学園祭!
夏を思い出させるようなジリジリと肌を焼くほどの日差しが照り付ける。
「ありがとうございましたー!!」
ニーナちゃんの元気な声が、目の前を忙しく行き来する人々の活気の中にひと際よく響いた。
2人の男性はニーナちゃんの美貌に終始目をとろんとさせており、商品を受け取るとだらしなく鼻の下を伸ばしながら手を振って去って行った。
「かなり売れたわね…………」
疲れた、と息を吐きながら言葉を漏らすのはアイア。
「まあ、ニーナちゃんは可愛いから男たちは寄ってくるさ」
香ばしく良い香りを放つ炊きあがったばかりの米を団扇で扇ぎ冷ましながら、覇太郎は当然の結果だと答える。
ただ男性ばかりに人気がある訳でもなく、次のお客は女性たちだった。
「いらっしゃいませ、こんにちは」
「こんにちは~!! 2つもらえますか? パックは1つで大丈夫です」
「かしこまりました。2つで500円になります」
注文を聞いてから精算まではアイアが行う。その注文を聞いて、俺はクーラーボックスからマグロとサーモンの切り身を取り出して適当な大きさに切ってからニーナちゃんに渡す。
ニーナちゃんはすでに『すのこ』の上に海苔に酢飯とその上にきゅうりと卵を載せており、渡された切り身を最後にセットすると慣れた手つきでクルクルと『すのこ』を巻いた。
それを2度繰り返し、1つのパックにまとめてお客へと渡す。
「お待たせいたしました~!! 『手巻き寿司』お2つです~!!」
それを受け取ったお客に再び「ありがとうございましたー!!」と元気よく挨拶すると、その女性客もニーナちゃんを可愛い可愛いと話しながら歩いていく。
日本人離れした美しさと可愛さを備えたニーナちゃんは、男女関係なく人を惹きつけるらしい。
お客が途切れたタイミングでニーナちゃんはペットボトルのお茶を飲み、満面の笑みでこちらを向く。
「人のために何かを作るってとても楽しいですね!! 私、今とても充実してます!!」
それが心からの言葉だと分かるほどの眩しい笑みに、自然こちらの頬も緩む。
「それは良かった。でも突然の出し物の変更だったからどうなるかと思ったよ。実行委員に突然却下された時は悔しかったけど、『手巻き寿司』を提供してみたら結構楽しいしこれはこれで結果オーライってやつかな」
「そうですね~、私としても『ワキおにぎり』が中止になってしまったのは不本意です……。せっかく男たちの爛れた欲望の目を見られると楽しみにしていましたから…………」
「そ、そっかぁ…………」
瞳に暗い影を落とすニーナちゃんに若干引きつつ、その言葉は流す。
お堅い学園祭実行委員長が唾を飛ばす勢いで、この出し物を却下した時のことが思い返される。
学園祭の2週間前、突如として実行委員会の使用する部屋へと呼び出された俺は、実行委員長にチラシを突きつけられた。
「キミぃッ!! こんな出し物認められるわけないだろう!! 何を考えているんだっ!!」
眼前に晒されたチラシは黒を背景に肌色多めのニーナちゃんの艶やかな写真が大きく載っている。
「ワキおにぎりってなんだ!! どう見ても風俗店のチラシにしか見えんわっ!!」
「読んで字のごとくワキで握ったおにぎりですよ! た、確かにチラシはちょっとやり過ぎたかなー、とは思いますけど……。出し物自体はおにぎりを提供するだけですし……、別に問題ないですよね?」
「大アリだっ!!!! いかがわしいことに変わりはないだろうっ!!!!」
結局、この出し物は即刻考え直して翌日までに代案と代わりのチラシを用意すること、さもなくば出店を中止するとの勧告を受け、その日はいつもの4人で覇太郎家に集まり徹夜でチラシを完成させたのだ。
代わりとなる出し物は俺と覇太郎が「寿司系がいい!」と、団扇で酢飯をパンパンと扇ぎ冷ましたい願望から提案し、単純な寿司は持ち運び辛いとアイアが手巻き寿司を推して即決だった。
それからは手巻き寿司の具材は何にするか手配はどうするか、どのように手巻き寿司に付加価値を与えて売れるようにするのかなどを、差し迫る学園祭開始の日にプレッシャーを感じながら怒涛の勢いで決めていく毎日。
