↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者ギルド監査官―討伐報告二十体、証拠は十八体―  作者: えんびあゆ
勇者の歴史、英雄譚の綻び編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
16/32

第16話 監査局の立入禁止書庫 [後編]

翌朝、二人は局長室へ呼ばれた。


オルディスは不服申立書を開いたまま座っていた。

机の脇には使われない剣が一本、革袋に包まれて立ててある。


「ハルトナー。君の父に、私は謝っていない」


ミレイスの顔が動いた。


「今、父の話をするために来たわけではありません」

「分かっている」


オルディスは書類を置き、エルドを見た。


「原本を見たい理由は、魔王の出現を予測するためか」

「まず、避難の時期を知るためです」

「予測が外れたら」

「記録を残して訂正します」


局長の眉がわずかに動いた。


「人の命は、訂正が利かない」

「だから、現場の観測と照合したいんです」


オルディスは立ち上がった。

窓の向こうに、勇者学校の屋根が見える。


「私が原本を閉じたのは、理由がある。見た者のうち、真実を正しく使った者ばかりではない」

「見せない理由にはなります。でも、今の異常を放置する理由にはなりません」


エルドの声は少し震えた。

相手は局長で、元勇者でもある。

試験に落ちた自分が勇者制度を知った顔で話している。

その感覚は消えない。


窓の下を学校の訓練帰りらしい若者が通った。

肩章をまだうまく留められず、歩きながら直している。

エルドもあの道を通ったことがある。

資格を得た友人と別れた帰りには、道の反対側を選んだ。

知り合いに見られたら、落ちた理由を聞かれると思ったからだ。


今、局長にそう聞かれたわけではない。

エルドは机の上の現場地図へ視線を戻した。

北通りの井戸が昨日まで使われていたことは、試験の成績とは関係がない。


「申請は却下する」


オルディスは言った。


「ただし、現在の災害監視に必要な数値は、封印資料から抽出して渡す。異議申立てへの回答も、正式に出す」


全部ではない。

けれど口頭の拒絶よりは、検証できるものが増えた。


「数値の出所を明記してください」


ミレイスが言う。オルディスは彼女を見た。


「君の父なら、そう言うだろうな」

「私が言っています」


短い沈黙のあと、局長は頷いた。



*



数値はその日の夕方に届いた。

魔力の流入量、減衰率、過去九度の異常値。

エルドは表を開き、指を止めた。


紙は薄く、測定地の半分以上が黒塗りだった。

過去九度の値は日ごとの最高値、今の値だけ一時間ごとの測定値だった。

エルドは表を並べた。


「このままでは、上がり方を比べられません」


ミレイスは今の測定値から一日ごとの最高値を拾い、過去の表と同じ間隔で並べ直した。

夜遅くまで計算し、値が大きく変わった日へ色を付ける。

エルドも手伝う。

二人の机の上には削った鉛筆の粉が溜まっていった。


六度目の時代は、高い値が長く続いている。

八度目は急に上がり、すぐに落ちる。

九度目は、戦役の一週間前だけ空白がある。


「計器が壊れたのか」

「壊れたなら、その後の値も戻りません」


ミレイスは空白の幅を測った。


「記録が伏せられています。昔の帳簿をそのまま写したら、ここには線があったはず」


エルドは空白の週について、測定値が無理なら欠測の理由だけでもと照会した。

番号照会をした係員が、返答期限の欄を指す。


「ここは空けないでください」


エルドは翌日の朝と書いた。


返事は翌朝、「測定中断」と来た。

添付された現場日誌には、計器の故障ではなく、危険のため人が撤収したとある。

つまり、その週に数字がないのは、本当に誰も測れなかったからだ。


「局長は隠したわけじゃない」


エルドが言うと、ミレイスは日誌を見た。


「隠されたと思うような資料の出し方をした。それも問題です」


王都周辺の観測拠点は七か所ある。

現状では地脈の流れを測るだけの設備で、流れを変える装置は備えていない。


今の監視塔でも同じことが起きるかもしれない。

人を避難させた後の空白を、後世の誰かがどう読むか。

エルドは現場日誌を数値の横に添えた。

数字がない理由まで残す。


表を最初の頁へ戻したとき、エルドは欄の数が合わないことに気づいた。


「十番目の欄があります」


まだ出現していないはずの魔王について、減衰率が毎年記録されていた。

測定場所は黒く伏せられ、人名欄もない。

だが表には十年以上の履歴がある。


ミレイスは数値を写し、最後のページを裏返した。

裏面には発送元の文書管理番号。

古文書館に保管された別の原本と、同じ番号だった。


「地下書庫の外にも、原本がある」


エルドは封印印のない管理番号を見た。

知っていることを話さない局長が、そこだけ黒く塗らなかった理由は分からない。

気づけと告げているのか、見落としただけなのか。


ミレイスは鞄を閉じた。


「明日は、古文書館へ行きましょう」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。