スライムとの初戦闘
多目的トイレだ。
良く見るとコンセントがある。
ポット買えば良かった。
そうすればお湯飲み放題だったのに。
とは言っても使える金がもうない状態で言う事じゃない。
取り合えずスライムを探そう。
目指すは単純労働、ローリスク、ローリターン。
この異世界で目標があるなら急ぐ必要もあるだろうが、僕は無理矢理異世界に連れてこられたんだから。
しかし『不老不死』じゃないらしい。
そう簡単に死なないのは良い事だけど『悔しい』って思わないような死に方をすると復活しないらしい。
んなもん、精神や脳波を操るような敵もいるだろうし、『殺された事』に気付かないように首を切り落とす使い手だっていそうだ。
そんな敵がいきなり現れないようにゆっくり進もう。
『終わり』だけは怖いし。
『それが良いと思いますよー』
女神の声が聞こえてくる。
「テメー、そろそろ姿をあらわせ!」
『貴方はレベルが上がって「神人」の声がより自然に聞こえてきていると思います。
もう少しレベルが上がれば、私の姿が確認出来るでしょう。
今はどこにいるか認識する事はかないませんが』
「というか、僕必要?
レベル上げて強くなるだけならこの世界の人間で充分じゃねーか!」
『それは出来ないんですよ。
「神がその世界の生き物に力を与えてはいけない」という禁則事項がありますから』
「だから地球から連れてきたヤツに力を与える・・・って、とんちか!一休さんか!」
『それもありますが、他の世界から連れて来る理由は他にもあります。
この世界の能力は基本、レベルなんです。
もちろんレベルが上がった時の能力の上がり方には個人差があります。
しかし地球から来た人にレベルはありません』
「なんか『ピッコマ』に載ってそうなマンガみたいな話だな。
で、僕はどういう能力になるんだよ?
『地球から来た異世界にいるヤツ』って場合は?」
『それが貴方をこの世界に連れてきた理由なんです。
例えば貴方は地球にいた時の能力の一部を表示させると"こう"なる訳です』
空中にゲームのステータスウィンドウみたいな表示が浮き上がる。
「ちから 14」
このステータスが高いか低いかわからない。
きっと低いんだろう。
ステータスの高いヤツが柔道でこんなに弱い訳がない。
『で、これが異世界での貴方の能力』
「ちから 14×10」
『この「10」というのは貴方がレベルアップで得たステータスアップ。
貴方は地球でも、異世界でも「ちから 140」と互角な訳です。
・・・それは言いすぎですね。
強さは『ちから』だけじゃない。
そこまで身体を鍛えてる者は、技量やスキルも高い。
貴方がそんな者に敵う訳がない。
話が逸れました。
全ての地球の者が『掛け算』になる訳ではありません。
逆に「異世界転移」と相性の悪い者も珍しくありません。
レベルも上がらない。
身体も鍛えられない、みたいな。
貴方はこの世界の者達と比べて遥かに能力が上がりやすい。
でも思い上がらないで下さい。
能力は低くても、貴方より遥かに強い方は沢山います』
「・・・どうしろ、と?」
『考えて下さい。
考えて、工夫して、それでもダメなら・・・』
「諦めるのか?」
『いえ、他の者を頼りましょう。
いくら、能力が中途半端に高くても魔王には遥かに及びません』
「わかった。
・・・よくわからんけど」
魔王って何やねん。
初めて聞いたぞ。
「じゃあスライム退治の時間だ!」
カッコつけたは良いけど、本当にスライムっているんかな?
いなかったらバカみたいだ。
もう一回レベルアップしたんだから、ゴブリン退治でも良い?
イヤだよ。
だってゴブリンって武器持ってるじゃん。
知ってる?
『剣道三倍段』て。
棒を持ってるだけで、三倍強い。
刃物を持ってたら三倍どころじゃない。
持っている武器が石斧だから低レベルでも倒せる。
でももっと強い武器を持っているゴブリンを倒せるだろうか?
そもそも人に近い姿をした者を殺すのは抵抗があるんだよね。
しかも、亜人・・・とでも言うんだろうか?
人に近い、二足歩行の生き物に能力の優劣がない訳がない。
イヤなんだよ!
