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236  作者: Nora_
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「もう、遅いよ」

「そう急ぐ必要もないだろ?」


 今日は出かけたついでに夜まで時間をつぶさなければならないから急がれてすぐに疲れられても困るのだ。


「あと歌わないとかなしだからね? そんなことをしたらここで解散にするから」

「おう、ちゃんと合わせるよ」


 カラオケにウインドウショッピングに食事にとそれっぽいことをする日となっている、もちろんこれを考えたのは彼女だ。


「薄暗く狭い場所で二人きり、もし君が狼さんだったらがばっとやられちゃっているよね」

「許可を貰えなければそんなことはしないよ」

「え、じゃあ私次第で狼さんになるってこと?」

「ま、日和にだけ頑張らせたりはしないよ」


 なんて、できても抱きしめるとかその程度だが……。

 というかこんな変な話で盛り上がっていないでさっさと歌った方が遥かにいい時間となる。

 貫一とかが積極的になればいい。

 少し離れたところからでも固まっているのがわかったからちゃんと合わせることをわかってもらうために先に歌ってしまうことにした。


「ふぅ、次は日和の番な」

「はっ、も、もう……変なことを言われたせいで固まっちゃっていたじゃんっ」


 カラオケ屋に来たら一番に歌うのを貫いていたらしい彼女としては失敗だったようだ?

