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自分は凡人だと思っていました 〜異世界では万能らしいです〜  作者: 青野 陽


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第十二話 アスターの研究記録

図書室は静かだった。


窓から差し込む月明かり。

古い紙の香り。

整然と並ぶ本棚。


リゼは手にしたノートを見つめていた。


『レオナルド・アスター・アルヴェイン』


その下には、


『研究記録』


と書かれている。


「研究記録……」


小さく呟きながら表紙を開く。

中にはびっしりと文字が並んでいた。


図。

数式。

魔法陣。

細かなメモ。


しばらく読み進める。

さらにページをめくる。

そして。


「……?」


リゼの眉がわずかに動いた。


もう一度読む。

数ページ戻る。

さらに読む。


「前提知識が足りませんね」


小さく呟いた。


内容は面白そうだ。


だが専門用語が多すぎる。

基礎が抜けた状態では理解できない。

リゼは少しだけ悔しそうにノートを閉じた。


「まずは基礎からですね」


そう呟きながら研究記録を元の場所へ戻した。

続きはまた今度だ。


◇◇◇


翌朝。

朝食を終えた後。

リゼは昨日見つけた研究記録のことを思い出していた。


「フィリア様」


「はい?」


フィリアが首を傾げる。


「一つ質問なのですが」


「何でしょう?」


「アスターとは何でしょうか?」


フィリアが固まった。


「えっ?」


今度はリゼが首を傾げる。


「何かおかしなことを聞きましたか?」


「い、いえ……」


フィリアは少し困ったような顔になる。


「リゼはアスターをご存知ないのですか?」


「はい」


即答だった。


フィリアは目をぱちぱちさせる。


王国の人間なら誰でも知っている。

それほど有名な称号だからだ。


「田舎育ちなもので」


リゼは当然のように言った。


フィリアは少し考えた後、小さく頷いた。


「アスターとは称号です」


「称号?」


「はい」


フィリアはゆっくり説明を始めた。


「王国には特別な功績を残した方へ贈られる称号があります」


「その中でもアスターは知識に関する最高位の称号です」


リゼは興味深そうに耳を傾ける。


「長い歴史の中でも、アスターを授かった方はごくわずかしかいません」


「お父様は、その一人なんです」


リゼは少し驚いた。


王国屈指の魔法使い。


その評判は聞いていた。

だが、それほどとは思っていなかった。


「そんなに凄いお方だったのですね」


「はい」


フィリアは少し誇らしそうに笑った。


「お父様は本当に本が好きでしたから」


「寝る時間も惜しんで研究していました」


「知らないことを知るのが楽しい、といつも言っていました」


リゼは思わず昨日の図書室を思い出す。


なるほど。

少しだけ親近感が湧いた。


「ところで」


フィリアが首を傾げる。


「どうして急にアスターのことを?」


「昨日、図書室で見つけました」


「公爵様の研究記録です」


フィリアの目が丸くなる。


「研究記録?」


「はい」


「私も見たことがありません」


リゼは少し驚いた。

娘であるフィリアですら知らないらしい。


「何が書かれていたのですか?」


「まだ分かりません」


リゼは素直に答える。


「難しすぎました」


フィリアは少し安心したように笑った。

どうやら自分だけではなかったらしい。


「ですが」


リゼは続ける。


「面白そうでした」


「面白そう?」


「はい」


リゼは少しだけ目を細める。


「知らないことがたくさん書いてありましたので」


フィリアは苦笑した。

やはりこの人は変わっている。


普通なら難しい本を見て嫌になる。


だがリゼは違う。

知らないことがあるほど嬉しそうだ。


「少し調べてみようと思います」


リゼはそう言った。

その目は昨日図書室で見せたものと同じだった。


興味。

好奇心。

知りたいという純粋な欲求。


フィリアはその表情を見ながら思う。

お父様も、こんな目をしていたのかもしれない。


窓の外では風が吹いていた。


誰も知らない研究記録。

誰も知らない父の研究。


そして。


まだ誰も知らない未来。


研究記録の最初のページ。

そこにはこう書いてあった。


『マナ増幅はほぼ不可能』


『ーーその常識は誤りである』


リゼは静かに目を細めた。


「面白くなってきましたね」


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