2人の告白
更新が遅れてしまった(>_<)
お昼にするように心がけていたのですが・・・
でも毎日更新だけは何としても欠かさない!!
俺の目、その一点だけを見つめ続けるアイアと目が合うのは必然だった。
瞬間、アイアは足下の買い物袋を拾い上げると早足で公園の入り口から去って行く。
「ちょっ……!!」
塞がれた唇を俺が離したのはその言葉を発したその時で。
遅すぎる判断だった。
「ちょっと待って!!」
周りに車通りはなく、人もいない。
騒がしさの対極にある静けさが占めるこの空間の中、俺の声は絶対に届いているはずだ。
しかし、アイアは足を止めない。
俺は未だに上に乗るニーナちゃんを脇に下ろし、立ち上がって走り出す。
俺の急な動きに驚いたような声が聞こえたけれど振り向かない。
アイアを追いかけなければいけない、今はそれだけしか考えられなかった。
公園の入り口からアイアの立ち去った方を見やると、アイアもまた走り始めていた。
アイツは速い。
このまま距離が開けば女の子の足とは言え逃げ切られてしまう。
「アイアーッ!! 待ってくれ!!」
そんな言葉で止まってくれるなんて思わないけど、自然叫ぶ。
そして全力で走る。
追いついたところで言い訳なんてできなくて、現実が変わるわけでもないけれど、どうしても追いかけられずにはいられなかった。
走って走って走る。
段々と大きくなっていくその女の子の小さな肩にようやく触れる。
アイアは諦めたように速度を落として、手を膝について止まった。息は荒く、その速い呼吸のリズムに合わせて丸まった背中が大きく上下している。
「な、なんで……追いかけて……くるのよ……」
「お前が……逃げるからだろ……」
一方でやはり俺も肩で息をしていた。
高校生以来まともに運動をしていないと、身体は大分鈍ってしまうものだ。
それでも趣味で近所の大きな公園を走りまくっていた高校生の頃の体力が少しは残っていたのか、息が整うのはアイアよりも早かった。
「なぁ、アイア。さっきの事なんだけど、さ……」
「……」
「あれはその、」
「不本意だったとでも?」
まだ充分に息が整っていないアイアから、鋭い言葉が返ってくる。
「いや、その……」
「お互い、しっかりと抱き合ってたじゃない……。よかったわね、あんなに可愛い子に好かれて……」
「ち、違うって! そうじゃない…」
「やめて」
異論も反論も認めない、明確な拒絶の言葉だった。
俺はそれ以上何も言えずに押し黙る。
「大体、何必死になってるのよ? そんな必要ないじゃない、私はカズキにとっての何でもないでしょ?」
「……」
それは、間違っていると思った。
でも自分でも何をしたくてアイアを追ってきたのかはっきりとしていなかったから、何も言葉が出ない。
「やっぱり、何でもないんだよね。ただの幼馴染で腐れ縁が続いただけだもんね」
投げ出したような軽さを装った口調で、それが俺を不安にさせる。
ふいにポツリ、と頬に水滴が当たった。
上を向くと、真っ黒な雨雲がいつの間にか空に立ち込めて、小さな雨粒が落ち始めていた。
「でもねーー」
震えた声が聞こえ、俺は再び視線を戻す。
アイアの頬に、一筋涙が流れていた。
「ーー私はカズキのこと、好きだったんだけどなぁ……っ!」
口角だけいやに上がっているのは、泣き顔に無理やり笑顔を浮かべようとしていてだろう。
歪なその表情はしかし、美しかった。頬につたう涙を指ですくいたい、心からそう思ってしまうほど。
その感情が特別俺にだけ向けたものであったから、なおのことそう見えたのかもしれない。
アイアの言葉は深く、俺の心に傷を作る。そしてその傷から流れる血のように、胸に募る感情が口から溢れ出そうとする。
「アイア…………、俺は…………」
俺は、ずっとアイアのことを意識してきた。中学、高校と他の女の子が目に入らなくなるくらい。比較にならないほどアイアが可愛く見えていた、けど。
その頃と俺は全く変わってなくて、未だにその感情を恋とか愛とか、そういう風に表現していいのか分からなくて。俺たちの関係を、自分でも良く分かっていないそれらの感情に振り回されて壊されたくなくて。
ずっと考えることから目を背けてきたんだ。
だんだんと雨足が強くなってくる。
全ての音がこの雨粒に撃ち落されているかのように、地面へ当たり弾ける水の音以外は何も聞こえなかった。
俺が答えなければ何も進まない。
俺が逃げ続けていられた時間はもう過去のものとなっている。
「アイア…………!! 俺は!!」
まとまらない感情を勢いに任せて吐き出しかけたその時ーー
ーーアイアは突如、後ろを向く。
そりゃそうだと思った。
優柔不断でさっきからまともな返事1つできていない、俺の言葉なんて聞きたくもないだろう。
でも、友情とか恋愛とか関係なく大切な女の子から告白されたなら、このまま黙りこくっているわけにはいかなーー
「ーーうるせぇ答えんな! 死ね!!!!」
ーー平たいパンプスの底が、真正面を向く俺の腹を容赦なく打ち抜いた。
「ぐふぅぉッ!!」
あまりの衝撃に俺は後ろに飛ばされ尻もちをつく。
「げほっごほっ!! っ~~~!!」
衝撃と息苦しさは同時に襲い掛かり、その後に蹴られた痛みがじわじわと腹に靴の底の形に広がる。
痛む腹を抱えて何が起こったのかと地面に後ろ手をつきながらも見上げると、アイアはバレエの代表的なポーズみたいな恰好で動きを止めていた。
こ、これは……!! 後蹴りだ!! 振り向きざまにピンと真っ直ぐ突き出されたその足に回転力を加え、超高パワーの蹴りへと昇華させたのだ!!
