28.ナレーターはかく思ひけり
ナレーターは思った。
全速の馬車に突っ込むなんて馬鹿なことするのか、と。
でも、少し耐性がついてきたナレーターはすぐに場面の変化についていく。
「ギリギリ生きていてよかったなっ」
白髪の女性が残骸(元馬車)の中から、二人を取り出す。
「それにしても全く失礼なやつだったなっ。誰が捕まえたら皆殺しにするってんだっ」
いま、現に酷い目に遭っているのでは、とナレーターは思った。
よく考えた後に、ナレーターは思った。
あの全速の馬車の中の会話、聞こえていたのか、と。
女性は残骸から紐を見つけ出し、生きているのか怪しい二人をぐるぐるに縛っていく。
ナレーターもちょっとかわいそうだなと思ったが、できることは何もなかった。
「どうやら、しっかりと誘導できていたようですな」
燕尾服を纏った老紳士が現れた。
「おうっ、しっかりと捕まえておいたぞっ」
「それはそれは。ただ、残骸はどうしたものでしょう」
軽い衝突事故である。
「それなら、任せてろっ」
女性はそう言うと、無詠唱で水魔法を発動し、周囲を洗い流した。
女性の水魔法はレイという少年が唱える何十倍もの規模であった。
「うむっ。雲行き的に、これから数日は雨であるし、これで問題なしっ」
んな馬鹿な。
雨が降ってもこうはならんだろ、とナレーターは心の中でツッコミを入れた。
「にしても、爺はまだ現役かっ。私ですら引退しているのだっ」
「いえ、しばらくは現役かと。少し人が足りていなくてですね」
「そうかっ。私も四ヶ月前に駆り出されたしなっ。王女の騒動が落ち着くまで、しばらくこのままかっ」
「いえ、今回の件が国内で最後だと思われます」
「まあ、私たちが政治に口出すべきことではないがっ、もう少し上手にやって欲しいものだっ」
「ええ、『鴉』の一員としては、そう願うばかりですな」
「それでっ、今回の首謀者はっ?」
「ええ、ゾロース子爵は転地、彼の子飼いたちは軒並み降爵で決着ですな。王女の後見と御付きが軒並み暗殺に加担するとは」
「もう一度選び直しかっ。国王は舐められすぎているんじゃないかっ。ガツンといってくるかっ」
政治に口出ししないっていってませんでしたっけ?
「これは、文句だっ。私と国王の仲だっ。言ってやるぞっ」
どんな仲なんだよっ、とナレーターは思った。
夜はどんどん更けていった。
あと数話で主人公に戻ります。




