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残り銀貨500枚からの再スタート  作者: 切身魚/Kirimisakana
179/189

カノジョを乗せて山へゆく

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


 女シノビさんはコードネーム『カスミ』と言います。

 ウィザードの歩いてくる後ろから、大質量の『ソレ』がやってきた。

 ウィザードがゆっくり歩くのとほぼ同じ速さで。

 のったり、べったりと。

 這うっていうか、回転してるというか、何かしら動きながらやってきたのは。


「巨大スライム?」


 アタシのコメントに、カーリお姉さんはふふっと笑った。


「んー、そうとも言う。でも役目をもらってその仕事に特化してるんだよ。」


 カーリが言うには、他にも≪コエガタメ≫とか≪カネヒネリ≫とか色々いるんだって。

 で、役目を教え込むためにはすごく集中して何かを作る必要があって、その作業にメバルさんはかかりきりらしい。

 つぶれた饅頭みたいな、薄白い色のスライム(家が二軒入りそうなでかさ)が、テイ=スロールの杖の先端でチラチラしてる光をめざしてやって来る。

 ん? チラつく光になんだかパターンがあるな。あれが特殊な伝達方法ってことか。


 そんなことを思っているうちに、≪ミズスマシ≫は草地に乗り込んで、そこでひとつ震えると、停止してしまった。

 アタシが戻った時の洗い流し対策は、これで準備できまして。

 森の道を開くのはカーリ。ボリス、ヨアクルンヴァル、リクミさんで護衛を担当しながら、山裾まで一緒。道を開いたら、護衛されながら退却する。

 アタシは一気に道を駆けて(空間跳躍もするよ)、偵察。なんだけど、もう一人のシノビが女性で、風の精霊使いでもあるからと、アタシに乗って一緒に偵察することになる。


「一定時間呼吸を止める技は習得しております。風を操り、毒ガスを防ぐこともできましょう」


 自信ありって感じの言葉と一礼。これなら助かる。冷水かぶりもしなくて済むかもしれないのは嬉しい。

 一方で、巨大スライムに指示できるのはテイ=スロールなので、ここで待機。


「それじゃいくよー!」


 カーリが歩いてくるのに合わせて、森がふわふわというか、樹木がそれぞれに幹をよじったり、葉っぱを揺らしてるのが視える。風に揺れてるとかそういうんじゃない、ヒト形態なら「やっほー」って手を振ってる感じ。

 カーリ本人からも、暖かい空気がふわっと漂っていって……違った、これ霊気だわ。幻獣になるとこういうのも視えるんだ、不思議。

 霊気が、樹木の間に流れていく間、お姉さんはにこにこ笑いながら、手を森のほうへ伸ばして突っ立ってるだけ。

 アタシのもう一つの視覚には、霊気がとんでもない速さで樹木の間を走り抜けてくのが視える。樹木の間を抜けながら、樹木から立ちのぼる『気』と混じり合って、さらに大きく広がって、もっと奥まで、斜面を駆けのぼっていく。

 そろそろあの毒ガスが立ち込めてる場所に届くかな、って推理したころあいに、森が動いた。

 低木や草が、大きな樹木の根に乗るようにくっつく。

 大きな樹木は、小さな植物たちを根に載せたまま、豪快に根を動かして、地上から空中へと全体を持ち上げる。

 それはもう、声が出せたら「よいしょ」って聞こえそうな感じで一斉移動して、それはもう、あっという間に真っ直ぐな道が開けてしまった。


 ふう、とカーリが息を吐くと同時に、開けた道との間に前衛3人が入る。

 アタシは背中に乗った(とっても軽い)シノビさんに、たてがみを掴んでもらうと、力を込めて地を蹴った。


 これで三回目、だいたいの感じは分かってる。

 樹木たちと混じってるカーリの霊気のお陰で、視界を越えた場所の様子も『視えて』る。一蹴り目でほぼ4/5くらいを跳躍して、一度着地。背後のシノビさんに、風の精霊に呼吸できる空気を守ってもらうよう、毒ガスを近寄らせないよう、お願いしてもらう。

 風が動き始めるまで、ちょっと呼吸を整えつつ。霊気の乱れてる前方に、もう一つの『視覚』を集中する。

 この場所から約10フィート先あたりから、樹木たちの気と霊気の調和が急に乱れてる。今まで二色のリボンがきれいに螺旋を描いて流れていたのが、そこで突然絡まって引き裂かれてるような。

 そして、気の流れを『引き裂いて』いる場所には、薄暗い気配がわだかまってる。


 なんだろう。この視覚で感じる「薄暗さ」って、何が見えてそう感じるのかな……。


「ご用意できました」


 背中からシノビさんの声で、思考をいったん中断する。

 何を見ることになるか?

 そりゃ、行ってみればわかるよね。


 アタシの周囲にだけ、球の形をした風の壁ができてるんだ。しかも跳躍スピードは全然落ちないのが凄い。

 精霊使いは上達すればするほど、細やかなイメージで精霊に色々やってもらうことができる。このシノビさんが、空気の壁を作ってもらいつつ、外側の空気抵抗も減らすように頼んだんだと思う。

 アタシは直線距離の10フィートを、地面からも同じくらいだけ浮いた場所目指して、跳ぶ。

 落下するより速く空間のアレをナニすれば複数回跳躍もできる。

 だから多分大丈夫……なハズ。


 上空から見下ろしたのは、灰色の煙のようなガスのなかに、さらに黒い何かが渦巻いてる空間だった。黒い、って言っても光沢のある、ああよく居る地虫かなって感じの。でも大きい。さっきの巨大スライムよりは小さいけど、それでも長さ20フィートの楕円形に見える胴体。胴まわりは丸太のように太い。その下側に、沢山の槍のような足が動いてて、同じ場所をぐるぐる円を描いているようだった。

 頭部には長い触覚が二本と、両脇に黒いガラス玉みたいな目が二つ。

 魔獣化っていうか、巨大化した地虫?


 そう思ったとき、同時に二つのことが起きた。

 ひとつは、


「うっ?!……ぐうッ」


 背中にいるシノビさんが、ぎゅっとたてがみを握って、苦しそうに咳をする。

 そんな。

 空気の壁があるから、って思ってたのに。


 もうひとつ。


 地虫の目玉が、怪しげな赤い光を放った。光が薄れると、それはヒト形態の『眼』のように、白目と瞳のあるしろものに変化してた。赤い光は薄っすらまとったまま。

 それはアタシを真っ直ぐ見つめ、


『ヴギィルエエエエエ!!』


 と、とんでもない叫び声を放って。

 アタシは空中でバランスを崩した。

手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。


 次回は戦闘回になる予定です。


お読みいただきありがとうございました。


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