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三十五話 王さまになりませんか、というお話です

「わたし、王さまになったんですけど……」


「「は?」」


 パジャマパーティーから一夜明け、フィーマさんを村に送り届けてしばらく経った時のことでした。村の様子を見に一度一人で帰宅したフィーマさんだったのですが、戻って来た時の第一声がこれでした。


 意味がわからず、盛大に疑問符を浮かべる私とシルフさん。今回はシルフさんも心配だったようで、村のすぐ外まで同伴しています。


「あの、前後関係が不明過ぎてコメントできないので、なにが起こったのか一から説明してもらってもいいですか?」


「ええと、それがわたしにもよくわからないのですが……」


 そんな前置きをしてから、フィーマさんは村に戻ってからの話をしてくれました。これから先の話は、フィーマさん視点で話されたものです。



 今朝一番に村に帰ると、村人達が総出で出迎えに来ました。村長どころか、本当に村人全員が、です。わたしもこんな大事になっているとはつゆ知らず……とりあえず一番前でいきなりひざまずいた村長に、話を聞くことにしました。


「そ、村長。いったいこれは……?」


「申し訳ありませんでした!!」


「へ?」


 すでにひざまずいていた村長は、両ひざを地面につけるとそのまま頭まで地面に叩き付けだしたのです。確か前にミーシャ様がおっしゃっていた、土下座、というやつです。


 本当にわけがわからずとにかく村長に頭を上げさせると、おびえた様子でこう言いました。


「あなた様が神の子だとは知らなかったとは言え、とんだご無礼を……!! なにとぞ、命だけは!!」


「はい?」


 どうやら村長も村人も、わたしのことをミーシャ様の子だと勘違いをしている様子でした。おそらく、恐怖が勝手に一人歩きした結果だと思われます。友人がいつの間にかランクが上がり、神の子ということになったらしいので。


「あの、わたしはただの友人であり、親についてはわからないので……」


「あそこまで大事にしているんです、神の愛娘だとしてもおかしくはありません!!」


 とこんな感じに、聞く耳を持ってくれません。そのあとはだいぶ長いこと命乞いが続き、さすがのわたしも辟易したのでこう言ってしまったんです。


「わかりました、わかりましたから。あなたたちがこれまでわたしにして来たことは、不問にします。ですから、頭を上げてください。わたしは怒っていませんから」


「おお、なんと慈悲深い!! それでこそ王に相応しい器です!!」


 もうこの頃には驚きすぎて感覚がマヒしていたのか、またなに言ってるんだこいつは、程度にしか思っていませんでした。ですが他のみんなの話を聞いてみると、どうも本気でわたしを王に祭り上げる気らしいのです。


 そこからはどれほど断ろうとも、わたし以外に相応しい者はいない、新たなる力を手に入れたエルフ最初の王だ! ということになってしまって……あ、エルフの名称につきましては、わたしが話の中でうっかり漏らしてしまったものです。


 とまあこんな感じで、勝手に王にされました……



 本気の困惑顔で言い終えたフィーマさんは、長々とそれはそれはふかーいため息を吐きました。


「まあ、それは困惑しますよね……」


 この上ない手の平返しですもんね。これについては私のせいですね完全に……ちょっとびびらせ過ぎましたか。 


「フィーマさんはどうしたいですか? どうしてもイヤでしたら、究極的には記憶を改ざんすることができなくもないと思いますが……」


 やったことがないので断定はできませんが、おそらく本気を出せば可能だと思われます。ただ問題は、記憶を改ざんしてなにが起こるかわからないことですね。副作用がないとも限りませんし。


 私の提案に、フィーマさんは苦笑いで首を横に振りました。


「いえ、そこまでではありませんから。ただその、わたしにそんな重要な仕事が務まるとは思えなくて……」


「確かに一朝一夕ではできることじゃないですよねぇ」


 それに王族貴族がどうたらという国は、アッサリ滅びるんですよねだいたい。少なくとも日本に貴族いませんし。皇族はいますけど。


 でもフィーマさん達人間、というかエルフが決めたことですしね。本人達がどうしたいか次第ですかねこの場合。


「あのミーシャ様、一つよろしいですか?」


「なんでしょうシルフさん」


「そもそもの話で恐縮なのですが、王、とはなにをする者なのですか?」


「あー、そういやそうですね」


 冷静になって考えてみると、王の詳しい仕事内容を知りません。なんか政治をする、というのはわかるのですが……あ、あとなんか国を治める系。


 ダメですね、私の知識の王ロクなのいないです。延々ゲームしてる王とか、国民に反逆されて死んじゃう王とか、勇者にヒノキの棒渡すしかやることない王とか。どうしましょうねホント。これでは統治とか教えられないです……


「すみません、実は私もよく知らないんですよ。精々、国で一番偉くて権力があるくらいしか……」


 そこまで言ってから、ふと思い出しました。そう言えば、政治をするのは王ではなく宰相とかだったはずだということを。


 政治をちゃんとする王もいるかもですが、たいていの王というのは最終決定する人であり、別に一から十まで全部一人で政治をする必要はないのです。しかもフォスト村は、名前の通りまで小さい村。ならば必要なのは政治力ではなく、困った時に頼れるかどうかなのでは。


 でもここで問題なのは、フィーマさんに王としてやっていく気があるかどうかです。資質に関しては、割とありそうな気もするので今はおいておきます。


「王になったことはないので詳しいことはわかりませんし言えませんが、結局はフィーマさん次第です。ただ王というのは一番偉いだけでなく、それ相応のリスクも背負わなくてはなりません。一度なったら、そう簡単に他の人に代わってもらえないということだけは理解しておいた方がいいでしょう」


 そう言うと、フィーマさんはしばらくの間真剣な表情で考え込みました。


 次に口を開いた時。フィーマさんがどちらを選んだのかは、腹を決めたその顔を見ればすぐにわかりました。


「わたしのようなものでもみなの役に立つことができるのでしたら、わたしはやりたいです」


 そう言ったフィーマさんはとても真剣で、この人なら任せても大丈夫だろうと思いました。フィーマさんならきっと、なにがあってもどうにかするでしょう。本当は、優秀な人ですもの。本当の役立たずであれば、とっくに野たれ死んでいるはずですから。


 これがこの世界で、最初の王が誕生した瞬間でした。


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