09
三月になってしまった。
結局土曜日にした結果、何故か付き合ってくれなくて時間だけが経過してしまったのだ。
いいよと受け入れてくれたあの日に動いておくべきだった。
「まあ、それはそれこれはこれということでバレンタインデーのお返しだ」
「ありがと」
「ただ、あれからも普通に来てくれているよな? なんで出かけることは駄目なんだ?」
「別に」
異性と仲良くすることは難しい。
だが想像通り、こちらがその気になり始めるとこうなった。
つまり余計な欲を捨ててしまえば元に戻る……のかと言えばそうではないよな。
既に出てしまっていてわかられてしまっているのなら今更隠したところでもう遅い。
無理やり抑え込んだところで気に入られるためにそうしていることがバレバレだ。
「鉄、そろそろ付き合ってもらうぞ」
「別にいいよ、普通に迎え入れてくれただけで満足している」
母がいなくなってからいちいち祝ってもらうことはしていなかった。
だから急にそれをやられても気恥ずかしいから駄目だ、あとはそれどころではないのだ。
誕生日プレゼントをしつこく買おうとするのはもう気持ちが悪いから諦めるとしても普通に出かけることもできなくなったら終わりなのだ。
最初の頃とは全く違う、末吉はそれぐらいの存在になっている。
少し焦っているのは名前呼びの件だって大きい。
「駄目だ、そのまま言うことを聞いてなにもしなかったら自分の誕生日のときに求めづらくなるだろ」
「はは、自分から求めていくなんてすごいな」
「当たり前だ、家族以外からも祝ってもらいたいだろ」
なら彼のことも考えて受け入れる、わけがない。
それはそれこれはこれとはここでも使える、心配しなくたってちゃんと祝う。
やれることは少ないからどうせまた食事代を出すとかで終わってしまうだろうがなにもないよりはマシだと思ってほしい。
「んーおめでとうとは言ったけどやっぱりなにかあげるべきだったのかな?」
「気にしなくていい、そもそも勝手に教えた貫一が悪いんだからな」
「それはそうだ、だって俺が言わなければ誰にも知られないままただ終わっていただろ」
だからそれでいいって言っているのに……。
なんか恥ずかしいよ、一色だってどうでもいいのに一応言葉を吐かなければならなくなった。
これだと自分では言えないから彼を使ったみたいに見えてしまう、巻き込まれた側からすれば余計にそう強く感じるのではないだろうか。
「あーもううるさい! なんで私の席のところでやるの!」
「おっと、すまん」
「ごめんね? もういくからね」
どうでもいい話題で盛り上がられていたら気になるよ。
そういうのもあってこちらも彼女に謝っておいた。
「貫一はともかく一色に対してはあれでよかったのか?」
「そもそも君のせいなんだけど」
そう言われたらどうしようもなくなるが……。
「はぁ……ちょっと付いてきて」
気になったからだが彼女からすれば一色を利用しているように見えて不快か。
謝罪だけで済ませて二人みたいにさっさと戻っておくべきだった、これも俺が悪い。
「なんで直接教えてくれなかったの」
「え、そんなことで怒っていたのか?」
「……嫌い」
「い、いや、一色にだって貫一が当日に勝手に教えただけだ」
誕生日は三月に入ってすぐだったから自分で言っておいてあれだが違うか。
やはり下心というか警戒して出かけるのをなしにしただけでしかない。
「悪かったよ」
「そうやってわかってもいないのに謝るのも嫌い」
「もう戻るから許してくれ」
最初の状態に戻せるかどうかなら無理だと言うしかない。
だがこれは自業自得だから離れることが俺に唯一できることだ。
そして自業自得だとはわかっていてもいましつこくこられると困るから貫一がまた言ってきたら受け入れようと思う。
「よう」
「お、昼休みに鉄の方から来るとはな」
「いまはただの散歩だよ、一人でいたから寄ったんだ」
「なら違うところにいこう」
「助かるよ、年上ばかりの教室は気になる」
流石に残すことなんてできないからもう弁当は食べてきた。
それでもまだ十五分は残っているから大人しく教室に戻りたくなかった結果がこれだ。
誰が来るというわけではなくても一人ぽつんと座っているといまは気になる。
「受け入れる気になったということだよな」
「俺ってバレバレだよな」
そりゃこんな人間が相手なら警戒しておくぐらいがいいわ。
「その方がありがたいよ。そうだな、今日は母ちゃん父ちゃんも一緒にがっつりやるか」
「となると肉を買って焼くとかだよな」
「肉を焼くのはそうだが焼肉屋にいく、俺が全部出す」
これは無駄に抵抗したからかもしれない、こんなことになるなら当日に受け入れておいた方がよかった。
母はこちらのことを考えておめでとうだけで済ませてくれていたが彼のことを舐めていた。
「い、いや、食べ放題の店でも金が吹っ飛ぶぞ」
「構わない、なにか鉄のためにすることができるのならな」
俺の分はまあ……甘えるとしても父さんの分は出させてもらおうと決めた。
流石に全額出してもらうのは無理だった。
「結局、いつものメンツになったな」
彼がいればなんでもいいのか参加したがった一色と、金を出すことを話したら受け入れなかった両親と、色々なことが重なって結局そうなっている。
意外だったのは彼も一色も誘っていないのに末吉も参加したということ、一応は伝えておいたのだろうか?
