カノジョを乗せて山へゆく
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
女シノビさんはコードネーム『カスミ』と言います。
ウィザードの歩いてくる後ろから、大質量の『ソレ』がやってきた。
ウィザードがゆっくり歩くのとほぼ同じ速さで。
のったり、べったりと。
這うっていうか、回転してるというか、何かしら動きながらやってきたのは。
「巨大スライム?」
アタシのコメントに、カーリお姉さんはふふっと笑った。
「んー、そうとも言う。でも役目をもらってその仕事に特化してるんだよ。」
カーリが言うには、他にも≪コエガタメ≫とか≪カネヒネリ≫とか色々いるんだって。
で、役目を教え込むためにはすごく集中して何かを作る必要があって、その作業にメバルさんはかかりきりらしい。
つぶれた饅頭みたいな、薄白い色のスライム(家が二軒入りそうなでかさ)が、テイ=スロールの杖の先端でチラチラしてる光をめざしてやって来る。
ん? チラつく光になんだかパターンがあるな。あれが特殊な伝達方法ってことか。
そんなことを思っているうちに、≪ミズスマシ≫は草地に乗り込んで、そこでひとつ震えると、停止してしまった。
アタシが戻った時の洗い流し対策は、これで準備できまして。
森の道を開くのはカーリ。ボリス、ヨアクルンヴァル、リクミさんで護衛を担当しながら、山裾まで一緒。道を開いたら、護衛されながら退却する。
アタシは一気に道を駆けて(空間跳躍もするよ)、偵察。なんだけど、もう一人のシノビが女性で、風の精霊使いでもあるからと、アタシに乗って一緒に偵察することになる。
「一定時間呼吸を止める技は習得しております。風を操り、毒ガスを防ぐこともできましょう」
自信ありって感じの言葉と一礼。これなら助かる。冷水かぶりもしなくて済むかもしれないのは嬉しい。
一方で、巨大スライムに指示できるのはテイ=スロールなので、ここで待機。
「それじゃいくよー!」
カーリが歩いてくるのに合わせて、森がふわふわというか、樹木がそれぞれに幹をよじったり、葉っぱを揺らしてるのが視える。風に揺れてるとかそういうんじゃない、ヒト形態なら「やっほー」って手を振ってる感じ。
カーリ本人からも、暖かい空気がふわっと漂っていって……違った、これ霊気だわ。幻獣になるとこういうのも視えるんだ、不思議。
霊気が、樹木の間に流れていく間、お姉さんはにこにこ笑いながら、手を森のほうへ伸ばして突っ立ってるだけ。
アタシのもう一つの視覚には、霊気がとんでもない速さで樹木の間を走り抜けてくのが視える。樹木の間を抜けながら、樹木から立ちのぼる『気』と混じり合って、さらに大きく広がって、もっと奥まで、斜面を駆けのぼっていく。
そろそろあの毒ガスが立ち込めてる場所に届くかな、って推理したころあいに、森が動いた。
低木や草が、大きな樹木の根に乗るようにくっつく。
大きな樹木は、小さな植物たちを根に載せたまま、豪快に根を動かして、地上から空中へと全体を持ち上げる。
それはもう、声が出せたら「よいしょ」って聞こえそうな感じで一斉移動して、それはもう、あっという間に真っ直ぐな道が開けてしまった。
ふう、とカーリが息を吐くと同時に、開けた道との間に前衛3人が入る。
アタシは背中に乗った(とっても軽い)シノビさんに、たてがみを掴んでもらうと、力を込めて地を蹴った。
これで三回目、だいたいの感じは分かってる。
樹木たちと混じってるカーリの霊気のお陰で、視界を越えた場所の様子も『視えて』る。一蹴り目でほぼ4/5くらいを跳躍して、一度着地。背後のシノビさんに、風の精霊に呼吸できる空気を守ってもらうよう、毒ガスを近寄らせないよう、お願いしてもらう。
風が動き始めるまで、ちょっと呼吸を整えつつ。霊気の乱れてる前方に、もう一つの『視覚』を集中する。
この場所から約10フィート先あたりから、樹木たちの気と霊気の調和が急に乱れてる。今まで二色のリボンがきれいに螺旋を描いて流れていたのが、そこで突然絡まって引き裂かれてるような。
そして、気の流れを『引き裂いて』いる場所には、薄暗い気配がわだかまってる。
なんだろう。この視覚で感じる「薄暗さ」って、何が見えてそう感じるのかな……。
「ご用意できました」
背中からシノビさんの声で、思考をいったん中断する。
何を見ることになるか?
そりゃ、行ってみればわかるよね。
アタシの周囲にだけ、球の形をした風の壁ができてるんだ。しかも跳躍スピードは全然落ちないのが凄い。
精霊使いは上達すればするほど、細やかなイメージで精霊に色々やってもらうことができる。このシノビさんが、空気の壁を作ってもらいつつ、外側の空気抵抗も減らすように頼んだんだと思う。
アタシは直線距離の10フィートを、地面からも同じくらいだけ浮いた場所目指して、跳ぶ。
落下するより速く空間のアレをナニすれば複数回跳躍もできる。
だから多分大丈夫……なハズ。
上空から見下ろしたのは、灰色の煙のようなガスのなかに、さらに黒い何かが渦巻いてる空間だった。黒い、って言っても光沢のある、ああよく居る地虫かなって感じの。でも大きい。さっきの巨大スライムよりは小さいけど、それでも長さ20フィートの楕円形に見える胴体。胴まわりは丸太のように太い。その下側に、沢山の槍のような足が動いてて、同じ場所をぐるぐる円を描いているようだった。
頭部には長い触覚が二本と、両脇に黒いガラス玉みたいな目が二つ。
魔獣化っていうか、巨大化した地虫?
そう思ったとき、同時に二つのことが起きた。
ひとつは、
「うっ?!……ぐうッ」
背中にいるシノビさんが、ぎゅっとたてがみを握って、苦しそうに咳をする。
そんな。
空気の壁があるから、って思ってたのに。
もうひとつ。
地虫の目玉が、怪しげな赤い光を放った。光が薄れると、それはヒト形態の『眼』のように、白目と瞳のあるしろものに変化してた。赤い光は薄っすらまとったまま。
それはアタシを真っ直ぐ見つめ、
『ヴギィルエエエエエ!!』
と、とんでもない叫び声を放って。
アタシは空中でバランスを崩した。
手持ち、残り銀で5919(+19000)枚と銅0枚。
次回は戦闘回になる予定です。
お読みいただきありがとうございました。




