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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
187/188

これは事実の指摘です

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


ヒト姿に戻るのは、それほど困難なことではないのですよ。ちゃんと崇敬してたら。

(元のヒト形態に戻してください、元のヒト形態に戻してください、元のヒト形態に戻してください……)


 唱えながら、額の真ん中の光に向かって意識を集中する。

 元のヒト形態に戻してください……って!


 周りの「おおー」という感嘆が耳に入って、アタシはゆっくり目を開けた。高さがちょっとちがう(幻獣のときは頭ひとつぶんくらい上だった)ね。そして見下ろすと、衣類も装備もちゃーんとそろった状態。


 神様、ありがとうございます。


 安堵のため息をついて、改めて空いてる椅子に腰かけつつ、テーブルに『なんでも入るバッグ』を載せた。大丈夫だとは思うのだけど。蓋を上げて、エイヤッと手を突っ込んでみる。

 まずは財布を掴む。持ち上げる感触は、増えても減ってもないみたい。

 他の色々……変装道具とか罠解除道具とか、そういういろいろもちゃんと入ってる。

 その辺が全部顔に出ていたみたいで、お茶を注ぎながらカーリお姉さんは


「大丈夫だって言ったでしょー」


 とにこにこ。カップを受け取って、アタシはようやく『ヒト形態』の感触をしみじみ味わうことができ……


「……無事マーエさんはヒト形態に戻れたし、来てくれるのかな。」


 ……なかった。


「はぇうぁあ!」


 お茶をもらってすっかり脱力してたけど、わ、忘れてないよセイランさんの事。てか頼まれてたこと。


「はいはい書類仕事ね、うん大丈夫できるよ行きます行ってきます!」

「いってらっしゃいー」


 お姉さんは、やってきた猫を撫でながら手を振る。

 いい笑顔に見送られて、出かけたのだった。



 『祖獣の宮』をでて、畑、倉庫、家、倉庫、工房、家、それに家……と歩いていくと、最初に見た大きな家の隣の家に案内された。セイランさんが言うには、ここは村の事務所と呼ばれているんだって。


「今日は森林探査の報告書整理に使われている。ここで、一緒に作業してほしいの。」


 軽くノックしてから入ると、大き目の会議室に、縦長の大テーブルが3つ。テーブルの一番手前には雑多に積み上げられた紙と木簡の山。ざっと紙が1に対して、木簡が2くらいの割合に見える。

 大テーブルのうち、壁沿いの二つは、テーブルの長辺に沿って、4人が互い違いに座っている。いかにも文書整理に慣れてる風な人も居れば、シノビさんみたいな服装の人も居る。

 それぞれの手元には小さな書類山、ペン立て、インク壺、吸い取り用の布、綴じる用の紐やら穴あけ用の小さな錐といった文房具が置いてあって、それとお茶の入ったカップや、かじりかけの軽食も。

 ドアをくぐりながら脇を見ると、入り口横にはいい匂いのただよう長テーブルがあった。チャパティが雑に入れてある籠、クレナシ蕪の酢漬けが入った鉢、キエヌンの糖蜜漬けが入った鉢、そして一抱えくらいある大きなお茶のポットと、未使用のマグカップがいくつかあった。


 大テーブルの一番奥の壁際が、責任者らしい席。一番高い山があるし、足元にも卓上にも報告書の入った木箱がある。

 中央の大テーブルだけ、奥は空席で、セイランさんはさっさとそこに歩いていくからアタシもついていく。その席に一番近い椅子も、ちょうど空席。

 道具一式が揃っているのを確認しながら、椅子を引いたとき、隣の大テーブルの責任者がふと、顔をあげてきて、何故かアタシと目が合った。顔そのものは木製の仮面の下だけど、目が。


「ああ。連れてくるという助っ人はマーエだったのか。」

「リクミさんもここでお仕事してたんだ。」

「シノビの頭《かしら》というか管理職でさ。」


 アタシは頭の中で「ヒト形態に戻れてよかった神様ありがとう」ばかり考えてて、すぐ言葉が出てこなかったから、ちょっと肩をすくめた彼が、爆弾発言を放り投げてくるのをどうにもできなかった。


「幻獣姿も迫力あったけど、ヒト形態のほうがかわいいな。」


 え、この方は今、面と向かってかわいい、……って言いましたかあああ!?


 その瞬間にいくつかの事態が起きた。


 まずひとつ、向こうのテーブルで。両手に木簡を抱えていた書記風の格好のひとが、何故か空中に木簡を放り上げた。


 ふたつ、セイランさんが座ろうとした態勢の途中で、中身が入ったままのマグカップにゴツッと手をぶつけてカップが倒れそうになった。


 みっつ、リクミさんの所のテーブルに着いているシノビさん(合計三名)が、目線を交わし合い。

 一人が立ち上がりつつ、空中にある木簡をぱぱぱぱぱっと回収。後ろによろめいた書記の背中を支える。

 二人目がセイランさんのマグカップをはっし、と手で固定した。

 三人目が立ち上がって軽く咳ばらいをするまでに、致命的な事態はもう収拾されていて──そのシノビさん(見覚えあるなと思ったら、カスミさんだった)が口を開く。


「お頭《かしら》、仕事中に告白するのは止めてください」


 一瞬の無音の後、リクミさんは仮面の奥でまばたきして、


「事実を指摘したまでだから、告白とは違う。ほれ、仕事に戻るように。」


 とてもとても冷静にそう言ったものだから。

 カスミさんまで、アタシのほうをまじまじ見てからにっこり笑うんだ。


「成程、事実ですね。それは失礼しました。」


 って言って、自分の椅子にまた腰かけてしまった。


 こ、……ここで、アタシが変に意識した様子とか見せちゃったりしたらイケナイ事な気がしてきて。

 アタシは何とか強張った体を動かし、椅子に腰かけて、お仕事しますよー、な顔を作り、セイランさんに


「では、手順を教えてもらえますか?」


 と尋ねたんだ。

 耳の後ろが熱くなっていたけど、気にしないことにする!

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


その頃、リクミ氏は何食わぬ顔(というか仮面)で仕事を進めつつ


(しまったーー! ウッカリ! ポロリ! してしまったーーー!)


内心でのたうち回っていたのでした。

部下達は、『目と目で通じ合う』系のなにか遣り取りをしています。


お読みいただきありがとうございました。

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