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三倍段  作者: 海星
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エルフ

 妹が寝ぼけている僕の着付けをやってくれている。

 寝ぼけてなくても女子の制服なんて着れない。

 目を閉じてたら頼まなくても服着せて、髪の毛セットしたりしてくれるんだから流れに身を任せとけば良い。

 今後に及んで『女の格好したくない』とか言ってる場合じゃない。

 『女神の眷属』になったとき『世の中の理(ことわり)』が変化した。

 この世界で僕が男だった事を知ってるのは僕だけだ。

 そして僕は今現在、誰がどう見ても女だ。

 『僕は男だ!』なんて駄々をこねてるよりは、あるなら『男に戻る方法』を探るべきだろう。

 そこにいらん時間を割く訳にはいかない。

 そして眷属である限りは女神には逆らうべきじゃない、主なのだから。

 なんでそんなに前向きなのか?

 異世界で「やってらんねー」ってイヤイヤチンタラ動いてた時の死亡率(この場合死に戻り率と言うべきだろうか?)が無茶無茶高かった。

 前向きに取り組まなくちゃ全然楽しくもない。

 そうだ。

 僕はまだ高校生、可能なら『男だろうが女だろうが日々を少しは楽しみたい』


 就職したばっかりの従兄弟がいっていた。

 『学生のうちは楽しめ。無理矢理にでも楽しめ。社会人になると楽しんでいる最中でさえ現実に引き戻される』

 僕に従兄弟の言う事はわかったような、わからないことのような微妙な感じだった。

 だが『僕が学生じゃない異世界』に行った途端に理解した。

 『学生は天国だ。

 ここは地獄だ』と。

 だから僕は男とか女とか関係ない。

 日本にいる間は楽しもう。

 男に戻るのを諦めた訳じゃない。

 男に戻る事だけに固執して高校生活を浪費するのはもったいないじゃないか。


 「お姉ちゃん、何をブツブツ言ってるの?」

 いかん、いかん。

 独り言を呟いてたみたいだ。

 「アイツなんか1人でブツブツ呟いてるぜ?

 キモチワリー!」そんな事言われたら、僕、生きていけない。

 僕はパリピの陽キャ女子を目指すんだ。

 可愛く生まれ変わったら、その人生を楽しみたいと思わなきゃ嘘だよ。

 だってアイツら人生楽しそうじゃん?

 死ねば良いのに。

 アイツら、全体的に思い遣りが足りないよね。

 

 「着替えたか?いつまでも朝は弱いんだな」と顔が赤を通り越して、紫色になり始めている正喜が言う。

 平静を取り繕ってるが、照れまくってるじゃねーか。

 コイツは面白い。

 しかし、あんまりからかって挑発しまくっても、本気でムラっときて襲われたらシャレにならない。

 ほどほどにしておこう。

 「さてと、ジャムにしようか?

 バターにしようか?」

 「お姉ちゃん、ご飯とお味噌汁にジャム入れるの?」と妹が眉をひそめる。

 お前・・・一度も僕に和食作ってくれた事なかったじゃんか!

 まぁ、それは僕が男だった場合だが。

 『腹減ったら焼いて食え』といわんばかりに食器棚に入った食パンを欠かした事はなかったけど。

 妹はどうも『お姉ちゃん大好き』っ娘らしい。

 ・・・いや、元々高校に入学してくるまで『お兄ちゃん大好き』だったか。

 なんせ才媛のクセに、わざわざ僕の高校ぬ入学してきやがったし。

 

 僕と妹と正喜。

 食卓を囲む事になった。

 「お姉ちゃんと正喜さんはお付き合いとかされてないんですか?」と妹。

 僕は飲んでいた味噌汁にむせてしまった。

 しかし僕が『女になった世界』で二人がどんな関係かなんて、実は僕も知らない。

 「俺らがまだ保育園に通ってた頃、俺がライチにプロポースした」と正喜。

 「で?で?で?お姉ちゃんの答えは???」

 「『お互い、800年後に独身だったら結婚しよう』って」と正喜。

 「『800年後』?

 エルフか!」と僕。

 「お前が言うな!」と正喜。

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