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俺が好きなのどっちなの!? 『生ワキ』それとも『あの娘』だけ!?  作者: カプサイシン
1章 『恋』ってなぁに?
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幼馴染の部屋で(2)

奥華子を初めて聞いたのは中学生の頃。

『変わらないものさがしていた』

という歌詞に心震わされたのを覚えています。

 そして1時間後ーー、


「……で? もう帰ったら?」

「あと1巻……」


 アイディア出しが一向に進まずに心身が疲れ果てていた俺は再びゴロゴロしながら漫画を読みふけっていた。


 アイア自身も学園祭の出し物なんてもうどうだっていいとでもいうような様子で、部屋に帰ってきてからずっと読んでいたファッション雑誌? に再度目を落としていた。

 寝っ転がりながら漫画の次の巻を取りに行こうとして、アイアの足の裏が目に入った。靴下は履いていない。俺は寝たままの体勢で何気なくアイアの服へと目を向けた。

 

 今日は白のノースリーブに花柄の黒いミニスカートで、ブレスレットもシンプルな細いチェーンのものを身に着けている。こいつは昔からピンク色が好きで、それは今も変わっていない。カーペットはピンクで掛布団の色も淡いピンク色、カーテンもそうだった。

 身に着けている物も必ずどこかしらにピンクが存在しているはずだが、しかし表の恰好にはその色は出ていない。


 こういう時は大体、下着だ。ブラやパンツがピンク色なんだろう。


 そーっと気付かれないようにちょっとだけ体をズラし、目線がアイアの脚と平行に近づくように調整していく。チラチラとアイアの脚を隠れ見ながら、その時を待った。


 1分、2分が経過し、3分が経つ。

 どれだけ待とうとも飽きなど決してこないように思えた。


 なぜなら、アイアの脚はいつ見ても綺麗だからだ。

 先程はアイア母に冗談めかして、アイアは『美脚』だとか『膝枕してほしい』だとか言ったけど、正直なところ全部、俺の中に下心として存在している。

 スベスベな肌質にスレンダーな脚がミニスカートからスッと伸びている。いくら幼馴染とは言えども、これに見惚れない男とかいないと思う。


 そんなアイアの欠点があるとすれば、それは胸だろうか。

 人目を惹く美しい脚の代償なのか、胸の方の成長は一般的な女性に比べかなり劣っていると言わざるを得ない。貧乳、というよりかは微乳? どこにも凹凸が見当たらないのが物悲しい。


 そんなことを考えている内に、美脚は動きを見せる。

 アイアの左脚の上に乗っかるように組んでいた右脚がカーペットに着陸し、逆側の左脚が宙に浮いて今度は右脚に乗る瞬間ーー




 ーーきれいな桜色の布地があらわになり、俺の目はその光景を脳裏に焼き付けた。




 その時。


 悪寒がゾクっと、頭のてっぺんから背筋を走って足の先までを駆け抜けた。


 恐る恐る目線を上にやると、実験動物を見ているかのように冷たい眼差しのアイアに気付いた。

 自分でも自分が凍り付いたのがよく分かる。また、蛇に睨まれた蛙の気持ちがよく分かった。


「あ、あぁ……どうも、ごきげんよう」


 スクッと頭を持ち上げるコブラのように圧倒的な迫力を背に立ち上がったアイアは、これまた鎌首をくねらせるかのように膝を上げーー


「こんのぉッ!!変態がぁああああッ!!!!」


 そうしてめっためたに背を踏んづけられる。容赦なく、慈悲なく、足の裏全体で全体重を乗せての攻撃が体を打ち抜く。


「いったい!! 痛い痛い痛い!! ごめんごめんごめんッ!!!!」


 這いつくばりながら、時折上から降る裁きの鉄槌を(かわ)しながら、部屋の隅へと逃げようとする。


 しかしアイアはそれを許さない。重心のあった膝を足で払い、バランスを失った俺に飛びつく。そしてこれ以上逃がさないように頭をワキに入れ腕でガッチリ固める。

 いわゆるヘッドロックというやつだ。

 しかしーー


 しかし、それは通常のヘッドロックと異なっていた。


 顔の向きは下ではなく、上だった。


 通常が下なのか? と問われれば正直プロレスに詳しくない俺は返す言葉に窮してしまうが……


 いやそんなことはどうでもいい。


 つまり俺の言いたいのはーー




 生のワキが、俺の顔に、密着した。




 鼻先が完全にワキの柔らかい肌で潰され、口も塞がれる。

 耳の辺りには俺の頭を挟む冷たくモチモチとした二の腕と肋骨の固い感触が生々しく感じられ、ワキにペタリと密着した顔には柔らかな温もりがあった。

 そして、柔軟剤なのかシャンプーなのかは分からないがフローラルで甘い女の子らしい香りと、まだまだ残暑の厳しい中を1日活動して汗をかいたのだろう、ほのかに塩っ気のある匂いがない交ぜとなって脳を髄から蕩かしていく。


 うん? ちょっと待てよ?

 蕩かしていく? ワキの匂いで? それって…………異常じゃないか?


