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三倍段  作者: 海星
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スープレックス

 多目的トイレは機密性が高い。

 おそらくゴブリンみたいなモンスターだろうけど、ドアをガチャガチャされても鍵は開かない。

 多目的トイレの中にいるうちは安全だ。

 比較的清潔な水も手に入る。

 メカニズムは不明だが。

 しかし、人間、水だけじゃお腹が空く。

 しかも火が使えない。

 川エビとか川魚釣って食べるにしても、火を通さないと食えそうにない。

 飯は日本に戻った時に金払って食おう。

 だから次に日本に戻る時間は短くても一時間を予定しよう。

 着替えるのに30分、飯食うのに30分。

 あとカセットコンロが欲しいな。

 あとガスボンベ。

 フライパンも欲しいけど贅沢は言えない。

 しかしゴブリンを二匹は倒さないと、日本に1時間帰れない。

 あと、異世界の物を日本の金に替えれないだろうか?

 とにかく、ゴブリンより弱い敵を探そう。

 一戦、一戦、命がけとか冗談じゃない。

 おそらくゴブリンは頭が悪い。

 たぶん同じルーティンで倒せる・・・に違いな。、今はまだ出来ないけど。


 ビクビクしながら、トイレのドアを開ける。

 よかった、ゴブリンはいない。

 さて、雑魚狩りといこうか?

 雑魚モンスターの代表格と言えば『スライム』だ。

 アイツを倒しに行こう。

 食える部分あるのかって?

 ゴブリンよりマシだろう。

 ゼリーチックで意外に食えそうな部分だってあるじゃん。

 ・・・実物見た事ねーけど。

 レベル4になったから、ゴブリンとだって良い勝負が出来るかも知れない。

 しかし毎回生き死にの勝負する訳にもいかないし。

 よし、スライムを倒そう。

 覚悟を決めて多目的トイレのドアを開ける。

 ゴブリンの後頭部が見える。

 こちらには気付いてないようだ。

 スライム倒すんだろ?

 ここは見送るか?

 いや、チャンスだろうが!

 行ったらあ!

 僕はゴブリンに駆け寄ると、その腰をガッチリとクラッチした。

 いくらゴブリンの知能が低くても、腰に抱きつかれたら流石に気付く。

 あ、ヤバい。

 ゴブリンが暴れる。

 イメージは裏投げだ。

 しかし、形はジャーマンスープレックスだ。

 暴れさせる訳にはいかない。

 ゴブリンは石斧を持っているし、爪も牙も尖っている。

 僕は後ろからジャーマンスープレックスをゴブリンにかける。

 あんまり効いていない。

 柔道の試合なら『一本』で終わる。

 技が不充分なら『待て』と言われて試合が一旦止められる。

 しかしこれは試合じゃない。

 幸い、ゴブリンはゴチーンと後頭部を大きな石にぶつけたようだ。

 しかし、ゴブリンは暴れている。

 ぶつけた後頭部にダメージがなかったのか?

 否、ダメージはあったと思う。

 しかし大きなダメージを受けても『それまで!』の掛け声はかからない。

 「イテーな!

 暴れるんじゃねえ!」

 僕はジャーマンスープレックスをもう一度かけた。

 ゴブリンは余計に暴れた。

 折角後ろを取ってる。

 離したら襲い掛かってくる。

 そうじゃなくてもさっきからゴブリンが暴れて痛い。

 もう、ヤケクソだ!

 僕はジャーマンスープレックスを連発した。

 ゴブリンが動かなくなるまで何度も、何度も、何度も、何度も、何度も・・・。

 さすがに疲れてきた。

 僕はゴブリンの状態を確認する。

 さすがに死んではいない。

 『投げ殺す』とか現時点では不可能に近いのだろう。

 でも目を回しているし、脳震盪を起こしているらしい。

 そしてなにより、石斧を手放している。

 この石斧さえなかったら、ゴブリンなんて怖るるに足りず。

 僕はゴブリンの横に転がっていた石斧で、ゴブリンの頭をパコーンと殴った。

 この時に『包丁のように石斧は使える。でも武器として石斧は使えない』と自覚する。

 石斧でゴブリンの頭を殴ったら、ゴブリンは絶命した。

 『ゴブリンを倒しました!

 レベルが7になりました!

 日本に帰れる時間は30分です。

 帰りたくなったら、言って下さい』

 女神の声が耳元付近で聞こえる。

 帰るつもりだった。

 刃物を買うつもりだったのだ。

 包丁みたいな刃物を買って武器にしよう、と。

 でも結構、戦闘中刃物は装備出来ないらしい。

 あのオモチャみたいな『ゴブリンの石斧』も装備出来ないんだ。

 だったら、日本に帰って刃物を買うのはやめておいた方が良い。

 ただでさえ使える金は限られてる。

 どうしても必要なのは塩、カセットコンロとガスボンベ、手持ちの一万円ちょっとで足りるだろうか?

 砂糖はあればありがたいが今回はパスしよう。


 そして虚空の女神に語りかける。

 「30分、日本に帰りたいんだけど」

 『わかりました。

 多目的トイレの中に入って下さい』

 女神の返事があって、多目的トイレに入る。

 『多目的トイレから出れば、日本です』

 もう驚いている時間はない。

 なんせ30分しか時間がないのだ。

 しかし柔道着で街に出るしかない。

 近くに武道館があるからギリOKか?

 そんな訳ないか。

 そんな恥ずかしがってられない。

 早くカセットコンロを買わなければ!

 どこでカセットコンロって売ってるんだ?

 ホームセンターにはありそう。

 ホームセンターの看板を探す。

 『ホームセンター◌◌まで15キロ』

 後、残り十数分でそこまで走れ、と!?

 絶望だ。

 武道館のすぐそばに金物屋がある。

 もう藁にも縋る感覚で、金物屋の親父に『カセットコンロとボンベはありませんか?』と聞く。

 「あるけど・・・何でそんなもんが必要なんだよ?」

 まあ、高校生が危険物を買おうとしてたら大人は確認もせずに売れないわな。

 「訳ありなんです!

 どうしてもサバイバル生活をしなきゃいけないんです!」

 嘘ついてもしょうがない。

 本当にサバイバル生活しなきゃいけなくなったんだもん。

 「わかった。

 カセットコンロとガスボンベ三本とフライパンとまな板で五千円で良いや。

 悪いが刃物は売ってやれない。

 親かなんかの許可を取りな!」

 話のわかる金物屋の親父で良かった。

 でも売ってもらった物は安いんだろうか?

 とにかく急いで帰ろう。

 30分以内に帰れるかどうか微妙だ。

 「ちょっと待った」

 金物屋のオヤジが声をかけてくる。

 何だ、こちらは急いでるんだよ。

 「良いか?

 後片付けまでが料理だ。

 料理して散らかし放題にするなよ?」

 オヤジが僕に小汚ない竹箒を投げてよこす。

 どう見ても売れ残りだ。

 「サービスだ。

 代金はいらねー」

 もしかしたらオヤジは良いヤツなのかも知れない。

 空気が読めない変なヤツなだけで。


 ・・・戻って来られなかった。

 道端で消えて、多目的トイレに現れ戻って来た。

 片道間に合えば、問題ないんだろうか?

 それとも何らかのペナルティがあるんだろうか?

 

 

 

 

 

 

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