第二十一話 王城からの招待状
第2巻「レオナルド編」が始まります。
リゼたちの新たな物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
ーー社交界から一週間。
アルヴェイン公爵家には、久しぶりに穏やかな時間が流れていた。
窓から差し込む朝日が、図書室の机を照らしている。
その窓際では、リゼが分厚い薬学書を読んでいた。
昨日は魔法理論書。
一昨日は農業関係の本。
興味を持ったら調べる。
理解したら次へ進む。
いつも通りである。
一方、その向かいではフィリアも本を開いていた。
読んでいるのは、王国の歴史書だった。
社交界で出会った貴族たち。
王家。
そして王国そのもの。
知らないことが多すぎる。
だから少しでも学ぼうと思ったのだ。
以前なら人前に出ることすら怖かった。
だが今は違う。
まだ不安はある。
それでも前を向こうとしていた。
「リゼ」
「はい」
「その……」
フィリアが本から顔を上げる。
「私、本当に大丈夫だったのでしょうか」
「何がですか?」
「社交界です」
少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
「皆様に笑われていませんでしたか?」
リゼは少し考えた。
「笑っていた方もいたと思います」
「やっぱり……」
「ですが」
フィリアが顔を上げる。
「王太子殿下と踊った方は他にいませんでした」
「っ……」
「あの場の主役は間違いなくフィリア様でしたよ」
フィリアの顔が真っ赤になる。
「それに」
リゼは続けた。
「フィリア様にしては、よく頑張ったと思います」
「に、にしては……」
「はい」
「そこはもう少し言い方があると思います……」
思わず肩を落とすフィリア。
だがその表情はどこか嬉しそうだった。
そして、心なしか照れているようにも見える。
そんな様子を見て、リゼは首を傾げる。
「なぜ照れているのですか?」
「照れていません」
「そうですか」
「そうです」
フィリアは照れ隠しをするように小さく笑った。
その時だった。
図書室の扉が慌ただしく開かれる。
「フィリア様!」
飛び込んできたのはアンナだった。
少し息を切らしながら、
大切そうに一通の封筒を抱えている。
「どうしました?」
「お、お手紙が届きました!」
差し出された封筒を見た瞬間。
フィリアの動きが止まった。
美しい白い封筒。
表面には金色の箔押しによる
繊細な装飾が施されている。
中央には重厚な金の封蝋。
そこに刻まれていたのは、一羽の瑞鳥だった。
黄金の翼を広げ、天空へ舞い上がる姿。
炎のように長く流れる尾羽。
頭上には五色の光を放つ冠。
平和と繁栄を告げるように優雅に空を駆けながらも、その姿には天上の支配者としての威厳が宿っている。
王家の紋章だった。
「え……?」
フィリアの顔が青くなる。
「お、王家から……?」
手が震えている。
隣ではリゼが封筒を見つめていた。
「綺麗な封蝋ですね」
「そこですか!?」
思わずフィリアが叫ぶ。
アンナも困惑している。
リゼは真面目な顔で頷いた。
「綺麗です」
「そういう話ではありません!」
フィリアは慌てて封筒を開く。
中には一枚の手紙。
読み進めた瞬間――
「ひゃっ!?」
変な声が出た。
「フィリア様?」
「リ、リゼ!」
「はい」
「お、王城からです!」
「はい」
「王太子殿下からです!」
「はい」
「招待状です!」
「それは良かったですね」
「良くありません!」
図書室にフィリアの悲鳴が響く。
リゼは不思議そうに首を傾げた。
◇◇◇
ーーその頃。
王都の中心にある王城では、一人の青年が窓の外を眺めていた。
白銀の髪。
紫の瞳。
アルカディア王国第一王子。
"セドリック・ネス・アルカディア"
彼は静かに呟く。
「フィリア・アルヴェイン」
机の上には一枚の報告書。
そこに記された名前を見つめながら、
セドリックは小さく目を細めた。
「そして……」
もう一つの名前。
「リゼ」
あのメイドの言葉が妙に頭に残っていた。
分からないことを調べる。
気になれば確かめる。
どこか懐かしかった。
まるで昔の先生を見ているようで。
「先生なら、どう見るだろうな」
その言葉は誰にも届かない。
窓から吹き込む風だけが静かに揺れていた。




