第二十五話 恩師
セドリックに案内されながら歩いていく。
王城の奥。
さらに奥。
やがて辿り着いたのは、小さな庭園だった。
だが。
先ほど見た広大な庭園とは雰囲気が違う。
花の数は少ない。
代わりに落ち着いた木々と季節の花が丁寧に配置されていた。
中央には小さな東屋。
読書や休憩に使うのだろう。
「ここは?」
フィリアが尋ねる。
「私の庭です」
セドリックが答えた。
フィリアは少し驚く。
王太子専用の庭。
それだけで特別な場所だと分かる。
「そんな大切な場所に入れてもらっていいのでしょうか」
「ここなら周りの目を気にする必要もないですから」
その言葉にフィリアは少し安心した。
一方。
リゼは東屋の本棚を見ていた。
「本がありますね」
「あぁ」
セドリックは少し笑う。
「あれは私が趣味で読んでいる本です」
リゼの視線が本棚へ向く。
「どのような本を読まれるのですか?」
「色々ですよ」
セドリックは少し考える。
「歴史書もありますし」
「他国の文化について書かれた本もあります」
「最近は古代文明の資料を読むことが多いですね」
その瞬間。
リゼの目が少しだけ輝いた。
「古代文明ですか」
どうやら興味を持ったらしい。
その様子にセドリックは苦笑する。
「良ければお貸ししましょうか?」
「良いのですか?」
「もちろん」
「ありがとうございます」
リゼが食い気味に答える。
フィリアは少しだけ頭を抱えた。
王太子の庭より本棚に興味を示している。
いつものことだった。
◇◇◇
東屋でお茶が用意された。
柔らかな風が庭を吹き抜ける。
鳥のさえずりと噴水の水音。
王城の中とは思えないほど穏やかな時間だった。
フィリアも少しずつ緊張が解けていく。
セドリックは紅茶を一口飲んだ。
「そういえば」
「レオナルド公爵のご容態はいかがですか?」
その問いに、フィリアの表情が少しだけ曇る。
「変わりありません」
「今も眠ったままです」
セドリックは静かに頷いた。
「そうですか……」
その声には残念そうな響きがあった。
フィリアはふと思い出す。
社交界の夜。
ダンスの最中にも、
セドリックは父のことを気にかけてくれていた。
「そういえば」
フィリアは少し迷いながら口を開いた。
「社交界の時も、お父様のことを気にされていましたよね」
セドリックは目を瞬く。
「ああ」
小さく頷いた。
「覚えていてくださったのですね」
「はい」
フィリアは少し躊躇う。
「どのような意味で気にされていたのですか?」
レオンは静かにセドリックへ視線を向けた。
セドリックはほんの僅かに考えるような間を置く。
「そうですね」
「私にとってレオナルド公爵は恩師のような方です」
「幼い頃から多くのことを教えていただきました」
「ですので、ご容態を案じているのですよ」
その答えにフィリアは小さく頷いた。
だが、なぜだろう。
セドリックの表情が少しだけ寂しそうに見えた。
しばらく沈黙が続く。
やがてセドリックは少しだけ懐かしそうに笑った。
「私が幼い頃は、よくこちらへ来てくださっていたのですよ」
「お父様がですか?」
「ええ」
セドリックは頷く。
「本を読むために来たはずなのに、気付けば私の質問に付き合わされていました」
フィリアは少し驚く。
「質問ですか?」
「はい」
セドリックは苦笑した。
「なぜ空は青いのか」
「なぜ風は吹くのか」
「動物たちの家はどこにあるのかとかね」
「今思えば面倒な子供だったと思います」
だが。
「レオナルド公爵は一度も嫌な顔をしませんでした」
セドリックの表情はどこか嬉しそうだった。
「むしろ一緒になって考え始めるのです」
「気付けば私より夢中になっていました」
セドリックは小さく笑った。
「答えを探すことが、本当に好きな方でしたから」
フィリアは思わず笑う。
容易に想像できたからだ。
「お父様らしいです」
「ええ」
セドリックも笑った。
「本当にそう思います」
そんな中。
空になったティーカップを置いたセドリックが静かに立ち上がった。
「そろそろ、次の場所を案内しましょうか」
「次の場所?」
フィリアがきょとんとする。
「次は展示室へ行きましょう」
「あそこにも面白いものがあると思います」
フィリアが首を傾げる。
その横で、リゼの視線が僅かにセドリックへ向いた。
どうやら気になったらしい。
その様子を見てセドリックは小さく笑う。
「古代文明の遺物や歴代の資料なども展示されています」
その瞬間。
リゼの目が少しだけ輝いた。
フィリアは小さくため息をつく。
どうやら興味を持ってしまったらしい。
「では、お願いします」
フィリアは苦笑しながら立ち上がった。




