料理
バイトが終わった。
『夜遅いからどーだ』なんて考えた事はなかった。
でも女の子が夜の10時前に繁華街を歩いている事に抵抗はあった。
「あの子こんな時間にどうしたんだろう」って。
『怖い』というより「なにしてんだ?」と。
自分もそう思われてると思うと、・・・何て言ったら良いんだろう?
『やってられない』かな?
『闇バイト』の勧誘は、もっと早い時間だった。
知らない間に日本も治安が悪くなってるのかも知れない。
女神は『一週間ぐらいは日本で過ごせる。でもそんなギリギリまで日本にいない方が良い。どうしても日本に帰りたくなったときに、普段からギリギリまで日本にいると、いざという時に異世界から帰れなくなる』と。
で、今回の日本滞在期間は二泊三日。
つまり、明後日には異世界に戻らなくちゃいけない。
正直、女体化した事で色々と面倒臭い。
でも異世界に引っ越したいなんて全く思わないし『男に戻れない』なんて考えてもいない。
女神は『男に戻れる』なんて名言はしていない。
僕もハッキリは聞いていない。
「戻れる訳ないじゃん」なんて言われたら、怖くて実は聞けない。
しかし女になった事で家族との関係はどうなるんだろうか?
友達との関係はどうなるんだろうか?
部活での立ち位置はどうなるんだろうか?
色々考えると暗い気持ちになってくる。
えーい、悩んでもしゃーない!
今から家に帰るんだもん。
嫌でも『妹』との関係はハッキリする。
妹とはここ数年、まともにコミュニケーションを取れていなかった。
「それが普通だ」という妹がいる友達もいる。
「それは異常だぞ」という妹がいる友達もいる。
結局のところ、兄弟の形なんて家族の数だけある。
仲の良い兄妹もいれば、仲の悪い兄妹もいる。
ましてや今、僕と妹は姉妹だ。
つーか、妹の中に僕は『女の子として生活していた』という偽りの記憶があるらしい。
いきなり僕が女体化して家族から「お前誰だよ?」と言われるのか、家族が女体化した僕を受け入れるか、の2つに1つで僕の場合は『姉』として受け入れられている。
これ、家から追い出されない、という意味じゃラッキーではあるんだけど『家族とどう接して良いかわからない』という意味じゃ本当にややこしい。
そんな事を考えながら歩いていると、僕は家に帰ってきた。
マンション入り口のカードキーは財布の中に持っている。
玄関の鍵もポケットの中に持っている。
何で自分の家に入るのに、遠慮が必要なのか?
僕は深呼吸した後にドアノブをまわそうとすると、勝手にドアが開いた。
ドアを内側から開けたのは妹だった。
妹は僕を心配していたようだ。
「何かウェイトレスだった」と僕。
「あたりまえじゃない。
このビジュアルでウェイトレス以外なら、その方が驚きよ」と妹。
ファミレスのウェイトレスが嫌で、よくわからないバイトに申し込んだら、実はそれが『闇バイト』だった。
実際にそこで働いてはいない。
やった事といえば『闇バイト』の連中からカップ麺を大量に盗んだことだ。
・・・よく考えたら、僕の方が犯罪者なのか?
家に帰ったら、結構なごちそうが作ってある。
妹が作ったモノだ。
間違いない。
今までだって、何度も作ってくれているから。
『今晩はいいや、冷凍しといてよ。
いつか食べるから』
こんな事を何回も繰り返して、冷凍庫の中は妹の作った料理だらけだ。
妹の料理を食べるのが嫌な訳じゃない。
昔から言われてた。
『優秀な妹。出来の悪い兄貴。
なのに妹は家事までそつなくこなす。
兄貴は学業もスポーツもまるでダメなのに、家の中の事すらまるでやらない』
何を勝手な事を言っているんだ。
優れた人間は片手間に色々な事が出来る。
僕が家事をやった時、朝から晩まで家事で手一杯になった。
しかも僕はとてつもない『メシマズ』だ。
優秀な妹に家の中の事を全てやらせるのが嫌で用事を外で済ます事が多くなり、食事も外食が多くなった。
その副産物というか、とにかく妹と接する時間が少なくなった。
別に嫌っている訳じゃない。
どちらかというと『全てをやらせている罪悪感』だ。
あからさまに避けた態度を取られたら、妹も僕の事を良く思わなくなる。
何時の間にか『お兄』と呼んで、よそよそしくなる。
子供の頃の『お兄ちゃんのお嫁さんになる!』というベタベタしていた妹が嘘のようだ。
僕が女体化している世界では僕と妹の仲はどうなっているんだろうか?
台所に貼り紙がしてある。
『お姉ちゃんは絶対に料理をしないで!』
文字の後にドクロのマークが3つ並んでいる。
どうやら僕の料理を食べて、妹は生死の境を彷徨ったらしい。
何にしても僕が女体化している世界じゃ僕は妹に異様なくらい懐かれている。
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