「さ、今日は俺が金を出すから遠慮をしないで食べてくれ」
「焼肉屋さんとか久しぶりですっ」
「そうか、なら俺が焼いてやるから広子は食べることに専念してくれ」
そうか、名前呼びにしたのか。
いまは水を差すのもあれだから言わないが末吉の分は俺が出そう。
というか、どうせ沢山食べられないからこちらも主に焼く係をしていた。
「ん? どうした?」
「……あとでちゃんと付き合って」
「おう、ちゃんと付き合うから食べてくれ」
「うん」
彼女も食べ始めてくれたのだが……一色の勢いがやばくて二人で焼いていてもすぐに足りなくなってしまったという……。
腹がいっぱいになるよりも時間的に無理になって出ることになったのは初めてだ。
慌てて謝ったりしないのはよかったがにっこりと笑みを浮かべてまだまだ食べられますよとでも言いたげな一色にまた震えた。
「じゃ、広子を送ってくる」
「おう」
金は今日じゃないどこかで渡すことにしよう。
一応は考えられるようになっている、気づかずに表に出して警戒されたりもするがそういうときばかりではないということだ。
「とりあえずお風呂に入ってきてもいい?」
「でもさ、末吉がそれでも俺はそのままだぞ?」
「このままの状態で近くにはいたくないだけ」
「それなら送った後に俺もさ」
来てもらうならいいが上がらせてもらうならこうするしかない。
「な、なにか変な勘違いをしていないっ?」
「いや、気になるだけだ」
「……わかった、じゃあほら早くいこ?」
何回も言っているように大して距離があるわけではないから一旦別れてさっさと済ませて戻ってきた。
今回はリビングではなく部屋が選ばれたわけだが別になにか変なことをするわけではないからな、重く捉える意味もない。
また、仮にここで変な風に考えてしまったら同じ失敗をしてしまうということだから駄目だ。
「来てもらったけど……することとかないね」
「俺からすれば学校以外で末吉といられているのは大きいけどな、だけどこういうところが嫌だったんだろ?」
それでもそれ以外のことは言える内に言っておかなければならない。
「違うよ、お出かけしなかったのは恥ずかしかったからだし……その後のことは君にも言ったように直接言ってくれなかったからだし……天田先輩は仕方がないとしてもおめでとうって広子に先に言ってほしくなかった」
「そうか、なら当日の朝にでも言っておくべきだったな」
これも向こうでちゃんと他人と仲良くできていたら起こらなかったことかもしれない。
「君はみんなには吐かせるけど自分はなにも言わないからね、いまのが初めてでしょ」
「今日か土曜に付き合ってほしいとかは該当しないのか?」
「しないよ、それはお友達同士だったら普通に言うことだもん」
「えっと、ならもっと欲求に正直だった方がよかったということか?」
勇気を出せということか、なんでも動いてもらおうとするなよとそういうことか。
だが俺も任せっきりにするつもりはなかったがな、出かけられていたらそのときは本当に動いていたのだ。
「そうだね、私といたいならね」
「だけどその場合は引かれてそれこそ警戒されていただろ」
「どんな風に考えていたのかわからないしされたことがないからわからないよ」
「一緒にいたい」
「はは」
い、いや、笑っている場合ではなくてな。
一色という友達は最初から最後まで貫一一筋でなにか期待できたわけでもないしな。
「まさか君がそんなことを言ってくるようになるとはねー……というわけでもないんだよね、だって最初からおかしかったもん。私が偉そうに言っても怒らないし、なんか合わせてくれたし」
「その頃は別に意識をしていたわけじゃない、俺がそういう生き方でいたというだけでさ」
「ならいまは違うんだよね?」
「目を逸らしたって仕方がないからな、そうだよ、だから出かけられなくなったりすると困る、嫌なんだよ」
安定して来てくれる人間を求めてしまうのは経験がないからとかは関係ないと思う。
「それなら君も勇気を出してさらっと名前で呼んでくれるぐらいじゃないと……というのも意味ないんだよね、だって名前で呼ぼうとしたところで止めたのは私だし」
「日和」
