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三倍段  作者: 海星
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3/7

試行錯誤

 まただ。

 また小人に殺されたはずなのに、トイレで目を覚ました。

 ここがセーブポイントになってるっぽい。

 人は死んだらそこで終わりだ。

 死んだ後、セーブポイントに戻れるとしたら『もうけた!』と思わなきゃ。

 思わないで何の策も練らなかったら、僕に待ってるのは『三度目の死』だ。


 この後、同級生が呼びに来るはずだ。

 そして世界がよくわからないが転換する。

 あ、転換する瞬間がわかる方法がある!

 転換したらトイレの上には大空が広がっているはずだ。

 転換する前はトイレの天井は白い壁のはず。

 世界が転換した途端にトイレの上から外に出るのだ。

 どこへ逃げる?

 誰が逃げると言った?

 僕だって二回も殺されて許してやる気はない。

 奇襲をかけるのだ。

 天井が青空に変わった。

 どういうメカニズムなのかはわからない。

 『転移』というのだろうか?

 このタイミングしかない。

 僕は便器の上に登り、タンクに登りトイレに近付いてきた小人を逆に攻撃する。

 「いきなり攻撃して胸が痛まないのか?」

 んなもん、2回も無抵抗のところを殺されてたら攻撃したって文句を言われる筋合いはない。

 それに『殺されないために殺す』なんていうのは過剰防衛かも知れないが防衛行為だ。


 しかし、どうやって殺そう?

 こちらはほぼ徒手空拳で相手は石斧を持っている。

 武道館で着替えるときに靴も靴下も脱いでいる。

 トイレじゃ備え付けのスリッパを履いている。

 だから僕が身に付けているのは、柔道着とトイレのスリッパだ。

 つまり僕が使えそうな武器は『トイレのスリッパ』だけだ。

 普通に闘ったら、おそらく負ける。

 だから僕は小人に奇襲する事にした。

 僕は小人がどこから現れるか知っている。

 なんせ2回殺されているんだから。

 だから『死角』になるように、小人に気付かれないようにトイレの上に昇る。

 若干高所だ。

 普段だったら怖がっていただろう。

 だが、2回『何の理由もなく』殺されていたら、頭に血ものぼる。

 怒りで恐怖は小さくなる。

 この後、小人はトイレのドアをノックする。

 このタイミングだ。

 トイレの上から小人の右肩の鎖骨を踏み抜くように折る。

 小人の右肩はダランと垂れ下がり、石斧を持つ事は不可能になった。

 「ふん、どうやらもう武器は持てないみたいだな」僕は勝ち誇るように小人に言う。

 良く考えたら、何で僕がこの場面で勝ち誇れるのかわからない。

 だって僕だって小人以上に武器ないじゃん。

 僕が装備してるのなんて、柔道着とトイレのスリッパぐらい。

 ・・・そんな事を思っていると、小人が左手を振り回してきた。

 小人の左手の爪が僕の頬に軽く(かす)る。

 僕の頬から血が滲む。

 コ、コイツ!

 爪も武器だし、妙に尖った犬歯も武器っぽいな!

 力はないっぽいが、動きは物凄く速いのかも知れない。

 僕は小人の左腕を自分の右腕で後ろに引き寄せた。

 すると、小人の胸と僕の胸はピッタリくっついた。

 何をしてんねん。

 柔道なら引き寄せたり、引き離したりが戦略になる。

 しかし、僕に噛みつこうとしている小人を胸元に引き寄せて、どないせいと。

 相手が僕の首筋に噛みつきやすいように、敢えて引き寄せたのか?

 小人は僕に噛みつこうとしている。

 こちらに来る小人に脚をかける。

 『出足払い』だ。

 小人に綺麗に技がかかる。

 小人は受け身が取れない。

 硬い地面に後頭部を打つ。

 「グエェ!」小人が断末魔の声をあげる。

 小人は動かなくなる。

 殺したか?

 どうしようか?

 『やらなきゃやられる』

 僕は小人の喉を体重をかけて蹴り潰した。

 僕は生まれて初めて、殺意をこめて攻撃を繰り出した。


 するとどこからか自動音声のような声が聞こえる。

 『タイチはゴブリンを倒しました。

 レベルは1〜4に上がりました。

 タイチの能力値のパラメーターが上がりました。

 タイチの日本での活動時間が30分増えました』

 わけわからん。

 『わかりませんか?

 今回は初回です。

 試しに日本へ戻りましょう。

 それではタイチは30分、日本へ戻ります』


 ふと気付くと僕は武道館のトイレにいた。

 『大便ボックス出たら大草原なんだろ?』と思っていたが、どうやら武道館のトイレのままだ。

 そういや、顧問に呼ばれてたんだった。

 応援席にいる顧問のところに集まっている、我が柔道部の面々の表情を見る。

 続いて顧問の表情を見る。

 生徒達はシュンとしていて、顧問は真っ赤で今にも爆発しそうだ。

 「次の団体戦だが、太一、お前、先鋒で行け!」と顧問。

 んな無茶な!

 僕はいつも副将か大将だ。

 「勝てない大将はいらないんだよ。

 たまには部の役に立ってみせろ!」

 「・・・はい」

 対戦校は県立高校。

 しかし無段者はいない。

 程よく鍛えられてるようだ。

 僕は先鋒として試合線に立つ。

 対戦相手と引き手争いをする。

 僕、こんなに引き手争い強かったっけ?

 結局、僕が『出足払い』で一本勝ち。

 えー、僕って公式戦で勝てるんだ。

 でも、次の試合は判定で負けた。

 まぁ、こんなもんだろ。

 でも公式戦で勝てたのは気分が良い!


 「こんな小さな勝利に満足してるんじゃダメだ!」天界から見ていた女神が大きなため息をつく。

 「まだまだ勝利を渇望させないと!

 負けた事を悔しがらせないと!

 ・・・でないと・・・・」

 『でないと彼は救世主になれない!』

 僕自身がなれるなんて思ってない。

 僕は『ついに柔道の公式戦で1勝出来た!』と喜んでいる一山ナンボの凡人以下だ。


 だが、女神は僕を本気で救世主にしようと企んでいる。

 


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