二足歩行の人間に見た目が近いものを殺すのは!
ワガママを言ってるのはわかる。
『殺さなければ殺される』
わかってるんだって。
でも僕は平和の国から来たんだぜ?
人間に似た見た目のモンはあんまり殺したくないじゃん?
ゴブリンで強い個体は絶対にいる。
僕が柔道をやる人間の中でとびきりに弱いように。
とにかくそれが僕がゴブリンを殺したくない理由だ。
二匹目に倒したゴブリンは目の前にいたから、殺さずにおれなかった。
しかしゴブリンてどこにいるんだ?
この雑草の茂みってどこまで続いてるんだ?
少し離れても多目的トイレは見える。
もう少し多目的トイレから離れても大丈夫かな?
少し歩くと草原は湿地に続いていた。
なんかヌメヌメしたヤツがいそう。
案の定、なんかいた。
スライムってプリンって可愛いタイプとヌメって気持ち悪いタイプいるじゃん。
沼にいたのはヌメって気持ち悪いタイプだった。
しかも単細胞生物って感じ。
身体の中は黄色っぽい半透明の液体で液体の中には目玉みたいな核があって、見えている訳ではないたろうがギョロギョロと動いて気持ち悪い。
いかにも核が弱点という感じだ。
他に臓器もないし。
何にしてもこの見た目で"強い"はないだろう。
こちらに気付いているのか、いないのか意識があるのか、ないのかわからない。
スライムの方から攻撃を仕掛けてくる様子もない。
こちらからいくしかない。
頭の中でシミュレーションする。
半透明の身体から核は見えている。
とにかく核を潰す。
身体の外からふんずけるのか、握り潰すのか。
とにかく核を壊す。
そうすればモンスターに限らず、単細胞生物が生きていられる訳がない。
よし!行ったれ!
沼で水を飲んでいるのか?スライムが水辺にいる。
僕はスライムの前に飛び出す。
熱だろうか?振動だろうか?スライムは目がないはずなのに僕の"何か"に反応した。
スライムは水辺の地面に張り付いているようだったが、僕が走って近づいてきたらガバッと身体を大きく見せようとしたのか、覆い被さろうとしたのか、身体を起こした。
地面に張り付いていた時、"核を踏み潰そう"と思っていた。
だが、今、核は高い位置にある。
僕と向かい合って、僕の心臓と同じくらいの位置だ。
どうすんだよ?
弱点動きまくってるぞ?
もうスライムも迎え撃つ気満々だ。
ここで「やっぱりナシ!」って逃げる事も出来ない。
ええい!所詮は軟体生物だ!
僕は細胞膜の上から核の位置に右フックを放った。
ガイン!
柔らかいモノ殴った感覚じゃねーぞ!
後で聞いた。
『スライムは己の身体を鋼鉄のように硬くすることも、液体の入った袋のように柔らかくすることも出来る』と。
だから『スライムには物理攻撃が効かない』
とにかく金属を手加減なしで殴った状態だ。
拳は砕けた。
「イタタタタタタ!!!!」
僕は転げまわった。
地べたを転げまわっている僕にスライムがのしかかってくる。
何だ、コイツ?、と思ったらスライムは僕にのしかかってきてるんじゃない。
僕はスライムの体細胞の中に閉じ込められているんだ。
気付いた時にはもう遅い。
呼吸出来ない。
こりゃヤバい。
いつまでも息は続かない。
一刻も速く、細胞膜の中の核を潰さなきゃ。
やっと核を捕まえた。
あとはこの核を潰すだけ・・・というところで僕の身体が崩れた。
細胞膜の中、酸に決まってるじゃん。
酸で痛みを感じなかったのって、おそらくスライムの体液に麻酔効果みたいなモノがあったからだ。
僕が最後に見たのはバラバラになった自分の右足だった。
ハッと目をさます。
ここは多目的トイレだ。
誰だ?『スライムはゴブリンより弱い』とか言ったヤツは?
無茶苦茶強いじゃないか!
でも死ぬ時に痛みを感じないのはちょっと良いな。
ゴブリンの時はトラウマになりそうだった。




