08
「んが……寝てしまっていたか……」
もう教室も暗い、帰るか。
荷物をまとめて立ち上がろうとしたところで急に足を掴まれて飛び上がることになったが。
「そ、そんなところでなにをしているんだよ?」
「うるさい……」
手の主は末吉でもう一度座るように言ってきたから聞いておいた。
もう一度机の下に隠れたりせずに横の席に座ってくれたからその点はいい。
「広子と喧嘩した、なんで君には教えるのってしつこく聞いたら『もうやめて』って言われて戻ってきたの」
「そりゃそうなるだろ、なんでかなんて自分でもわからないときがあるんだから」
「で、君が呑気に寝ていたから待つことになったというわけ、なんで帰らずに寝ていたの?」
「ゆっくりしていたら負けたみたいだな」
あの決めたルールをすぐに守れずに捨ててからはこんなことばかりだ。
ただ、元々ぼうっとしているのが好きだから自分のことなのに違和感のある行動とはならないのはいい。
「遠慮をしないで起こせばよかったのに」
「そういうわけにもいかないでしょ、それだと八つ当たりをしているみたいじゃん」
「なら悪かったよ、帰ろうぜ?」
「うん」
先程まで寝ていたのもあって普段よりも寒く感じた。
今日はもう手伝うのも手遅れだろうから明日からまた頑張ろうと内で決めた際に手を掴まれて意識を向ける。
「仲直りできるから安心しろ、ただ困ったからやめてって言われただけだろ?」
「違う、どんどんといっちゃうからちゃんと付き合ってほしかっただけ」
「そうか、なら横か前に来てくれよ」
「それならここ」
「あ、歩きづらいな」
ただ歩くために腕を振るだけでも当たってしまうぐらいには距離が近い。
寒いからなのもあるだろうがいまは誰かにいてもらうことで一色とのそれでできたなにかをなんとかしたいのかもしれない。
「おでんでも食べるか」
「うん」
俺では大して役に立てないから温かい食べ物達に頑張ってもらうしかない。
買った物を適当に外を見ながら食べていると「美味しいね」と言ってきたからああと頷く。
「実際は君がいるとは思っていなかったからラッキーだったんだよ、まあ、そのせいでこんな時間まで帰られなくなったんだけど。もちろん、君のせいにしているわけじゃないよ? ただ、待ったからには帰ったらそれこそ時間を無駄にしたことになるから――」
「落ち着け、俺のせいで片付けておけばいいんだよ」
せっかく温かくて美味しい食べ物パワーに頼っているのだからごちゃごちゃ考えてしまったら意味がなくなってしまう。
だから食べ終えるまでは喋りかけても答えないようにした。
「ま、待ってよ」
「おう」
「って、普通に止まってくれるんだ……」
「おう、別に怒っているとかじゃないからな」
さてと、ささっと彼女を家まで送って帰るか。
早く帰らないと母が怖くなるから仕方がない。
「じゃあな」
「まだいいでしょ」
「それなら一色の家にいかないか? 今日中になんとかしておきたいんだよ」
「え……いや実際は喧嘩というか……勝手に拗ねて離れただけだし……」
「いこうぜ、まだ十九時とかだから非常識な時間というわけじゃないだろ」
暗い状態だとなんてことないこちらの行動も疑われるからなんとかしておきたい。
あとは何度も来てくれている友達に暗い顔をしていてほしくないのもある。
常時テンションが高いぐらいが彼女には丁度いいのだ。
「はい――って、天田君だったんだ」
「いきなり来て悪いな、ただ仲直りをしてほしくてさ」
「喧嘩じゃないよ、ただ説明しづらいことを聞かれてどうしようもなくなっただけというか」
「じゃあこれからも仲良くやれるってことか?」
聞いたところであまり意味もないが本人がいるところでなら無意味とはならない。
「う、うん、日和が求めるならだけど」
「それならよかった、だけどこれだと俺が押し付けているだけだから少し二人で話し合ってくれ」
二十メートルぐらい離れたところで適当に突っ立っておくことにした。
暗い場所でなにもせずに立っている男がいたら普通に怖いが送らなければならないから仕方がない。
「終わったよ」
「お疲れさん、さ、今度こそ帰らないとな」
「……勝手に連れていったのは君だけどね」
「そうだぞ? だからこそだよ」
部活動に所属していたり塾に通っているわけでもないのに遅くなれば両親は心配する。
そして家に帰ってこなかった理由が男となれば余計に駄目だ、だからこれ以上は駄目だ。
全ては自分のためだから彼女は巻き込まれた程度に考えておけばいい。
「じゃあな」
「うん」
家に帰って怒られるかと思えば食事用の椅子に座って母は寝てしまっているようだった。
「寝てしまったのか、部屋まで運ぶから鉄はご飯を食べればいい」
