07
「――という感じだな、家では筋トレかぼうっとしているか母さんの手伝いをしている」
「そうなんだ、なら一緒に筋肉トレーニングをしたらもっと仲良くなれるかな?」
「合わせたくなる気持ちはわからなくもないけど程々にな」
一緒に筋トレもいいだろうがこういう時間を貫一のために使った方が遥かに効果がある。
それは貫一の反応からわかることだ、無意味なことなんてほとんどない。
「広子、天田先輩が呼んでいるよ」
「本当に? いってくるね、あ、教えてくれてありがとう」
作戦なのか本当なのか、最近の彼女なら作戦の可能性もあるがどうだろうか。
「ちょっと付いてきて」
「おう」
廊下に出てみたら本当に貫一と一色が会話をしていたからほっとした、と同時に彼女に対してはやはり俺らしくいられていないから反省をする。
「これあげる」
「クッキーと……なんで五百円?」
なにかしらの返したい気持ちがあってもクッキーがあるなら五百円玉はいらないしその逆も同じだ。
「クッキーは……多く作っちゃったからで、五百円は同じ値段というわけじゃないけどドリンクバー代を払ってくれたからだよ」
「そうか、ありがとな」
でも、今回は上手く進めることに成功した。
こういうときは水を差してはならない、礼を言って受け取っておけばいい。
「あとは……」
「おう」
「ほら、これから相手をしてもらうから、先にお礼というか……」
「そうか」
歩いていってしまったから戻るしかなくなった。
授業中、本当は俺がなにかしてやらなければいけない気がした。
だって貫一も一色も無理となれば末吉ぐらいしかいないわけで、少しの一人の時間が欲しいだけで結局は求めてしまっているわけで、自分のことだから目を逸らすことができないからだ。
俺にできることは少ないがだからといってなにかを奢ることで終わらせたくはない。
「また外で食べるの?」
「おう」
「それなら私も付いていく」
で、こうしてよく来てくれるようになったが俺にできることってなんなのか。
奢る、つまりなにかを買うことで不公平感をなんとかできないならそれ以外の行動でなんとかしなければならないわけだが……。
「末吉はなにをしてもらえたら嬉しい?」
「急だね、なにか企んでいるの?」
「ああ、末吉に返さなければというか礼をしなければいけないのは俺だろ? でも、自分で考えたところでこれまで一人でいた影響かなにも出てこないんだよ。あと、結構やらかしているけど勝手にわかった気になりたくはない、だから頼むよ」
「いや、返したばかりなのになにかされても困るし」
「でも、溜まっていく一方だぞ?」
黙ってしまった。
まあ、俺は一色ではないから急にこんなことを言われても困るか。
「卵焼きをちょうだい」
「おう、取ってくれ」
弁当を食べ終えた後はゆっくりしないでジュースパワーに頼ることにした。
冬に飲む炭酸もまた強かった、ただ一気に飲んだせいで喉がやられた。
「お゛ぉ……」
「君の番なの?」
「あぁ……末吉が相手のときに俺らしくいられていないのは確かだ」
それこそこれは自滅しているのと同じではないだろうか。
きちんと目を逸らさずにいられているのはいいが考えた結果、更に悪い方に傾いている。
昔の俺はごちゃごちゃ考えないことで上手くやれていたのだ、そりゃいきなり使い始めたらこうなるか。
「え、やだ、もしかして意識されちゃっているとかっ?」
「違う意味では意識しているな」
「つまらない答えだよ……」
そう言われても困る。
また戻りたい気分にもならなかったから教室にいって静かにしていることにした。
前の席主がいないのをいいことにここにも付いてきたから結局困った。
「まあまあ落ち着いて、だけどこれで私の気持ちがわかったでしょ?」
「末吉のときは一色がしつこく付いて来たりはしなかっただろ、だけど俺の場合はその対象がこうして付いてきて笑いかけてくるんだぞ?」
「君だって苦しくて困っているときに正しいことを言ってきて苛めてきたじゃん」
「つまり自業自得ってことか」
「そこまで言うつもりはないけどちょっとは経験した方がいいってことだね」
全て捨ててしまおう。
あとは最近、飲食店にいきすぎだからそっちもいかないようにする。
放課後になったらすぐに帰って家事でもすればいい。
「今日は遊びにいこう」
「いや、大人しく帰ってご飯でも作る――すごい力だな」
「ゲームセンターにいこう」
なんでもいいから共通の金がかからない趣味があればよかったのに。
本当に金を使ってばかりだ、一回一回は少額でもノーダメージとはいかない。
盛り上がっているところで水を差したくないのはいまでも同じだが半日も自分が決めたルールを守れずに来てしまっているのはいいのかどうか……。