 …………。

 …………。

 …………いや、異常じゃない。


 いくら幼馴染とはいえ、その生ワキの持ち主は華の10代の可愛い女の子。

 そんな女子の柔肌に触れるということは、年頃であり女性経験の浅い男にとってはかけがえのないくらい、尊いことだ。


 それは例えば長く干害に苦しめられた大地に恵まれた雨。あるいは帆が張らず、絶望と共に沖へ佇む船乗りたちにとっての神風。それほどの、偉大な感動と希望を含んだものなのだ。


 それを、だ。

 俺は肌と肌どころのちょっとした接触どころではなく、ガッツリと生ワキの下に挟まれて息をして、触覚と嗅覚の両方で生々しさを感じている。

 大いなる奇跡がゼロ距離にある俺の理性は、すでにここにあらず。かといってあれやこれやに経験の乏しい男の野性が目覚めるでもなく、纏まりのない感情が脳で大渋滞を引き起こすだけ。


 しかし俺を追い詰めているのはそんな情欲じみた思考だけではない。

 物理的にもまた、俺は断崖絶壁に追い詰められていた。


 端的に言うととても苦しい。

 息が、できない。

 濡れた紙が平面にぺったりとくっついて離れないように、俺の顔は隙間なくアイアの生ワキに密着しているのだ。


 だから、またとない夢の時間を満喫もできずにジタバタと手足を動かすことしかできない中、その間にもギリギリと音を鳴らして締め上げられる顔は徐々に赤から青へ色を変え、酸欠の体を為し、とうとうワキの下で声にならない声を上げた。

 その「ぶべぇ」とも「ぼふぉ」ともつかない生と死の間を彷徨っているような悲鳴と共に、俺の舌が外へと飛び出す。


 知ってるか?


 俺は今知った。


 首を絞められて息ができなくなると、意思とは関係なく舌が出ちゃうんだ。


 生ワキと、0距離の位置で、舌を出す。




 Q:結果、どうなったか。


 A:ワキを、舐めた。




「はひゃぁっ!!?」


 濡れた感触がワキを刺激したのか、アイアは可愛い悲鳴を上げる。

 そして、その声とは似つかない剛力で俺の体を部屋の端に投げ飛ばした。

 壁に強く頭を打ち付けられ、ついでに首も変な方向へ捻ったことにより生まれた痛みに引き戻されて、かぐわしい女子の香りにかどわかされた理性がようやく平静さを取り戻す。


「痛つつつ……」


 ああ、俺はいったい何を考えていた? 幼馴染のアイアを相手にして。

 マタタビに狂った猫のように錯乱していた先ほどまでの頭とは、(物理的にも)打って変わった冷たい思考を取り戻す。

 大変、大変よろしくない。


「お前さぁ、何も投げ飛ばすことはないだろ……」


 意識して軽口を叩く。

 年頃になってから、直接的なスキンシップはもちろん減っていた。

 それは誰だって同じだと思うが、年を経るごとに訪れるような自然な変化ではない。

 意識的に築いた透明な壁だ。

 その壁の材料はお互いの気恥ずかしさだったり、周りの目だったりするが、それ以上に男と女は別の問題だってある。

 というか、むしろ男の方にーー俺の方に問題が多く、ある。


 男は瞬間的な生理現象が、女性のソレより表に出やすいんだから。


 マズいマズい。考えるな。意識を軽く持つんだ。


 ……ほら、ものすごく貴重な体験をしたと思ったらコレだろ? 幸運と不運は帳尻が合うようにできているとかなんとか言うが、まさしくこのことじゃなかろうか。

 普段サバサバとしていて男勝りなアイアに対して、しばらくぶりに女の子らしさを感じたというのにこんな形でオチがつくとただの笑い話だ。

 今回はちょっと刺激的なボディタッチがあったかもしれないが、今に俺の軽口に反応してアイアのクッション攻撃が始まるに違いない。

 そう思って振り向き、


「なぁ、打ちどころ悪かったらどうするつも…………」


 軽口を重ねるつもりが固まってしまう。

 俺の言葉を止めたのは。

 目線の先にいたのは、いつもの強気で勝気なアイアではなくーー


「………………………………ばか」


 ワキを抑えた格好で自分のベッドに寄り掛かり、真っ赤にした顔で目の端には涙を浮かべて、恥じらいを表に出す、1人の女の子だった。


 両手をワキを庇うように、そして体の前面を隠すように巻き付けている。

 その姿を見て、瞬間。先ほど俺を夢へと誘ったアイアの肌の柔らかさとかぐわしい芳香が思い返されて頭がクラクラしてくる。

 意識をしてしまったからだろうか、スレンダーな肢体に、捲れ上がったスカートから覗く太ももに、恥ずかし気に俺を睨みつける瞳に、俺の心臓は早鐘を打つ。


 胸が熱かった。心臓の動かしすぎか、あるいは。


 交錯した視線を互いに外すことができずに時間は過ぎて、どれくらい経ったか。


「…………何か言いなさいよ」


 呟く言葉に俺は、


「ご、ごめん!!」


 とただ一言を残し、走って部屋を後にした。


 階段を下りたことも、ドアを開けたことも、外が暑いのかどうなのかもわからない、全ての感覚はアイアの中に覗けた女の子に呑まれたまま、ただただ走った。

 

 信号も交差点も全てをすっ飛ばしたのだろう記憶にない。ドアの前に着き家の鍵を探し始める段階でようやく自分を取り戻す。

 滴り落ちる汗が目に染みて、照りつける日差しは容赦なく俺の外側を焼くが気にならなかった。


 それ以上に、内側から湧く未知の熱波が俺を焦がしていた。


 どう対処すればいいのか分からない感情が溢れ、今まで理性が決して許すまいと心がけてきた対象を、その大波で(さら)おうとしている。

 積み重ねてきたもの全てを投げ出してでも、一瞬だけでもこの腕の中に入れたい、そんな気持ちを持て余す。


 明らかに、俺の心の内に新しい何かが芽生えていた。


カズキの内に芽生えた感情とはいったい何でしょうか。

ここからカズキの『暴走(笑)』が始まっていきます……!!

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