「おう、頼む」
貫一はそのまま戻ってこなかったから一人で食べて洗い物なんかも済ませた。
なにか言われた方がすっきりするというのは本当のことなのかもしれなかった。
「あ、あー倒れちゃうー」
「っと、わざとだだろうけど受け止めてみたぞ」
固まってしまった。
とりあえずこのままだと困るから少し運んでベンチに座らせる。
最近は結構おかしいときがあるから特になにもないのだろうがちゃんと聞いておかなければならない。
「ジ、ジツハキョウハワタシノオタンジョウビナノ」
「誕生日か、末吉はなにをされたら嬉しいんだ?」
今日ばかりは金を出すしかない。
というか、無駄な自己ルールなんてこの前みたいに捨ててしまってどんどんとこういう使い方をしていけばいいと思う。
そうでもなければ少しも返すことができなくなるからだ。
「ふぅ……ケーキはもう作ったの、だけどご飯の方はまだだから……」
「がっつりいくか? それとも和食とか?」
「お蕎麦が食べたい」
「ならいくか。ただ、できればもう少しぐらい早く言ってくれた方がよかったけどな」
「い、言いづらかったの」
まあ、それはそうか。
聞かれていないのに自分から出していくということはイコールとして祝ってほしいということだしな。
楽なのは学校ではなくて外だということだ、あとは彼女の家の近くまで既に歩いていたから飲食店も遠くはない場所にある。
金のこと云々は吐かずに店に入ってすぐに注文を済ませた、空いていたのもあって料理が運ばれてくるのもすぐだった。
敢えて蕎麦を外で食べようとするのは二回目だからまだまだ新鮮だ。
「今更だけど一色はよかったのか?」
「お誕生日プレゼントはくれたよ?」
「そうか、よかったな」
放課後に過ごさなくてよかったのかと聞いたのだがまあいいか。
当たり前ではないがちゃんとあげたり貰ったりできているのならお前が心配しなくてもという話で終わる。
「あとはね、天田先輩が今日広子を誘ったからだよ、それを聞いたら残ってほしいなんて言えないよ」
「またそれはすごいタイミングで誘ったものだな、貫一が悪いわけじゃないけどさ」
もうここまできたら受け入れてやってほしい。
流石にこれ以上重ねるようなら貫一も悪くないとは言えなくなる。
「私はちゃんと送り出せてよかったけどね、それに……どうせ暇人の君が付き合ってくれるだろうと考えていたから」
「それはそうだな、ちゃんと教えてくれてありがとな」
「あ、ケーキだって大きく作ってあるからちゃんと食べてよね」
「おう、くれるなら食べさせてもらうよ」
最近は飲食店にいきすぎているからなのかこれだけで腹いっぱいになったりはしない。
だからそれなりに量があってくれた方がよかった、と同時に贅沢な思考をするようになっていて結局アレだった。
「ごちそうさまでした、美味しかったっ」
「そうだな。帰るか、会計はまとめて払うから先に出ていてくれ」
「うん、じゃあ外で待っているね」
な、なんだ、今日はやけに大人しいな、いつもなら「いちいち別行動をしなくていいでしょ」と言ってきているところなのに。
だが、助かったのも実際のところだ。
美味しいご飯を食べた後に変なことで言い争いになったりしなくてよかった。
「さ、帰ろう」
「いつもなら渡しているからね?」
「ああ、わかっているよ」
つもりもないだろうが広げられたら困るから終わらせて家まで移動、うんまあ何故か俺の家まで移動になってしまった以外はこれも悪くはない。
「なんだ、まだ天田先輩帰ってきていなかったんだ」
「そうみたいだな、部屋にもいなかった」
「じゃあ二人きりってことか、最近は二人でばかりいるから全く気にならないけどさ」
「だから部屋を希望したのか?」
「それはお母さんとかと喋ることになったら気まずいからだよ」
なるほど、俺はもう気にならないが気になってしまう人もいるか。
ケーキも飲み物ももうあるからあとはコップに注ぐだけでいい。
「あーむ……うん、まあ普通だね」
「美味しいぞ」
「そう? 正直に言ってこのオレンジジュースの方が美味しいでしょ」
「おいおい、いきなりどうした?」
「……恥ずかしくなってきただけ」
ならよかった、無駄に自分の作った物を悪く言ったって誰もなにも得はない。
で、母と喋ることになったら気まずいから部屋に来ていたのにそれは意味のないというか逆効果になって話すことになっていた。
遅く帰るか普通に帰ってきた際に部屋にこもってはいないから気になったみたいだ。
「はぁ……はぁ……な、なんでこんなに疲れなきゃいけないの……」
「まあまあ、別に敵視されているとかじゃないんだからさ」
「……これはいつもお部屋にいなかった君が悪いよね」
