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自分は凡人だと思っていました 〜異世界では万能らしいです〜  作者: 青野 陽


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第十一話 ドレスの採寸

翌朝。

リゼはいつものように身支度を整え、フィリアの部屋へ向かった。


ーーコンコン。


「おはようございます、フィリア様」


「お、おはようございます……」


まだ少し眠そうな声だった。

リゼはカーテンを開ける。


柔らかな朝日が部屋へ差し込んだ。

その後はいつも通りだ。


着替えを手伝い、髪を整える。

フィリアは鏡の前に座りながら小さく欠伸をした。


「昨日は遅くまで本を読まれていましたね」


「はっ……」


図星だったらしい。

フィリアは少しだけ肩を縮める。


「続きが気になってしまって……」


「睡眠は大切ですよ」


「は、はい……」


そんなやり取りをしていると、部屋の扉がノックされた。


「失礼いたします」


中へ入ってきたのは女性の使用人だった。

手には紙束と採寸用の紐のようなものを持っている。


「本日の採寸の件で参りました」


フィリアが目を瞬いた。


「あっ」


どうやら思い出したらしい。

リゼが首を傾げる。


「採寸ですか?」


「そ、そうでした……」


フィリアは少し気まずそうに笑った。


「今日だったんですね……」


女性使用人も苦笑する。


「社交界デビュー用のドレスの採寸です」


なるほど。

リゼは小さく頷いた。


そういえば新人メイドへの説明の際、メイド長が話していた。


フィリアは来年、十三歳で社交界デビューを迎える。

そのための準備が始まるのだろう。


「では始めさせていただきます」


使用人たちが次々と部屋へ入ってきた。


肩幅。

腕の長さ。

腰回り。

裾の長さ。


フィリアは少し恥ずかしそうにしながら採寸を受けている。

リゼはその様子を静かに観察していた。


だが。

一つだけ気になることがあった。


「デザイナーの方はいらっしゃらないのですか?」


部屋の空気が少しだけ止まった。

使用人たちが顔を見合わせる。

フィリアが少しだけ視線を落とした。


「専属の仕立て師やデザイナーをお願いするには、お金がかかるんです」


小さな声だった。


「今回は既製品のドレスを購入する予定なんです」


なるほど。

リゼは頷いた。


公爵家の現状を考えれば不思議ではない。

むしろ当然なのだろう。


採寸はしばらく続いた。


やがて作業が終わり、使用人たちは部屋を後にする。


静かになった部屋で、フィリアは窓の外を見つめていた。


「本当は少しだけ楽しみにしていたんです」


ぽつりと呟く。


「ドレスですか?」


「はい」


フィリアは少し恥ずかしそうに笑った。


「小さい頃は、もっと綺麗なドレスを着てみたいと思っていました」


それは年頃の少女らしい願いだった。


だが今のフィリアは、公爵家の事情も理解している。

だから我儘は言わない。


言えないのだろう。


「そうですか」


リゼはそれだけ答えた。


慰めるでもなく。

励ますでもなく。

ただ事実として受け止める。


フィリアは少し苦笑した。

やはりリゼは変わっている。


「届いたら見せてください」


「え?」


「興味があります」


真面目な顔だった。

フィリアは思わず吹き出した。


「ふふっ」


どうやらリゼはドレスそのものに興味があるらしい。


◇◇◇


その日の仕事を終えた後。

リゼは約束通り図書室へ向かった。


静かな空間。

古い紙の香り。

並ぶ本棚。

誰もいない。


それだけで心が落ち着く。


リゼは迷った末、一冊の本を手に取った。


『基礎魔法理論』


椅子に腰掛け、ページを開く。


しばらく読み進める。

さらに読む。


そして。


「……?」


眉がわずかに動いた。


もう一度読む。

数ページ戻る。


そして小さく呟いた。


「説明になっていませんね」


書かれているのは感覚論ばかりだった。


魔力を感じる。

集中する。

イメージする。

才能が重要。


なぜそうなるのか。

どういう原理なのか。

肝心な部分が書かれていない。


リゼは首を傾げた。

だが同時に興味も湧く。


なぜ誰も疑問に思わないのだろう。


しばらく読んだ後、本を棚へ戻そうと立ち上がる。

その時だった。


一冊の古びたノートが目に入る。

普通の本ではない。


革張りの表紙。

手書きの文字。

棚の奥に静かに置かれていた。


リゼは手に取る。


表紙には名前が書かれていた。


『レオナルド・アスター・アルヴェイン』


そして、その下に。


『研究記録』


「……研究記録?」


リゼは静かにその表紙を見つめた。

次の瞬間。


自然と手がページへ伸びていた。

少しだけ胸が高鳴る。


――王国屈指の魔法使いは、何を見つけようとしていたのだろう。


リゼは静かに最初のページを開いた。


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