「大きい音だねっ」
「ああ、末吉の声もすごい大きい」
「えっ? なにっ?」
「なんでもないよ」
一人でコインゲームをしている最中、なにをしているのか感がやばかった。
だが、変えてしまった以上はやらなければもったいないからやっていた。
こういうときに限って多く当たりを引いてしまってそれも悲しかった。
「お菓子の材料を買いたいから付いてきて」
「おう」
「大丈夫、なにもしないでただ働かせたりはしないよ。そうだねえ、今度作ったお菓子をあげるからそれでいい?」
「いやいいよ、そもそも俺はまだバレンタインデーのお返しというやつをしていないからな」
じっとしているよりも考えなくて済みそうだからとにかく動いていたい。
半日も守れなかったルールなんかもうどうでもいい。
「ば、バレンタインデーだったからあげたわけじゃないんだけど」
「それでも初めてバレンタインデーに貰えたということにさせてくれ」
半日ぐらいなら時間が経過していても範囲内ということにしてもらいたい。
とにかく移動だ、何店舗か見て回るなら早くいかないとあっという間に暗くなる。
「あのときは聞けなかったけど結局末吉は貫一に作ったのか?」
「作らなかったよ、広子に頑張って教えるだけで精一杯だった」
「そうか、渡したくても渡せなかったとかじゃないならよかったよ」
「渡せなかったけどね」
これは細かく聞かなくてもいいことだ。
結構な量になったから二つの意味で重かった。
運ぶついでに上がっていくことになってしまった以外は珍しく役に立てたから悪くはない。
「お茶で我慢して」
「ありがとう、十分だよ」
「あ、まだお部屋には入れてあげないからね? まだそこまで仲良くなれていないから」
「おう、それにあと十分もしたら帰るから安心してくれ」
必死に抵抗する意味もないから上がらせてもらっただけで長居するつもりはなかった。
「や、別に帰ってほしいなんて思っていないけど、そうなら上げていないでしょ」
「いやただ手伝いをしたいだけだよ」
これも本当のことでまた母のため息が多くならないように頑張る必要があるのだ。
少し太ってしまったからという理由だけとは思えない、出しゃばりすぎなければマイナスにはならないのだから損なこともない。
浮いた時間で運動なんかをしてくれればため息も自然と減っていくだろという狙いだ。
「あ、ちょっとじっとしていてくれ」
「うん?」
「埃がついていたんだ」
「ああ、さっき奇麗にしまうために苦労したからね、ありがと」
立ったついでに帰るか。
これは俺が距離感を見誤らないためにも必要なことだった。
段々末吉に対してできることが増えていけば経験のない俺は絶対に失敗をする。
本当なら最初のときみたいに警戒しておくぐらいでいてくれるのが一番だがそれが期待できなくなったら自分が頑張るしかない、線を引くしかない。
「これっていきなりお家に上げたりしたから?」
「正直に言えばあるな」
「なら今度は君のお家にいくよ」
「貫一がいるときだったら問題はないな、一色がいればもっといいな」
「つまり四人なら細かいことを気にせずに楽しめるということだよね、うん、参考になったよ」
また四人で集まることはあるのだろうか。
「ただいま」
「おかえり」
「貫一はいつも通りだな」
努力をしているからだとわかっていても色々とすっ飛ばして羨ましく思う。
それこそ一色にとっての彼みたいにわかりやすく求められていたらこんなことにはなっていないのだ。
「それはそうだ、特になにもなければ俺はずっとこんな感じだよ」
「まだ来てくれているもんな」
「自分の言ったことぐらいは守る、あと今日もご飯を作ろう。今度、一色に作るって言ってしまったんだ」
「なら俺のできる範囲で教えるよ、いまはスマホを見てそのまま従っておけば一発だけどさ」
少しからかわれて意地を張ってできると言い切ったわけではないだろうから食べさせてもらうだけなのは嫌だったというところか。
成功しても失敗しても悪い方には傾かないからそこもな。
とはいえ、そういう感情とこっちは関係ないからできるだけ教えておいた。
それこそ一色に教えてもらって一緒に上手くなっていくのが理想ではあるが求めてきたのだから……って、別に俺は求められたわけではなかったな。
これは恥ずかしい。
「よし、魚を焼いたり卵焼きを作って和食な感じにするよ」
「悪い」
「なにに対しての謝罪だ?」
「いや、助かったよ、いまある食材でそこまで多く使わずに色々な料理を作れたからな」
ツッコまれても受け入れるしかない、だって自分のためにしただけだからな。
