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第四話 火が怖いお嬢様

「……これは、調べがいがありそうです」


リゼは消えた火を見つめながらそう呟いた。


一方。


フィリアは未だに固まったままだった。


「ど、どうして……」


「どうして初めてで成功するんですか……?」


その声には驚きと困惑が混ざっている。

リゼは首を傾げた。


「説明された通りにやっただけですが」


「そんなわけありません!」


思わず大きな声が出たらしい。

フィリアは慌てて口を押さえた。


「あっ……ご、ごめんなさい……」


「気にしていません」


リゼはさらさらと紙に何かを書き込んでいる。

フィリアはそっと覗き込んだ。


そこには、


・マナを手へ集中

・火のイメージ

・温度の固定

・出力より制御?


と書かれていた。


「な、何を書いているんですか?」


「魔法について整理しています」


「整理……?」


「理解しておいた方が再現しやすいので」


フィリアはますます分からなくなった。


魔法とは才能だ。

生まれ持った素質だ。


だから上手な人もいれば下手な人もいる。

そう教えられてきた。


なのに目の前のリゼは。


まるで料理のレシピでも確認するような顔で魔法を分析している。


「フィリア様」


「は、はい」


「今までどのような訓練を?」


「えっと……」


フィリアは必死に思い出す。


「毎日練習していました」


「はい」


「集中しなさい、と」


「はい」


「もっとイメージして感覚を掴めと」


「なるほど」


リゼは再びメモを取る。


そして少し考え込んだ。


「説明が少ないですね」


「え?」


「どうして失敗したのか」


「どこが悪いのか」


「感覚とはなにか?」


「その説明は?」


フィリアは口を閉じた。


言われてみれば。

誰も教えてくれなかった。


失敗するたびに、


もっと頑張れ。

もっと集中しろ。

もっと練習しろ。


そう言われるだけだった。


「……ありません」


「なるほど」


リゼは小さく頷く。


「ではもう一度やってみましょう」


「えっ?」


フィリアの顔が青くなる。


「い、今ですか?」


「はい」


「でも……」


「大丈夫です」


リゼは落ち着いた声で言った。


「失敗しても私しか見ていません」


フィリアは思わず黙る。


今まで。


失敗するたびに笑われた。

呆れられた。

失望された。


だから。


失敗すること自体が怖くなっていた。


「……やってみます」


小さな声だった。


フィリアは震える手を前へ出す。


深呼吸。


そして。


「ファイア……」


ぼっ。


小さな火が現れる。


やはり揺れている。


不安定だ。


だが。


リゼは火ではなくフィリアを見ていた。


肩。

呼吸。

視線。

指先。


全てを観察する。


そして。


「ああ」


リゼは納得したように頷いた。


「原因が分かりました」


「え?」


フィリアが目を丸くする。


「フィリア様」


「は、はい」


「火が怖いんですね」


部屋が静まり返った。


フィリアは固まる。


「……ち、違います」


「本当に?」


「……」


答えられない。

リゼは優しく続けた。


「魔法を使う時だけ肩が強張っています」


「それに、呼吸も浅くなっています」


「失敗する前提で魔法を使っていますね」


フィリアは何も言えなかった。

全部当たっていたからだ。


「火は危険です」


リゼは静かに言った。


「使い方を間違えれば火事になります」


「火傷もします」


フィリアは小さく頷く。


「ですが」


リゼは窓の外へ目を向けた。


「火がなければ冬は越せません」


「料理もできません」


「お湯も沸かせません」


「夜も暗いままです」


フィリアは黙って聞いている。


「包丁も危険です」


「ですが、だからといって使わないわけではありません」


「使い方を知っているからです」


フィリアは少しだけ目を見開いた。


リゼは続ける。


「火も同じです」


「怖いものではなく、扱い方を学ぶものです」


「それに」


リゼは少しだけ笑った。


「いきなり大きな火を出す必要はありません」


「暖炉の火、もしくはロウソクの火くらいで十分です」


「むしろ屋敷を燃やしたら困ります」


フィリアは思わず吹き出した。


「……ふふっ」


「確かに困ります」


「メイド長に怒られそうです」


「かなり怒られると思います」


二人の間に少しだけ柔らかな空気が流れる。


そしてリゼは言った。


「ですからまずは」


「大きな火ではなく」


「消えない小さな火を目指しましょう」


「一歩ずつで十分です」


フィリアは自分の手を見る。


今まで。

できないことばかり見ていた。


けれど。


初めて誰かが、

できなかった理由を一緒に考えてくれた。


「……はい」


フィリアは小さく頷いた。


もう一度。

今度は肩の力を抜いて。


「ファイア」


ぼっ。

小さな火が現れる。


先ほどより少しだけ安定していた。

揺れてはいる。

だが消えない。


「……あれ?」


フィリアが呆然と呟く。


リゼは小さく頷いた。


「できましたね」


フィリアは信じられないものを見るように、自分の手の上の火を見つめていた。


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