。
真似るということは、本質を見抜き思惑を見抜くということだ。
隠した本性や感情を暴かれて、いい気はしない。
それを無意識でやってるんだから、尚更たちが悪い。
そして俺に対してどんな態度をとるのかと思えば、「うさんくさい、油断ならない相手」に対するそれだった。
間違いない。
俺があいつに抱いてる印象そのもの、だ。
それが今日のシャーロットは違った。
まるでドロシーを相手にしているよーな感覚だった。
アイザックが気付かねーはずも無いから、あいつも承知の上で演技をしてるんだろう。
何を企んでんのか知らねーが、のってやるもんか。そー思った。
だけど、いけ好かないアイザックは俺のドロシーへの感情を理解した上で、ドロシーのフリをしたシャーロットにベタベタし続けた。
俺の目の前で。見せつけるように。
いい加減イライラすると言うもんだ。
だから乗る気は一切ねーけど、その企みを聞き出してやろーと思った。
そのつもりだったのに。
「シャーロットにドロシーを演じさせて何を企んでる?」
「ち、違うのです、ウォルター様。私、お姉様を演じたりなど、⋯その、何かご不快にさせてしまったのなら謝ります」
なんだ?
「それから、ア、いえ、イジー、は、何も企んでなどいません。ただ、私を心配して下さっているだけなのです」
なんなんだ、やめろって
「それから。その、先生⋯のこと、も。その、ご忠告痛み入ります。ウォルター様にまでご心配をお掛けしてしまって、その、申し訳ないです。⋯そうですか、そうなのですね。警戒、⋯はい、頑張ります」
もうやめろ、やめてくれ
ドロシーの表情で、仕草で、言葉で、これ以上俺を⋯⋯⋯
「もういい、俺は帰る」
なんなんだ。
顔も声も、シャーロットのそれなのに。まるでドロシーと話してる気分になる。
きっとあれだ。しばらくちゃんとドロシーに会ってなかったせいだ。
元々、学園でも研究室にいる事が多かったけど、この1年は特に籠りがちだった。
ドロシーがエリオットに困らされてることは、少し前に気が付いた。
その頃には既に、センセイがドロシーに手を貸してた。
もっと早く気が付いてれば、と何度、悔やんだことか。
表立って助けることはしなかったが、エリオットに研究の手伝いを頼んだり、その際に進言することで、ドロシーに近付くのをやめさせてた。
もっと直接助けに入ってれば、何かが変わってたんだろうか。
もっと俺が早く、ドロシーが困ってる事に気付いてれば、何かが変わってたんだろうか。
いや、違うな。
俺は、何かが変わることを望んでなんか、いなかった。
ただ、変わらないでいて欲しかったんだ。
あー⋯、シャーロット。
お前は本当に気に入らない奴だよ。
お前、センセイの前ではあんな顔をしてたクセに。
あんな、⋯昔は俺に向けられてた、ドロシーの顔。
いつからか、俺には向けられなくなった。⋯ドロシーのあんな顔。
そうだよ。
俺に向けられるのはいつからか、尊敬とか、親愛とか、ただのそー言う顔になってしまった。
お前は見事に再現してみせたんだ。
俺に思い知らせるように。
もう、あの頃のドロシーはいなくなってしまったのだと。