引きこもらずにちゃんと時間になったら一緒にご飯を食べて、だが、今日ばかりは先に風呂に入らせてもらって部屋に戻ってきた。
課題なんかもないし大して時間をつぶせる娯楽物もないから電気を消して寝ようとしたところで「入っていいか?」と言われて止まる。
「どうした?」
「寝ようとしているところだったか、だったら今度でいい、おやすみ」
「おう、おやすみ」
いい情報でも悪い情報でもどちらにしてもいまは足したくないからこれでいい。
決めていた通りあとは寝るだけだった。
「日和、拗ねていないかな?」
「いまのところは大丈夫そうだぞ、完全に一緒にいられていないというわけじゃないからな」
「ならよかった、ちょっと希望が見えてきて頑張りたいところだから……」
「それでいいんだよ」
今日はこっそり見られているわけでもないからもっと安心していい。
ただ、何故俺に言ったり聞いたりしてしまうのかが気になる。
「だけどよかったよ、日和もなんだかんだで天田君のことを気に入っているみたいだからね」
「確かに最初と比べたら変わったな、この前なんて家に上げてくれたぐらいだぞ?」
「え、お家に? これは……はは、面白いことになるかもしれないね」
「このまま仲良くできれば十分だよ」
いまは恋をしているからなんでもそういう風に見えるだけだと矛盾しつつ考えた。
だってただいてくれているだけなのにそういう風に捉えて線を引かなければならないなどと考えていたのは俺自身だからだ。
だから広げられると困る、ここで終わらせておくのが一番だ。
「一色」
貫一の登場だ。
「は、はい?」
彼女が前みたいになってしまっているのは俺がいるからだ。
二人きりにならないといつも通りにやれない、これは前もそうだったから気持ちの悪い妄想ではない。
「今度、美味しいご飯を作ってやるからな」
「は、はい」
なんとなく廊下に出てみると壁に張り付いている末吉を発見して挨拶をした。
偶然というわけではないようだ、複雑な気持ちよりも友達が上手くやれるように動きたい気持ちの方が勝ったらしい。
「あのね、男の人がいっぱいいて苦労したんだよ……流石に年上の人がいっぱいいると緊張するんだよ」
「俺だってその場合なら近づきづらいよ、よく頑張ったな」
「だって中途半端なことをしているから、だからへらへらしているのが許せなかった。広子が関係していなかったら全く気にならなかったけど関係しているのなら話は別だから」
「そうか」
「あっちにいこ」
隅まで移動したところでそこまで変わらないはずなのに物凄く静かだった。
「あとは君にもちょっと不満がある、なんで君には広子も大事なことを話すの?」
「俺も気になっていたところだ、なんでだ?」
「質問に質問で返さないと言いたいところだけどなんでだろう……別に君みたいな人は他にもいるのにね」
いや、俺みたいな人間が他にもいたら困る。
だって恥ずかしいところばかりを晒す人間ということだぞ、そんな人間が多くいてほしくない。
下手をすれば何年か経過した後だって、なんならお爺ちゃんになったぐらいにだって思い出して恥ずかしくなんかはなりたくないだろう。
「どうせ天田先輩からだって色々と教えてもらっているんでしょ?」
「まあ、少しは」
「言いやすい子なのかな」
「ただほら、貫一の方は家族だからな」
そこが違うのとただ貫一が不思議な人だったで終わってしまう話だ。
「広子だっていきなり『勘違いしないでよね、あなたに興味とかないから』とか言っていたぐらいなのに、なのに私だけやらかしたみたいになっていたよね」
「おお、よく知っているんだな」
「笑い事じゃないから、だからあんまり広子だって偉そうに言える立場じゃなかったんだよ――はよくて、いまはなんで君には言うのかって話だよ」
ただそこはどれだけ話し合ったところでなにも変わったりはしない。
本人に聞いたところでなんでだろうと同じように返されて終わりだ。
「それに私だって……結構喋っちゃっているよね」
「一色とのことだったら確かにそうだな」
「気に入らない」
「そ、そう言われてもな」
聞き出そうとしていないのに吐いてしまったことを後から怒られても困る。
だからわかっているはずなのだ、またどうしようもなくなっているからとにかく言葉を重ねているだけ……だよな?
「俺は末吉が相手のときだけ露骨に態度を変えていたことになるからやらかしてしまった感は俺の方が上だ、だから安心してくれ」
「安心できないよ……」
それ、最低なそれと比べられてマシと言われてもなんの気休めにもならない。
そういうのもあって今回もこれ以上は広げないでダメージを減らす作戦にシフトした。




