八十六話 これはダンジョン、なんですかね?
一同があ然としているなかで、最初に立ち直ったのはルナちゃんでした。
「いやいやいや、なんスかこれ!? どっからどー見てもなんか、あの……すごいおっきいデパートみたいなやつッスよね!? なんでここにあるんスか!? ていうかこの世界的にオーバーテク、テクノ……テクノポリス!? 的なやつじゃ!?」
「正しくはオーバーテクノロジーだと思いますが……いえまあ、オーバーテクノロジーと言うか、ナノさんたちの勝手な想像に、創造に任された結果と言いますか……」
ナノさんたちには、私が過去に色々話してますからね。ショッピングモールがどんな場所なのか、大雑把にはわかっていると思います。わかっていると思いますが、まさかこんな森のど真ん中に、こんな不似合いなものでーんと建てるとは夢にも思ってなかったですよ。
「あ、あの、そのショ、なんとか? とかいうの、なんなのでありますか?」
「ショッピングモール、です。ここからでは中の様子がうかがえないので中はわかりませんが、少なくとも見た目は完全にショッピングモールってところなんですよ。買い物したり、遊んだりする場所ですね」
「ウィルよくわからないのですが、お買い物と遊ぶのって、関係あるですの?」
「あるようなないような……買い物のついでに遊ぶと言いますか、遊ぶついでに買い物を楽しむと言いますか」
「? 普通に別々に来ればいいじゃないですの? お買い物したあとだと荷物が重くて邪魔ですの。でも先に遊んじゃうと、いい商品なくなっちゃうですの」
なんて説明すればいいんですかね……この世界だと、買い物ってけっこうな重労働なんですよ。まだ貨幣制度が広まりきっていないので物々交換が多いわけですが、行く時も帰る時もたいてい荷物大量にありますから。交換前もあとも、相当大荷物です。
それにたぶん、ウィルちゃんが想像している遊びは、鬼ごっこやかくれんぼといった、道具がなくても遊べるたぐいのものだと思われます。そういうんでしたら、たしかに別々にやる方がいいんですが……この世界の方々に、カラオケとかゲーセンの概念理解できますかねぇ……
「まあ、あれです。少なくとも、普通はここダンジョンとはほど遠い場所だってことがわかっていれば大丈夫です」
「センパイセンパイ、あたしとしては中にアニメショップがあるのかどうかがすっごい気になるんスけど!! 来週発売のマンガ買いたいッス!!」
「それは私も気にならないわけじゃないですし欲しいですけど、ここを造ったのはナノさんたちです。ナノさんたちにはアニメの話をしたので大まかなところは知っているでしょうが、細かい作品ごとの違いなんてほぼわかっていないと思われます。つまりあっても最新刊があるわけじゃないので、意味ないかと」
あとついでに言いますと、ルナちゃんにとっては来週でも時間の流れから見るとまだまだずっと先じゃないですかね。この世界は時間の進み方がものすごく早いと、吉田さん言っていた気がしますし。
「そんなぁ……」
ルナちゃん、めちゃめちゃがっかりしてます。気持ちはわかりますよ。ええわかりますとも。もしここが地球のショッピングモールまんま再現していたとして、更にそれが商品にまで及んでいたとしたら。どれほど宝の山か。ですがそんな上手い話があるわけないのです。
ナノさんたちが私がした話から、どんなショッピングモールを造ったのか……とても不安です。見た目だけショッピングモールで中は魔界、ってこともありえますよこれ。
「ここで突っ立っていても、ラチが明きません。とりあえず私が先頭で、ウィルちゃん、ルナちゃん、クロノスくんの順に入ってください。クロノスくんはなにか異常を察知したら、迷わず時間を止めてくださいね」
「りょーかいであります!!」
ビシリと敬礼をしながら言うクロノスくんは、とってもかわいいです。クロノスくんは頼んだことはやり遂げようとしてくれるのでいいのですが、問題は――
「ルナちゃんは絶対に勝手な行動しないでくださいね。フリではなくマジで言ってますから、本当によろしくお願いしますね。絶対ですよ?」
「センパイ、なんかあたしにだけ当たりきつくないッスか……?」
「今までの自分の行動を省みてください」
この子突っ走って行っちゃいますから、目を離すとホントなにしでかすか心配で心配で……
ルナちゃんは不満げにくちびるをとがらせていましたが、しぶしぶ頷いてくれました。
「ではクロコさん、私たちは行って来ますのでここでお留守番をお願いしますね」
「了解しました女神様!! 自分はここにいますので、なにかあればなんなりとお申しつけください!!」
クロコさんも敬礼で言うと、その場に座り込みました。たまたまと言うか私たちが降り立った場所が駐車場でしたので、ちょうどクロコさんが駐車されてるみたいになってます。
いえいいんですよ? いいんですけど、偶然にもクロコさんがいるの妊婦さんのマークがある駐車スペースでして……なんでしょう、ちょっとシュールです。
大人しく座って待つ姿勢になってくれたクロコさんをその場に残し、私たちはショッピングモールの形をしたダンジョンへと向かったのでした。