「う゛……血が繋がっていないのになんでここまで天田先輩に似ているの……」
「貫一はもっと上手くやるぞ」
隙を見せたのはバレンタインデーのときのみ、しかも家族にしか見せていないからノーダメージだ。
興味を持ってくれているからといって自らくれくれくれと重ねるような人でもない……よな? だから結局は色々な意味で前に進めるイベントでしかなかった。
「そもそも天田先輩がいたからって広子じゃなくてこっちに興味を持ったのも意外なんだけど」
「一色は最初から徹底していたからな」
「だ、だからさ、その始まりだって私と広子で大して変わらないでしょ?」
「好きな人がいる人間に対して頑張ろうとはできないだろ、日和だって仮に貫一が好きでも親友が頑張っていたら遠慮をするだろ、そういう人間だ」
仲良くなれそうにない状態から変わっていたわけでって、一色が消えることはないのだから意味のない話ではあるが。
「……なら私に好きな人がいなくてよかったね、だっていたら自分のせいで頑張ることもできなかったわけだし」
「いや、その場合ならそれはそれでよかったんだよ。友達が楽しそうならそれでいいからな、まあ、既にいたら友達にすらなれなかっただろうからそこは寂しいけど」
「なにそれ」
「適当じゃない」
信じてもらいたくてじっと見ていたら違う方を見られてしまった。
彼女の部屋だから動きづらい、この貰った飲み物を飲んでおくぐらいができることか。
「って、なにを言い合っているんだろうね、別に関係が変わったわけでもないのに」
「だな」
「お部屋だったからかなあ、これだったら大人しく君のお家にいっていた方がよかったよ」
「いくか?」
「ううん、今日はやめておく。あと、ちょっと一人で考えたいからもういいかな?」
こうなったら帰るしかない。
寄り道をしないで帰って母が急に来たりしないようにリビングでぼけーっとしていると「いま帰ったのか」と貫一が現れた。
「焼肉、ありがとな」
「おう、広子も満足してくれたみたいだからよかった」
「はは、一色の存在は大きいな」
「おう」
ついでに胃袋も大きいな。
「だが、また新たな不満が出てきたんだ、それは末吉となにかあったのに言ってくれなかったってことだ」
「はは」
ではない、どれだけ俺は下手くそなのか。
末吉の様子を見てからだとしてもきっかけを作ったのは俺だし負ける内容だ。
「笑い事ではないぞ、大人しく家にいると思えばいなかったしな」
「日和に誘われて家にいっていたんだ」
「風呂はこっちで入ったみたいだが」
「流石に焼肉屋にいってそのまま人の家に上がるなんてできないよ」
「ぐっ、そういうところも父ちゃんから聞いた情報通りだからな、つまり嘘ではない……」
いや父ちゃん、父もなにをしているのか。
知りたいなら俺に聞いてくれよとも思う、流石に父よりは自分のことを知っている。
「家族が相手なら嘘はつかないよ、聞かれていなかったから言わなかっただけだ」
「なら言ってもらえるようにはっきり言っておくが、最初のあれはなかったことにしてほしいぐらいいまは広子のことが気になっている」
「お、おう、別に無理をして言わなくてもいいけどな」
「俺は言ったから鉄も頼む」
隠すことではないから言っておくか。
「確かに一人で考える時間は必要だがそれはきついな」
「んーまあ適当に付き合うようになっても嫌だからな」
だからあれぐらいでいい。
仲直りできたからいまは二人の応援をするだけだ、なにかが起きるとしても二人がくっついてからで十分だと言える。
「よし、明日末吉と話してみる」
「まあ、本人が嫌じゃないならいいんじゃないか」
「鉄もこっそりと広子と仲良くしているからな」
ならもっといって内のそれを刺激してやろう、なんてな。
日和が来ない限りはいかなくていいからなにもなければ席に張り付いているだけだ。
賑やかだからそれに任せて寝るのもいいかもしれない、放課後に寝るよりもな何故かその方が気持ちがいいのは知っているからな。
あとは彼に怒ったついでにこちらにも「大体君もねえ」とならなければいい。
というか、俺らはまず連絡先を交換するところからやるべきだった。