道理で俺の身体が吹っ飛ぶわけだ……っ!!
手を地面について立ち上がろうとするも、腹へのダメージが甚大で力が入らない。
「ちょっ……、アイ……」
アイアはアラベスク(バレエの代表的ポーズ。思い出した)を解除すると、俺の言葉に振り返ることなく家の方向へと走り去っていった。
過ぎ去ったその背中をもはや見ることは叶わず、俺はがくりと頭を垂れた。大粒の雨が、惨めな俺の後頭部を叩く。女の子の告白1つに対して、まともに対応できない俺の無能っぷりを叱るように。
染み込んだ水分が服を重くして、そのまま立ち上がることができない。
これからどうすればいいのか、次に俺はアイアに何て声をかけたらよいのだろうか。
俺とアイアは、今まで通りの関係に戻れるだろうか。
多くの悩みが頭の中を交差する。
俺は、徐々に冷えていく身体にも構わずに、その場でへたり込み続けていた。
ーーそして、どれくらいの時間が経った頃か、背後にふいに足音が止まる。
「こんなところまで走ってきていたんですね、カズキさん」
「ニーナちゃん……」
傘を片手に、俺を見下ろすようにして立っていた。
「アイアちゃんと……どうでしたか?」
「……ッ!!」
分かり切った結果を聞かれているようで、瞬間心に苛立ちがやってくる。
しかし、それが完全な八つ当たりだと自分でも気づいていたため、俺は顔を伏せて感情が表に出るのを抑える事しかできない。
そんな俺の様子を見たニーナちゃんが言葉を続ける。
「そんなに嫌でしたか? 私との、キス」
「そういうわけじゃ……ないんだけど……」
的外れな質問だと思った。
俺がこうやって雨の降る中、立ち上がれない程のショックを受けているのは、アイアが俺のことを好きだと思ってくれているなんて初めて知ったことと強力なアラベスクを腹に喰らったから、そして告白に対してまともに対応できなかった自分への大きな無力感に起因する。
第一、俺がこんな超絶ド級美少女とキスをするなんて、これから先生きていたとしても二度と体験できないほど貴重なものだろう。だから本来、そんなチャンスをふいにするどころが、キスをしてくれた相手を顧みずにアイアを追いかけたことに対して、俺はニーナちゃんに謝らなければならないハズ。
しかしどうにもやり切れない思いを抱いてしまうのは、その直後にあったことの方で現在進行形に頭を悩ませているからだ。
そんな俺の複雑な表情を、冷たささえ感じられる翡翠色の瞳でニーナちゃんは見つめていた。
「聞きたいことがあるんですけど、カズキさん。答えてくれますか?」
俺の纏うどうしようもなく暗い雰囲気にも感じることなど何もないように、丁寧口調ではあるもののどこか突き放したような淡々とした物言いでニーナちゃんが問いかける。
「う、うん……俺に答えられるものであれば……」
俺は警戒しつつも、頷いてしまう。
今までのやり取りでニーナちゃんが『やり手』であることは俺自身理解していた。
どうにもこちらの防御の緩いところを見定めて、的確に攻撃してくるような鋭さをニーナちゃんの言葉からは感じられる。時には警戒を解くテクニカルな面から、時には圧倒的な自身の美貌とスタイルに任せた強引な手法で、何度も俺の心は揺さぶられてきた。
だから問いかけられて、俺の本能は真っ先に『危険』だと判断を下したのだが、それでも首肯してしまっている。
それはやはり俺に負い目があったからだろう。
公園での会話を思い返せば、あの『キス』がニーナちゃんにとっても初めてのものだったと想像するのは容易い。にもかかわらず、俺はアイアへの心配を優先させてニーナちゃんを放って走り出してしまった。感謝を込められてしてくれた『キス』を俺は無下にしたことを償えない以上、自分ができる範囲の誠意くらいはみせなければならないと思う。
いつまでも座り込んでいられない。
俺はぐちょぐちょになった自分のズボンと靴に構うことなく立ち上がる。
これでもかと水分を吸い込んだ衣服は重くズッシリと感じ、身体を冷やしていた。
立ち上がる俺を待って、ニーナちゃんの表情が華やぐ。
「ありがとうございます。それでは単刀直入にお聞きしますね」
ニッコリと、絶世の美女がするような笑みを向けられて、俺が心に抱いたのは『恐れ』だった。
それは俺の根幹を定めてしまうような、俺の心に外れることのない錨を沈めてしまうような、移ろぐ感情の『終点』を決められたような。
そんな『恐れ』。
濡れた衣服が感じさせる冷たさとは全く別種の寒さが、俺の背筋を襲う。
そして、続く言葉にやはり俺の直感は正しいと知る。
「あなたは美しい女性なら誰でもいいハズなんです。だから私とセックスをしませんか?」
ここまでお読みいただきありがとうございます。
この章もクライマックス。次回で5章が終わります。
次の更新をお待ちください!!
明日こそはお昼に投稿します!




