報告は以上です
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
幻獣は魔獣と違い、かなり『知的生命体として意思疎通ができる』存在です。
そうかといって正義の味方とは限りません。個々には個々の自由意思があります。
今この状態で戦うとなったら、アタシにできることは限られてる。
空中だし、背中には息苦しそうにして震えてるひとが居るし。
(一撃で、決めるしか……)
と思ったとたんに閃いたのが、体力一気に使うけど、大きなエネルギーの塊を落として、即離脱って方法。
でも、それを閃いた、やった行ける!って思った途端に、猛烈に嫌な予感がした。
制止される感覚が沸き起こる。
えっダメ!?
この感覚……「殺したらいけない」ってこと?
「うわ!」
バシィ! バキッ、ガガガガガッ!
巨大地虫が伸びあがって、鋭い足爪を振り回してきた。ギリギリで避ける。大きな音は、空振りした爪が落下してった先、四十年は育ってる感じの樹木を引き裂いてく音。
直撃は避けたってのに足先が痛い。あいつの体全体が振りまいてる、黒いガスが当たったのか。だとすると酸とか……何だろこれ?
蹄と毛皮の境目についた黒っぽい物が、痛みを引き起こしてて、気づいた。
これ呪詛だ。
いつぞやの、呪術師が全生命をかけて呪ってやるって振りまいてたアレと一緒。背中で苦しそうにしてる彼女も、呪詛のせいなら納得。ガスなら風で防げるけど、悪意を持って襲ってくる呪詛は防げない。
でも今回、まもりの盾を作れる僧侶はいない。
そして首の後ろから掴んでくるような、「殺してはいけない」という強迫観念。これは神様か、それともアタシ自身の直感なのかはともかく。
仕留め損ねたのを悟った巨大地虫の眼球が、アタシを探してぐるぐるしてるのに付き合う暇はない。
空間をアレして、アタシは草地に戻った。
まずは屋外の水桶のところで、風上から水を桶でざあざあかぶせられた。
でも呪詛は「ジジッ」という音をたてたきりで消えてくれない。
なんだとコイツ。
それよりも、先に吸い込んでしまったシノビさんが、相当苦しそうで。「呪詛がえしは?」「無い」という切迫した囁き声が耳に入ってきてしまって。
アタシには『呪詛の解除』とかそういう能力がないかな?
自分の中を探ってみようと意識を向けると、待ってましたとばかり、たてがみの中の触腕が動き始めた。
ここは変に考えるより、身体が動くように動かしてみるべき、だな。
触腕はするする伸びると、水桶に先端を漬け、水のほぼ真ん中に降りて止まる。
そこに意志のちからを流し込む。呪詛が消えてなくなれ、って。
水が光りだして、白っぽい霧のようなものが湧き出て、すぐ空気に溶けてしまった。透き通って、すごく光を反射してキラキラする水が、水桶一杯に残されてて。
「これ! この水をシノビさんに飲ませるか掛けるかして!」
アタシも自分の足に掛けてみる。
シューッという音をたてて、しつこかった呪詛が消えていく。
きれいになった足をあげて見せると、リクミさんとボリスが即座にそれぞれ手桶にとびついた。横たわって震えてるシノビさんの、右と左からざっぱーんとかけて……
「さ、さ、寒い!」
シノビさんが元気に跳ね起きて宣言してた。
彼女が元気になったので、アタシは一安心。触腕を伸ばしてシノビさんの肩に置くと、もうひとつの『ちから』を使った。以前に僧侶が見せてくれた、水の領域の神様のちから、
「水よ出ていけ」
ぽたぽた垂れてた水滴がさっと消えて、布地がふわんとする。アタシも自分の肩に触れなおして、同じようにすると、毛皮がふわふわに。
もふっとした感触を取り戻したたてがみを、カーリ姉さんがすごくいい笑顔で見つめてるのは、気が付かなかったことにしよう。
まー、予想通りってことか。
アタシの『ちから』ってこれ神様……なんて聖名だっけ、あ、≪深淵に眠る御方≫由来だ。水と夢の神様っていうだけある。でも多分無尽蔵じゃない。アタシ自身の体力使うし、お腹もちょっと減ってる感じがする(さっき朝ご飯食べたのに!)。
さて、状況報告だ。
「……殺したらだめって直感があったんだけど、呪詛ふりまきまくって簡単に近づけない」
「確認ですが、最初はマーエさんたちを発見できなかったんですよね?」
≪ミズスマシ≫から桶に水を補充する傍ら、テイ=スロールが確認してきたので、アタシは頷く。
「あれは自分の呪詛に視界を遮られてたんじゃないかな。でも、ひとの目玉みたいなのがでてきたとたん、アタシを見つけた」
「推測ですが、オーラを見たんでしょう」
「オーラ?」
「アストラル側から見ると、マーエさんは大変眩しいのです。青白い、小さな太陽のように見えます。」
「困ったな」
盗賊は身を隠したりするのができて当然なのに、幻獣姿だとその辺の魔術師や僧侶やらには、松明を焚いて飾り付けたみたいに見えるってのは。
いただけない。
でも今すぐ、アストラル側の姿の隠形を練習し始めてモノにするって訳にもいかないや。何しろ、
「自分の呪詛で普通の視界が遮られてるんだとしても、『ひとの目玉』が出てきた途端、アタシのオーラが見えたってことだね」
という推測。
でもそのうちに枯れ果てた樹木の間から、這い出して来るに違いない。
予測の上に、もうひとつ確認を重ねる。
「それでね、お父様」
「……何です?」
ちょっと身構えるボリスに、アタシは訊いてみた。
「カラジ、あの追放したやつ──」
やだやだ、舌に名前を乗せると嫌な味がする。
「──が処刑されたのって、もしかしてなんだけど、あの呪詛出現のちょっと前なんじゃないかなって」
何故それを、と顔がこわばってるボリスの脇で、小さく頷いてる木の仮面。
「その通り。何か思い当たるところがある?」
「うん、直感だけどね」
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
こ、今度こそ次回は戦闘回になる予定です。
お読みいただきありがとうございました。




