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三倍段  作者: 海星
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高嶺の花

 間違いない。

 断言出来る。

 身体のバランスが少し変わった。

 前のバランスに戻したい。

 でもそれは不可能らしい。

 理由は自分でもよくわからない。


 ちょっとした違和感の時は「何か変だな」という程度だった。

 だが思ってしまった。

 「小便がしたいな」と。

 腹が減っていたのに腹に入るのは水だけ。

 そりゃ小便もしたくなる、というものだ。

 少しぐらい小便は我慢しよう。

 筒に力を入れる。

 小便を我慢する時のいつもの感覚がちょっと違う。

 ・・・アレ?

 なんで漏らしてるんだろう?

 「我慢が限界を迎えた」とかそんなんじゃない。

 「我慢の仕方を忘れた」

 そんな感じだ。

 だいたいそんなに我慢する必要なんてない。

 だって、ここが多目的トイレの中なんだから。

 たまにある『便器の前まで行ったら、安心して我慢が出来なくなって漏らす』

 そんな感じだろうか?


 ・・・にしても困った。

 柔道着しかないのに、その柔道着で失禁してしまった。

 いままでもかなりばっちかった。

 今回失禁して止めをさしてしまった。


 どうしよう?

 『一旦、日本に戻りましょう。

 武道館にアナタの着替えの制服が置いてあるはずです』と女神。

 んな事言ったって、コッチは小便漏らしてるんだぜ?

 みんなが集まってる更衣場所にいけるかよ!?

 『みんながいない時を見計らって更衣場所に行って、みんながいない時に着替えを取って来るんです!』

 ・・・そんな簡単に言わないでよ。

 バレたら高校時代『ションベン漏らし虫』としてバカにされながら過ごさなきゃいけないかも知れないのに。

 『アナタはスライムを3匹倒しています。

 つまり一週間ぐらい連続で日本に戻る権利があるのです。

 無駄遣いはやめましょう。

 そしてこの生活を楽しみましょう!』

 何で殺し合いを楽しまなきゃあかんのじゃ!

 僕は快楽殺人者かい!


 とはいうものの日本に戻りたい。

 いつまでもスライムやゴブリンと殺し合いをしていたくはない。

 そして何より今は着替えたい。

 

 多目的トイレの個室に戻る。

 そこで女神に「日本に戻りたい」と伝える。

 『アナタには現在、日本に丸3日間戻る権利があります』と女神。


 目の前から女神が消える。

 ガヤガヤと人同士の話し声が聞こえる。

 バレないだろうとは言え、こちらはションベン漏らしてるんだ。

 極力人とは会いたくない。

 さっさと更衣場所の荷物置き場へと急ごう。

 お、あそこらへんに着替えとか荷物とか置いたんだ。

 僕はコソッと走りだそうとする。

 ・・・が『何者か』に走り出すのを止められた。


 僕は走りだそうとしたところ、手首を何者かにガッシリ掴まれた。

 「アンタ、何してるの!?

 男の子の更衣場所、覗き込んでると思ったら、今、更衣場所に入ろうとしてなかった!?」

 僕の手首を掴んだ女の子の顔を見る。

 僕が柔道部に入った理由を説明しよう。

 僕が一方的に一目惚れした『高嶺の花』の女の子が柔道部に入部したから。

 説明終わり。

 で、柔道部の男子部と女子部ってほとんど交流がない。

 で、今年顧問の先生が代わって『合同行事』が去年より多いっぽいんで男子が勝手に盛り上がっている。

 だから僕も今日は『高嶺の花』とお近づきになる機会だと思っていた。

 でも現実はどうだ?

 男子部と女子部は同じ岸根公園近くの武道館に試合に来ておきながら別行動だ。

 それは女子部が男子部を見下しているからに他ならない。

 女子部には『高嶺の花』の女の子と、その取り巻きがいる。

 『高嶺の花』の女の子、彼女は「高梁嶺花(たかはしりょうか)」という。

 彼女は文武両道。

 そして美しい。

 高校から柔道を始めた者は男女に限らず基本的にたいして強くない。

 だが例外もいる。

 銀メダルを取って、後に格闘家になった『小川直也』は高校から柔道を始めている。

 嶺花(りょうか)も高校から柔道を始めたクセに神奈川県ではちょっと名の知られた存在だ。

 その嶺花(りょうか)様が何か知らないけど僕の手首を握っている。

 「貴女、男には全く興味がないみたいな顔してたクセに男の着替えには興味津々なのね」

 クスクス笑う嶺花(りょうか)様は僕の方を見てギョっとした顔をする。

 「貴女、何考えてるの!?

 柔道着の下、Tシャツもスポブラもつけてないの!?

 その格好で着替えてる男のところに行こうとしてたの!?

 自暴自棄だったの!?」

 何が何やら、だ。

 わけがわからん。

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