6
お気に入り登録して下さっている皆さん、ありがとうございます
私に与えられた時間は少ない。
加奈は素早く目の前にある二つの弁当に目を走らせた。まずは肉っ!米っ!最後余裕があればほうれん草とヒジキ!瞬時に優先順位を組み立てる。
隣でべそべそ鼻をすすっている男になんぞ構ってる暇はない。
ぎっしりと詰められたお肉に遠慮なく箸をつける。ん、うま〜っしょうが焼きだ!絡んだ玉ねぎも程よくシャキシャキでいい感じ。荒川君のお母さん、料理上手なんだぁ。
ご飯によく合う濃い味付けに箸が進む。大きく口を開け、通常二口分の白米を頬張る。
ようやくありつけた食料に、お腹から脳へと満足感が伝わっていく。満たされるにはほど遠いものだが、気持ちを落ち着かせるには十分で。咀嚼を繰り返しながら改めて周りの状況を伺ってみる。
左に顔を向けると英単語帳に目を落としている美紀。
あ、次英語だっけ。私も覚えないと小テストがやばい。一問間違うごとに三十回の書きなおしで提出しなきゃいけないから、決して疎かに出来ない。範囲どこだったっけ。後で美紀に確認しようと思いながら、生姜焼きを口に運ぶ。
そのまま視線を流すと残り2と1/2個の苺が目に入る。知らず口を動かすペースを上げる。
一人、別空間にいるようにのんびりと苺を堪能しているさくら。周りに左右される性格じゃないもんね。まぁのんびりしてるように見えてちゃんと自分を持ってるから、可愛い笑顔とほんわかした雰囲気だけで寄ってきた男の子たちは、痛い目を見ることになるんだけど。
今日も変わらず大放出中の癒しオーラを感じながら、休む間なく口を動かす。
更にその隣に目をやると、携帯片手に目を輝かせている松本君。
何をしてるのかと見つめれば、どうやらカメラ機能で荒川君を撮ってるっぽい。ピピッピピッと絶え間なく鳴る音に眉をしかめる。その構図の中に私は入ってないですよね?意識して身体を左に寄せる。なにやらしきりにレアレア呟いてるけど、なんなの。満面の笑みなのも恐ろしい。
生姜焼きと共に僅かな食物繊維のキャベツに手を付けながら右横を見やる。
真正面から友人に撮られまくっているが、一向に気にした様子はない。まあこの顔だもんね、撮られ慣れてるんだろう。教室で「写真いいですか~」なんて言われてるの何回も目にした事あるし。まぁ許可してるとこなんて見た事無いけど……いつも無言で無視してたよね。それでも写真が欲しい女の子は盗み撮りに走るだろうし、きっと日常茶飯事なんだろう。
うつむき、肩を落としている荒川君は常より一回り小さく見える。な、なんだろ罪悪感が……。一人動揺していると、視線を感じたのか荒川君がゆっくりと顔を上げた。
頼りなげに下がった眉に潤んだ瞳、赤くなった鼻、固く結ばれた口元は小さく震えていて……っっつ!?不意に沸き起こった感情に加奈は大きくうろたえた。
な、なんで私可愛いとか思ってんの!?いやいやいやないないない。み、見なかった事にしよう。うん、そうしよう。ぎこちなく顔を戻す。
そうこうしている内にもバロメーターである苺は残り一つになった。
よ、よし仕上げだ!無心でほうれん草とヒジキを掻きこむ。本当に一口分しか残ってなかったから余裕だ。もぐもぐとシメの白米にとりかかる。お腹いっぱいとはいかないけど、一先ず午後は持つ。早食いしたからお腹痛くならないといいけど。
「ここ、空いてるかしら」
不意に、かろうじて疑問形ではあるものの、空いてるに決まってるわよねという傲慢さが滲んでいる声が上から降ってきた。
感想いただけると嬉しいです(〇〇だったの一言で構いませんので)
やる気が大幅に↑↑します