第六話 小さな成功体験
「マナというのはですね……」
フィリアは少し緊張しながら説明を始めた。
だが、目の前のリゼは真剣そのものだった。
紙とペンを手に持ち、今にも書き始めそうな姿勢で待っている。
「マナは、生き物の体の中に存在する力です」
さらさら。
リゼのペンが動く。
「なるほど」
「そのマナを使うことで魔法が発動します」
「魔法とは何でしょう?」
「えっと……」
フィリアは少し考えた。
貴族学校で習った内容を思い出す。
「魔法とは、マナを使って現象を起こす技術です」
「現象」
「はい」
「火を灯したり」
「怪我を治したり」
「風を起こしたり」
「身体能力を強化したり」
「そういったものを総称して魔法と呼びます」
リゼは頷く。
「なるほど」
フィリアは少し安心したように続けた。
「そして魔法には三つの要素があると言われています」
「三つ」
「マナ量」
「制御力」
「知識」
「この三つです」
リゼのペンが止まる。
「知識?」
「はい」
フィリアは頷いた。
「どれだけマナを持っていても、魔法を知らなければ使えません」
「逆に知識が多いほど、使える魔法も増えます」
なるほど。
リゼはメモする。
ーーー
魔法
・マナ総量
・制御力
・知識
ーーー
「マナの量は生まれつきですか?」
フィリアは少し考える。
「基本的にはそうですね」
「ただ……ごく稀にですが」
「修練を積み、マナを増やしたと言われる方もいます」
リゼが顔を上げた。
「増やせるのですか?」
「できる人はいます」
「でも本当に一握りです」
「騎士団長様や宮廷魔術師長様のような方ですね」
「なるほど」
さらさら。
ーーー
マナ量
・基本は生まれつき
・後天的成長あり?
・極めて困難
ーーー
「ですので」
フィリアは続けた。
「貴族学校では、マナを増やす方法はほとんど教えません」
「教えない?」
「はい」
「今持っているマナをどう使うかを学びます」
「使える魔法を増やしたり」
「制御を鍛えたり」
「自分に合う魔法を見つけたり」
「そういう勉強です」
リゼは小さく頷いた。
「限られた資源を有効活用するのですね」
「あ……はい」
フィリアは少し笑った。
「そんな感じです」
リゼは再びメモを取る。
「マナがなくなるとどうなるのですか?」
「魔法が使えなくなります」
「ひどい場合は倒れます」
「倒れる?」
「はい」
「気絶したり、高熱を出して数日寝込んだり……」
「無理に使い続けると危険だと言われています」
リゼは頷く。
「では時間が経てば回復するのですね」
「普通はそうです」
フィリアも頷いた。
「睡眠を取ったり、食事をしたりすると少しずつ回復します」
「なるほど」
リゼは書き込む。
ーーー
マナ
・時間経過で回復
・睡眠
・食事
・休息
ーーー
……しばらくして。
リゼはペンを置いた。
「ありがとうございます」
「え?」
フィリアがきょとんとする。
「とても勉強になりました」
その言葉に。
フィリアは少しだけ目を丸くした。
今まで。
魔法ができないと怒られたことはある。
失敗して呆れられたこともある。
けれど。
誰かに教えて。
感謝されたことはなかった。
「わ、わたしは……」
言葉に詰まる。
リゼは首を傾げた。
「どうしました?」
「い、いえ……」
フィリアは慌てて首を振る。
けれど。
胸の奥が少しだけ温かかった。
「フィリア様は説明がお上手ですね」
「えっ?」
「とても分かりやすかったです」
フィリアは完全に固まった。
そんなことを言われたのは初めてだった。
リゼは本気でそう思っているらしい。
嘘を言っている顔ではない。
「そ、そうでしょうか……」
「はい」
リゼは迷いなく頷いた。
「知らないことを知っている人は先生です」
「今日はフィリア先生ですね」
数秒。
フィリアの思考が止まる。
そして。
「ふふっ」
小さな笑い声が漏れた。
「フィリア……先生……」
なんだか変な響きだった。
けれど。
少しだけ嬉しかった。
人生で初めて。
誰かに先生と呼ばれたのだから。