「はは、確かに母さんが来た理由はそれだから俺のせいかもな」
「笑うところじゃないから」
怖いから送って解散にしようか。
「あ。天田先輩だ」
一色は……もう家まで送った後か。
挨拶だけで終わりかと思ったが付いてきたから二人で送ることになった。
「末吉、一つ謝りたいことがある」
「なんですか?」
「勝手に仲良くなれそうにないって考えたことをだ」
まだまだ知らないことが多いがこういうところは彼らしいと感じた。
言わなければいいのにとも考える俺もいるがな、だって気持ちのいい情報ではない。
「そんなものじゃないですか?」
「でも、いまの末吉は違う。ただ、末吉に俺は必要はないみたいだから変わったりはしないが」
「広子が気にし出したら嫌なのでそうですね、変わりませんね」
俺は必要ないみたいだからとかよく言えんな……。
冬とは関係ないそれで震えていた。
「名前で呼んでくれるようになったの」
「おお、じゃああれは保険みたいなものか?」
まあ、完璧人間なんていないからすぐにやらかしてしまわないように貫一でも、な。
願望というかあくまで想像でしかないがそれであってほしい。
「わからない、だけどちゃんと付き合ってくれるし、合わせるだけじゃなくて求めてくれるから嬉しいよ」
「気持ち悪いかもしれないけど俺も嬉しいぞ」
「そ、そうなの?」
「おう、だって友達が悲しそうな顔をしなくて済みそうなんだからさ」
「ま、まだわからないけどね、だけど前よりは……うん」
いやでもやっぱりないわと謝罪をしてから離れようとしてできなかった。
がしっと腕を掴まれて困った、末吉ならまだわからなくもないが一色がやるのは想定外だったからだ。
「日和とはどう?」
「誕生日に一緒にご飯を食べにいった、末吉が作ってくれたケーキも食べた」
「それは聞いたよ、私が聞きたいのは天田君の中にあるあの子への気持ちかな」
仲良くしたいという気持ちは強くあることは教えておいた。
これだけで全く違うのか彼女は「おおっ」と盛り上がった。
「あんまり一緒にいられていないから安心して任せられる人がいてほしいんだよ」
「前とは違って少しは求めてくれているかもしれないけど、あれ、なんか突かれているな」
優しくだから責めたいのか責めたくないのか曖昧な状態だ。
彼女はそのことに触れずに「日和、天田君なら大丈夫?」と前に進めようとする、わざわざいかなくても本人が来てありがたいとでも言いたげな様子だ。
「私はそれよりも子ども扱いされていることが気になるんだよ、確かに面倒くさい絡み方をしちゃったかもしれないけど私だって高校生なんだから心配されなくても大丈夫なんだよ」
「うん、これは完全に照れ隠しだね」
「い、いいから広子は自分のことに集中して。ま、天田先輩は結構酷い人だけどね」
「あ、そういうのよくないんだからね?」
「知らなーい、ほらいくよ」
それでなんで俺を連れていくのか。
あ、でも、言いたいことがあったからこれも丁度いい。
「今日の放課後か土曜日に付き合って――」
「いいよ」
遮られたのもよくわからないがありがたい。
「あ、一応言っておくと誕生日プレゼントを買いたいからなんだ、食事代を払って終わりじゃなんか寂しいから」
「んー十分だけど君がそう言ってくれるなら」
「じゃあ頼む」
簡単に受け入れてくれたことから土曜日ではないだろう。
重く捉えられても困るからそれでいいのかもしれない、そもそもプレゼントを買って贈りたいだけだからな。
彼女がなにかを望んだら付け足すぐらいでいい。
「それだけ?」
「お、おう」
「プレゼントは嬉しいけどそれだけだとすぐに解散になっちゃうでしょ? それは寂しいよ」
確かに付き合っている側としてはそうなのかもしれない。
プレゼントの件とはまた別というか、こういうところも経験がないからこそか。
「ただ、飲食店はもうなしにしたいんだ」
「わかるよ、だから他にもいく場所を増やすとかやることを増やすとか、いいでしょ?」
「いく場所を増やすはわかるけどやることを増やすってなにかしたいことでもあるのか?」
彼女は少し黙った、が、すぐに真面目な顔で「あるよ」と。
「さっき広子が名前で呼んでもらえたことで喜んでいたでしょ? 正直、広子と私ってほとんど変わらないと思うんだ。だからそろそろいいんじゃないかなって」
「日――」
「いまは駄目、それはもったいない気がする」
拘りたいなら拘ってくれればいい。
「なら出かけた日にな」
「うん、お出かけした日にね」
ただ少しあったのは当日に急に言われた方が効果的だったかもしれないというそれだ。
だから当日はこちらからも動こうと決めてそれぞれの教室に戻った。