大学の講義の合間を縫って準備を進めるとても忙しい日々だったが、今日この学園祭当日を迎えて、そしてかなり良いペースで手巻き寿司が売れていく光景を目の前にして、その日々が全て報われていくようだ。
「ねー見て見て!! 手巻き寿司だって!! こんなのも学園祭で作れるんだねぇ~」
「ホントだっ! しかもお醤油が要らないんだって!! お米に味が付いてるから、なんだ。面白いね!! 買ってく?」
「うんうん!! 買う買う!!」
また女性のお客さんが2人やってきて、2本の手巻き寿司が入ったフードパックを持って笑顔で去っていく。
「しかし、覇太郎が考えた付加価値の案はかなりナイスだったな。シャリに最初に味を付けて、醤油なしで食べられるようにするっていうのはさ」
出汁醤油で炊いたお米を団扇で扇ぐ覇太郎に話しかける。流石に扇ぎ続けて疲れたのだろう、覇太郎は額に汗を滲ませていた。
「そうだろ? ただ全く新しいアイディアってわけじゃないよ。スーパーとかの手巻き寿司でもそういうの売ってるしな」
「そうなのか?」
「ああ。でも学園祭で手巻き寿司を売ってるところなんて見たことないから、種類としての競合はいないし、物珍しさに絶対初見さんがいっぱい来てくれるとは思ってたけどね」
「おお、そこまで考えているとは……。さすが覇太郎だな」
「いっぱい来てくれるのは初見さんだけじゃないと思うわよ?」
横からアイアの声が割って入った。
「具材にも大分こだわったんだから。明日からはリピーターもきっとじゃんじゃん来るわ。今日の3倍は米と具材を用意しておくべきね。今残っているお米は覇太郎が急遽用意してるそれで最後でしょ? まだ13時回ったところなのに、初日でこの売れ行きはすごいわよ」
そう、まだ13時。学園祭のスタートが10時からだったことを考えると、わずか3時間弱で当初予定分が綺麗に消えてしまうという凄まじい繁盛ぶりなのだ。
「3倍でも少ないんじゃないか? 17時までなら4倍でも全然売り切れる気がするぞ?」
比較的売れ行きが少なかった10時から11時の間も、明日はきっと噂を聞きつけた初見さんや昼間は混むだろうと考えたリピーターたちがやってくると思われる。
それを考えると、明日は休む暇が取れないくらいに売れていく気がした。
「だから3倍くらいがちょうどいいのよ。明日も14時か15時くらいに売り切ることを目標にするんだから」
「なんでだよ? それなら17時まで売った方が売り上げが伸びるじゃんか」
「17時ギリギリまで売っていたら、通りがかりの人にそれほど売れ行きが良くないと思われるじゃない。それに私たちが売っているのは生鮮食品を含んでいるのよ? 古くなった食べ物を渡される不安を与えないためにも、一番売れる時間帯に売り切るのが理想なの。さらにこれほど早い時間に売り切れるほど人気があると思ってもらうこと、そして行列と売り切れに阻まれ初日、2日目と手巻き寿司にありつけなかった人々をあえて作ることによって、3日目も安定したお客の流入が望めるわ」
「な、なるほど……。さすがアイアだな」
お客とお店の高度な駆け引きを想定した、とても納得のいく営業戦略だった。まさか学園祭の出し物1つでここまで考えているとは……。
やはり覇太郎もアイアも俺とはモノが違う。
結局、当初の目論見であった今回の学園祭の出し物で覇太郎とアイアを見返すということはできなかったな。
しかし落胆はない。
2週間前、少しでも選択を間違えれば今この光景は無かったに違いない。そう思うだけで、これまでの関係がーー少し進展はあったがーーこれからも続いていくということはこの上ない幸せだ。
俺はこれからもポンコツでスケベで変に行動力のある人間でもいい。
これからは大事な彼女、アイアと一緒に、そのかけがえのない関係の中で日々を楽しく過ごしていければ自分の立ち位置なんてどうでもいいことに思えた。
エピローグは3本立てです。
最後までどうぞよろしくお願いいたします(^_^)/




