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自分は凡人だと思っていました 〜異世界では万能らしいです〜  作者: 青野 陽


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第二十六話 アスター

奥の庭園からしばらく東に歩き

右へ左へと歩く。


迷子になりそうだ。


しばらくしてようやく、展示室にたどり着いた。


そこには歴代の王様や王妃様の

肖像画が飾られていた。


その中には現王、現王妃、

セドリック様…


そして、ふとフィリアの視線が一枚の肖像画に止まる。


「こちらの方は?」


セドリックは振り返る。


「ああ」


少しだけ笑う。


「私の弟のルシウスです」


そこに描かれていたのは金髪に緑の目をした青年だった。


そのとき。


「あまり、似ていませんね」


リゼがボソッと呟いた。

フィリアが固まる。


「リ、リゼ!?」


だがセドリックは怒らなかった。

むしろ少し笑う。


「よく言われます」


「母が違いますからね」


フィリアはほっと胸を撫で下ろした。

リゼは全く気付いていない。


王族へ向かって何を言っているのだろう。


「第二王子様ですか」


「はい」


セドリックは頷いた。


「母は王妃ですが」


「ルシウスの母は第二側妃です」


少しだけ肖像画へ視線を向ける。

どこか複雑そうな表情だった。


リゼは小さく頷く。


「なるほど」


そして本当に納得したらしい。

フィリアだけが疲れていた。


◇◇◇


さらに奥へ進む。

展示室には肖像画だけではなく、様々な展示品が並んでいた。


古びた剣。

豪華な王冠。

見たこともない魔道具。

そして大きな壁画。


フィリアは思わず足を止める。


「これは……?」


壁いっぱいに描かれた巨大な絵。

四人の人物が描かれていた。


「建国の英雄たちです」


セドリックが説明する。


「アスター」

「グランツ」

「セレス」

「ノヴァ」


聞き覚えのある名前だった。


「アスターは知識」

「グランツは武勇」

「セレスは治癒」

「ノヴァは開拓」


「この四人が力を合わせて現在のアルカディア王国を築いたと言われています」


フィリアは静かに絵を見上げる。

そして自然と一人の人物へ目が向いた。


本を抱えた青年。

知識を象徴する英雄。


アスター。


「お父様と同じ称号……」


小さく呟く。

セドリックも頷いた。


「ええ」


「アスターは王国最高峰の知識人へ与えられる称号です」


「レオナルド公爵は、その中でも歴代最高のアスターだと言われています」


フィリアは少し誇らしい気持ちになった。


その時だった。


「歴代最高クラス……」


珍しくリゼが反応した。

セドリックは少し意外そうな顔をする。


「興味がありますか?」


「あります」


即答だった。


「レオナルド様は魔法理論だけではありません」


セドリックは続ける。


「薬学」


「魔道具」


「古代文明」


「歴史」


「様々な分野で功績を残しています」


リゼは少し考えた。

そして真顔で言う。


「一人でですか?」


「一人でです」


セドリックは頷く。

数秒の沈黙。


「……なるほど」


リゼは小さく呟く。


「レオナルド様は気になったことを全部調べていたのですよね?」


「そうですね」


「分からないまま放置できなかった」


「それなら仕方ありません」


フィリアが首を傾げる。


「仕方ないのですか?」


「はい」


リゼは頷いた。


「気になりますので」


あまりにも当然のような口調だった。


セドリックは一瞬だけ目を見開き。

そして楽しそうに笑った。


「先生も同じことを言いそうですね」


フィリアは思わず笑った。


「先生?」


セドリックは一瞬だけ目を瞬く。

そして少しだけ照れたように笑った。


「癖のようなものです」


「幼い頃からそう呼んでいましたので」


「今でも私にとっては先生ですよ」


フィリアは少しだけ嬉しくなる。

父を尊敬してくれている人がいる。


それだけで誇らしかった。

セドリックはどこか懐かしそうに目を細める。


「先生も昔からそういう方でした」


「気になったら止まらない」


「食事も忘れる」


「寝るのも忘れる」


「気になる本を見つけると三日くらい部屋から出てこないこともありました」


まるで昨日のことを思い出しているような口調だった。


フィリアは少し驚く。

自分の知る父は優しくて穏やかな人だった。


だがセドリックの語るレオナルドは違う。


知識を追い続ける研究者。

王国最高峰の知識人。


そんな一面を、自分はまだ知らなかったのかもしれない。


リゼは少し考えた。


「面倒な人ですね」


「褒めているのですよね?」


フィリアが確認する。


「もちろんです」


即答だった。


あまりにも迷いのない返事に、

フィリアは思わず吹き出した。


その様子を見てセドリックも小さく笑う。


「先生もきっと同じことを言うでしょうね」


「気になるものは仕方ない、と」


その言葉にフィリアも少しだけ笑った。


どうやら父もリゼと同じように、

気になることを放置できない人だったらしい。


フィリアがそんなことを考えている横で――


リゼの視線は、いつの間にか別の展示品へ向いていた。


レオナルドが研究していたという古代文明。

その関連資料なのだろうか。


古びた金属製の魔道具。

見たことのない構造だった。


「これは何ですか?」


セドリックは振り返る。


「古代文明の遺物です」


「詳細は分かっていません」


「古代文明……」


リゼの目が少しだけ輝いた。

フィリアは嫌な予感がした。


「他にもありますか?」


間髪入れずに尋ねる。


「ありますよ」


セドリックは苦笑する。


「ただし展示されているのはごく一部です」


「大半は資料として保管されています」


「……それは、どちらに?」


即答だった。


フィリアは頭を抱えた。

セドリックは少し笑う。


「王立図書館です」


その一言で。

リゼの目がさらに輝いた。


◇◇◇


展示室を後にし、

王城の回廊をしばらく歩く。


そしてそこに、巨大な両開きの扉が現れた。


「ここが王立図書館です」


セドリックがそう告げる。

フィリアは思わず足を止めた。


それはもはや扉というより、一つの芸術作品だった。


白銀と黄金で装飾された巨大な門。

表面には無数の彫刻が刻まれている。


本を抱えた学者。

魔法陣を描く魔術師。

薬草を育てる研究者。

星を見上げる天文学者。


知識を求める人々を見守るように、

中央には一人の人物が描かれていた。


右手に本。

左手に羽ペン。

その頭上には輝く星。


――アスター。


知識を司る建国英雄。


その周囲を囲むように、数え切れないほどの本が彫られている。


扉そのものが、


"知識への入口"


であることを示していた。


「これは……」


フィリアが息を呑む。

セドリックは少しだけ微笑んだ。


「初代アスターを模したものだそうです」


「王立図書館は王国の知識を守る場所ですから」


重厚な金属音が響く。


長い年月を経てきた扉が、

ゆっくりと開かれていく。


その瞬間。

フィリアは言葉を失った。


視界いっぱいに広がる本棚。


二階。

三階。

吹き抜けになった空間。


無数の本。

世界中の知識がここにはある。


建築

農業

商業

航海術

音楽

芸術

魔法理論

薬学

古代文明

……


アルヴェイン家の図書室も素晴らしかった。


だが規模が違う。


まるで知識そのものが形になったような空間だった。


「すごい……」


フィリアが呟く。


その隣で。

リゼは固まっていた。


「リゼ?」


反応がない。


「リゼ?」


もう一度呼ぶ。


そして。


「……住めますね」


真顔だった。


フィリアは額を押さえた。

セドリックは吹き出しそうになっている。


レオンは静かに視線を逸らした。


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