八十五話 ダンジョン、再びです
「まさか、こんなことになるとは思っていませんでした……」
クロノスくんをかなり強引に起こし事情を説明したあと、私の本体まで戻ってみると。三十分弱その場を離れていたあいだに、そこには予想外の方々がいらっしゃってました。
「あ、あのあの、ディー姉からのお話を聞いた結果、ウィルがダンジョンに行って、ディー姉が泉に残った方がいいんじゃないかと思ったんですの……」
私の驚く顔を見るなり、しょぼんとうなだれてしまったウィルちゃん。それと――
「女神様、お久しぶりでございます!!」
ドラゴンにしてはさわやかであろう笑みを浮かべた、二色のウロコを持つクロコさんでした。
「ウィルちゃんはわかります。でもなぜあなたが、と言うかなんでよりによってあなたが来たんですか?」
「自分、女神様の舎弟ですので! お困りとあらばすぐにさせ参じますとも!!」
舎弟にした覚えは皆無ですし、正しくははせ参じるです。単に噛んじゃったのか覚え間違いなのか、ツッコみにくいミスしないでいただけると助かります。
クロコさんじゃ話が通じそうにないので隣で縮こまるウィルちゃんに目を向けると、困った顔でこう言いました。
「本当はジェンツィアーナさんに乗せてもらおうと思ったのですけど、クロコさんがどうしてもと土下座で頼んで、しかもウィルが動く度に正面に回り直して土下座するので断りきれなかったですの……」
なるほど、それでですか。そこまでされては、ウィルちゃんに断るのは難しいでしょう。
それにしても来るのはいいのですが、言わなければいけないことがあります。
「クロコさん、私たちは遊びに行くのではありません。危険かもしれない場所に行くんです。それをわかってるんですか?」
「ええわかっていますとも! なので自分、今回は足に徹する所存でございます!!」
「……つまり、ウィルちゃんの送り迎えだけと?」
「いえ、あと女神様がこれからお出かけなさる場所へも乗っていただきとうございます!! お邪魔でしたら、いつでも放り捨ててくださいませ!!」
私たちを運んでくれる、ですか……それ自体はとてもありがたい申し出です。テレポート使ってもいいんですが、あれ地味に複雑なので。ちょっと座標の指定ミスると、とんでもないところに行っちゃいますし。
「わかりました。ダンジョンの入口で待機してもらうことになると思いますが、本当にいいんですね?」
「もちろんですとも!!」
まあ、ならいいでしょう。
その後ちょろっと話し合った結果、今回シルフさんを救助に行くメンバーは以下の通りとなりました。
私、ルナちゃん、ウィルちゃん、クロノスくんの四人です。そこに運搬役のクロコさんが含まれることとなります。
なぜこのメンバーになったかと言えば、ウィルちゃんがウンディーネさんは泉にいた方がいいと説得したのと、いざという時にクロノスくんがいれば、数秒とはいえ時間が止められるためです。これはかなり大きいので、若干眠そうですが、がんばってもらうことになりました。
ウンディーネさんは最後まで自分が行った方がいいんじゃないかと言っていたのですが、ウィルちゃんに『ウィルならシル姉とディー姉どっちも連絡が取れるから、なにかあった時に便利ですの!』と言われて納得していました。
ウィルちゃんの言っていることにも一理ありますしね。
「ではクロコさん、背中に乗せてもらいますが……ムリにスピード上げなくていいですからね? 強引にカッ飛んで、途中で落っこちる方が問題なので」
「了解いたしました!!」
不安です……すこぶる不安です……クロコさんがはりきると、ロクなことがないような気がするんですけど。
イヤな予感が外れてくれることを願いながら、私たちはクロコさんの背中に乗り込みました。
「ウィル、なにかあったら必ずうちに連絡してな? すぐに駆けつけるさかい、約束な?」
「わかってるですの! ディー姉は、大船に乗った気でいるですの!」
「ミーシャ様、くれぐれもお気をつけてくださいな。なんや困ったことがあった時は、必ず向かいます」
「大丈夫ですよ、ウンディーネさん。そちらもシルフさんからなにかしらの連絡があったら、ウィルちゃんに連絡お願いします」
とても心配そうな顔をするウンディーネさんにそう言って、私たちは出発しました。
「安全運転――運転かどうかは微妙ですが、とにかく速さよりも安全に目的地に着くことを第一にしてくださいね?」
「問題ありません!!」
そう言いながら、クロコさんは私たちを乗せて大空を滑るように飛んで行きます。私の魔法によりみなさんが落ちることはないのですが、それでもあまりスピードが出たり、高度を上げ過ぎると困るのです。具体的には、私だけ取り残される恐れがあります。
事前に私の限界高度を伝えておいたおかげか、クロコさんは上空おおよそ七十メートルのところを飛んでくれました。あちこちの村にいる方に目撃されるでしょうが、それはまあ仕方ないです。あとでフィーマさんにフォローしてもらいましょう。
だいたい十分も飛ぶと、目的地に到着しました。クロコさん、キッチリ安全運転してくれてなにも言うことなかったです。ちゃんと人の話聞くようになったんですねぇ……なんだか感慨深いです。
そんなことを考えていたせいか、目的地着き先に降りたみなさんがなぜ固まっているのかに気づくのが遅れてしまいました。特に、ルナちゃんが全力でぽかーんとしているんです。
ようやく私は到着したダンジョンを見て――我が目を疑いました。
「これダンジョンというか……ショッピングモール、ですよね?」
そう。森の奥地に突然現れた謎の建築物。それは、どこからどう見ても、中にショップやらフードコートやら、果ては娯楽施設まで満載な、地球だとひらがなの名前がついていそうなショッピングモールでした。




