悪筆、それは考える速度で書こうとするから
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
自由度の高いTRPGだと、シティアドベンチャーを中心に考えるかダンジョン探索を中心にに考えるかで、盗賊のスキル習得は悩みますね。
マーエは主人公なので、悩む必要がありませんでした。教えられたことは全部身に着くから。
ここでの仕事は、山に入った偵察隊からの報告書の確認。有用植物のあれやこれや、モンスターの群れとの遭遇といった書類を見ていく。
特にモンスターと遭遇した系の書類は、急いで書いたのか達筆なのか、読みづらいのがおおいな。考える速さで書こうとすると、よくこういう字になるんだ。
セイランさんから手順と、修正の書き方を教えてもらって、最初の3回くらいまではね、
「悪…達筆な文字、この読みで合ってるか?」
をセイランさんに見せて了解もらってから、木簡削るなり修正用のインクで添え書きするなりして、『確認済み』にしたのよ。
それが4回目の時、セイランさんはにっこり笑ったんだ。
「マーエ。余程自信の持てない時以外は、自分の裁量で確認済みにしても良いです。」
こんな風に正しい字の見極めがサクサクできたので、周りが木簡二本をやりおおせるころ、アタシは三本終わるくらい。初心者ながら、これは順調ではないかな。ふふーん。
と調子に乗っていたら、横から。
「マーエさーん、この字って『3』?『8』?」
「これは『8』」
「済みませんこっちも。これは『パリ』なのか『バソ』なのか」
「『ハツ』ですね、点の部分がくっついてるだけ」
達筆文字の判読を、アタシに聞きに来るひとが続出。
「何でみんなしてアタシに訊くの?」
別に不満って訳じゃない、でも少し不思議。
「だってマーエさんが読み取り正確なんだもんー」
「速くて正確、これって良いことなんですっ」
「そーそー」
と、書記及びシノビの皆さん。セイランさんまで頷いてる。
「皆も、気になるところをマーエに見てもらうといい。」
挙句、隣のテーブルのリクミさんまで覗きこんで来て、
「うん、合ってる。責任者サインはしておくから、ぜひお願いしよう」
とまで言い出すので!
「あっうん、任せて!」
やる気がでてきてしまった。
気になる相手から、仕事出来るって思われるのは、とても、とーっても、気分が高揚するよね!
これも師匠の教えのお陰です。
小さいころから手先が器用で、戦闘よりも罠の探知や解除とかに興味を持っていたアタシに、
「盗賊やるなら、色々できなきゃいけない。アンタがやるっていうなら、とことん教えるよ」
と言ってくれたのは覚えてる。その『色々』の中身に、歴史や古典や流行り文化や上流社会のマナーあれこれ、さらに『文書偽造』もあっただけで。
単に筆運びのくせを覚えるだけじゃなく、元の書き手が何を意図してどう省略した、何故こういう悪筆になるか、まで理解できなきゃいけないとか、色々。
そういうのも知れば知るほど面白くなったから、習ったし覚えちゃったんだ。
心の中で「師匠に手土産」とメモしていたら、壁の向こうから鐘の鳴る音が数回して、皆が作業をまとめ出した。顔をあげると、セイランさんもインク壺に蓋をしながら、
「さ、昼食休憩としよう。鍵を閉めるから皆、出る準備をお願いします。」
と皆に聞こえる声で宣言してる。
なら……昼食休憩なら、リクミさんのこと誘っても、何一つ不自然ではないよね。仕事とは別枠のやる気が出てきたぞ。
何と言って声をかけよう。
そう考えてしまった数鼓動のうちに、アタシの腕に誰かが触れた。女シノビの、カスミさんが。
「マーエさん、よろしかったら昼食を一緒に行きましょう?」
気安い感じの声と、裏腹な感じの目の鋭さに押されて、アタシは「うん」と頷いてしまったのだった。
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
次回は女子トーク回の予定です。
お読みいただきありがとうございました。




