結論、そして物語のはじまり
過去を振り返ってカズキが下した結論とはいったい?
そして物語はこの早すぎる結論に待ったをかけるかのように、慌ただしい展開を見せていきます。
「そんな感じだよな……俺と俺がアイアに抱いてた感情って言うのは」
中学生時代なんかを思い返すとモロに思春期してたなーと感じる。
特に恋愛とかについてはモロ中のモロで、一番身近にいる女の子のことをとりあえず意識しちゃう的な、女の子との関係に飢えた男そのものだ。
その時は実際自分がアイアに対して、本当に『恋』していたかどうかの答えは出さないでいた。そしてその中途半端な気持ちのまま高校生となって、今に至るまで想いを掘り起こすことをしてこなかった。
でも覇太郎に言われた通り、ちゃんと過去を振り返ってみると自分の気持ちが段々と整理できてくるような気がする。
小学生の頃は他に特別仲よくしていた女の子がいなかったから、なおのことアイアばかりに目が行っていたということも理由に含まれるかもしれない。
中学生の頃は性への興味から女の子というカテゴリーを強く意識し過ぎていて、その気持ちが身近な異性のアイアに投影されて『恋』だと思い込んでしまっていただけなのかもしれない。
高校生を飛ばして大学生になった今の俺の想いはーー
ーーやはり、下心が先行していて、真実の恋とは呼べないのではなかろうか。
つまり。
「どうしてワキフェチに転んだかなぁ……」
通りすがりの美人OLが手の平で日差しを受け止めるその姿を目に収め、そのワキに目線を集中させながら独り呟く。
昨日のアクシデントで、俺はワキフェチになってしまったということか?
未だに昨日のノースリーブからさらけ出されるワキの質感と匂いが脳裏に焼き付いて離れない。
過去を思い返した結果得られたものは、今までの自分は、思春期を迎える前と後では多少なりとも含む意味に差はあれど、常にアイアに対して特別な感情を抱き続けているということだ。
例に漏れず、今の俺もアイアに対して想いを寄せている。ただ今回特別大きく感じた想いは、純粋な恋心ではなくアイアの生ワキをキッカケとして芽生えた感情だったのだろう。
深く、長いため息を吐く。
昨日アイアの部屋を走り出た時の特別な感情は、ワキへのエロスがほとばしったものだったに違いない。
俺はまだ、純粋な恋を経験したことはない。全て下心をキッカケとした、アイアを異性として見た上での男の生理反応の延長線上に存在する想いだった。
いつしか、下心を抜きにして、誰かに『恋』する日はやってくるのだろうか。
真剣に悩みながら歩いていた並木道で、『ソレ』は急に起こった。
「な、なんだぁ!?」
正面の空間が歪み、亀裂が走った。そしてその割れ目から眩い光線があふれ出してくる。
次第に強さを増す光の眩しさに俺は腕で目を隠すが、何が起こるのかを見届けたいという気持ちで、亀裂より目を逸らすことはなかった。
それほど時間も経たぬうちに、光線に押し出されるよう亀裂を広げていた空間がその圧力にとうとう耐えきれず、パリンッ! と割れて、影が宙に放り出された。
驚き、一瞬身を退こうとするが、とっさに目を凝らしてよく見るとそれは人影のように見える。
「おわわわわわっ!?」
慌てながらもなんとかキャッチをしようと勝手に動いた俺の体は、その人影が落ちるであろう地点に移動して。
突然、暗幕が降りたかのように視界が黒く塗りつぶされた。そしてドサッ! と。
僅かに湿り気の感じられる温かな面が顔に張り付く。
人影の体重が顔面にかかり、首がビキビキと嫌な音を立てた。急速に後ろに倒れ込む中でとっさに顔を横に逸らそうとするが、何か柔らかな感触に遮られて上手く動かせない。
完全に顔面が密着して息ができない。同じような状況が直近であった気がするが、咄嗟にその記憶を探ることもできなかった。
俺の上半身は俺の顔を潰すナニかの重さに負けて、後に反り返り倒れ込む。その先で、ナニかと歩道のブロックの間に挟まれて後頭部を強打し、今度は意識まで真っ暗になった。