 歌い出してからはすぐに元通りになった、あと、一人でノリノリだった。

 邪魔をするのも申し訳ないから黙って聞いていたらあっという間に一時間が経過した形となる。

 歌わないとかなしだからねなどと言っていた彼女だが一曲でよかったらしい。


「途中からずっと歌っていてお腹が空いちゃったからもうお昼ご飯でもいい?」

「十一時だからな、いくか」


 ああ、大体食べた後にどうなるのか想像できてしまった。

 そしてこういうときに限って沢山食べるのが彼女だから困った。

 物を見て回るどころか「寒いからここまででいいよね?」などと言い出しかねない状態だ。


「ま、まだ解散にはしないでくれ」

「え、なんで急に? あ、ちゃんと付き合うから大丈夫だよ。だってまだお店を見て回れていないもん、つまり今日の本当の目標は達成されていないことになるんだからさ」

「よかった」


 夜まで時間をつぶさなければいけない理由は今日貫一と一色が家にいるからだった。

 ただ、出かけられた身として一時間程度で解散は寂しいのもある、だからそういう点でもせめて十五時ぐらいまでは一緒にいたいのだ。


「……あとまだ個人的にできていないことがあるし」

「名前呼びとか?」

「そういえばそれももういいよね」


 彼女はいちいちこちらの横まで来て「て、鉄君」と、呼びすてにすると思っていたから意外で少し固まる。


「って、なにこれなにこれっ、すっごく恥ずかしいんだけど!」

「ふぅ、別に普通だろ」

「も、もうお会計を済ませて出よう!」


 割とすぐに個人的にしたいことはわかった。

 名前を呼ぶことで恥ずかしがっていたのに手なんか繋いで大丈夫なのかと気になった、が、当然のように駄目そうだった。

 もの凄く顔を赤くしながら横を歩いているから傍から見たら変に見えるだろう。

 人気のあるところだと駄目だからとりあえず落ち着かせるために移動する。


「も、もしかして本気でやばい状態とかっ?」

「やばいのは日和だ、深呼吸でもして落ち着いてくれ」


 手を離せばよかったのだが強く掴まれていたからできなかった。

 でも、この状態のままでも人がいないところでは違うのか少しずつ戻り始めた。

 片方の手で顔を扇ぎつつ「直前に名前呼びの件がなければもう少しは落ち着いて対応できたはずなんだよ」と恥ずかしそうに言う。


「自分でそのときのことを考えるのと実際にされるのとでは全く違うね……」

「そうなのか」

「き、君は気になったりしなかったの? だって一応は……気になっている女の子と手を繋げていたんだし……」

「日和が冷静だったら恥ずかしくなっていたのは俺だったかもしれない」

「ぐぅ……今日は最初から失敗してばかりだよ……」


 まあ、完璧にいくことなんてほとんどないからこれぐらいでいいのだ。


「もういけるか? 今度こそ誕生日プレゼントを買わせてもらわないとな」

「あっ」

「ん?」

「いや、早くいこうっ、もちろん手を繋ぎながらね!」


 なんだ? 先程と全く違って寧ろこちらを引っ張っているぐらいだ。

 それで店を見て回っている最中、やたらとちらちら見てくるからなんだ? と聞いても答えてくれなかった。

 三店舗目ぐらいで彼女が欲しいと言った物を買わせてもらってそのまま渡せたからよかったがまだ終わらない。


「少し時間があってもわからなかった、教えてほしい」

「なんで私が欲しい物を探すことばっかりなのっ」

「ん……? ああ、そういうことか」

「そうだよ……私はしてもらってばかりだから私も同じようにお返ししたかったの」


 これは俺の誕生日のことも関係しているんだろうな。

 だがどうする、俺はいま欲しい物とか特にない。

 いまというか基本的にないから難しい、適当に出すのもできない。


「悪い、欲しい物とかないんだ」

「本当にないの?」

「おう」


 無駄に金を使わせるわけにもいかないからこれは仕方がないことだと片付けてほしい。

 そうしたら今度は彼女の方が俺を先程の場所まで連れていって抱きしめてきた、それから凄く小さい声で「これでいい?」と聞いてきた。


「だったら抱きしめさせてほしいって言っておくべきだったな」

「い、いや、言われたら確実に固まるから任せてもらえた方がよかったよ」

「そうか、なら――」

「君は頑張らなくていいから」

「そういうわけにもいかないだろ」


 一旦離してもらって少し距離を作る。


「日和のことが好きなんだ、付き合ってほしい」

「あのね、流石にそこまでは求めていなかったんだよ? 私もね、手を繋いだり抱きしめるのは今日絶対にやろうって考えていたけどぶっ飛んだよ」

「また小さなことですれ違いみたいになったら嫌だから、それと日和が全部やってしまいそうだったからその前にな」


 ここで一旦終わらせてしまったらもう言えなさそうだったのも大きい。

 でも、勢いだけで適当ではないからそこは安心してくれてよかった。

 初めてここまで一緒にいたいと強く求めている、経験が少ないからあれだがまあ他の人間的にどうかなんて考えてもほとんど意味はないからな。


「……抱きしめていなかったらこれはなかったよね?」

「先延ばしにして無理になっていたかもしれない」

「なら頑張ってしてよかった、お誕生日プレゼントとして抱きしめるなんてかなり勇気がいる行為だったからね」


 それなりにお互いにはっきりしている状態ではなければできない行為ではある、あとは女子から男子へだから通ったのもある。


「私も君のことが好きだよ」

「そうか、ありがとう」


 呼びづらいなら君のままでいいから嫌にならない範囲で一緒にいてほしい。

 無理になってきたら遠慮をしないで言ってきてほしかった、俺は馬鹿だから言ってもらわないとわからない。


「だけどやっぱり広子が必ずどうなったのかを教えるのが気に入らなかったけどね」

「はは、流石にもうなくなると思うぞ、貫一と上手くいってしまえば――」

「これからは二人に言おうかな」

「俺もちゃんと言うぞ」


 人気がないと言ったって入れないようになっているわけではないからこういうことも起こる、いや、他の人間ならあり得るが偶然二人が通りがかるなんてことがあるか……?


「あのね、貫一先輩に巻き込まれて朝から尾行していたの、ごめんね?」

「鉄」


 で、偶然ではなかったうえに一色が言い出したことらしい。

 自分達のことよりもそのことで盛り上がっていてどうしようもなかったから助かったと俺にだけ聞こえる声で教えてくれた。


「え、じゃ、じゃあ全部見られていたということ……?」

「ごめんね? だけど真っ赤な顔で必死に抱きしめているところすっごく可愛かった!」

「広子なんて……いや、天田先輩なんて嫌いだー!」


 結局俺は告白をしたぐらいでわかりやすく動いたわけではないから動くことになった日和からすれば……。


「止められなかったのは俺だからな、だから間違ってはいないな」

「私のせいだけど日和のこと追ってあげて?」

「おう、じゃあな」


 走って追いかけると歩いてくれていたからすぐに追いつけた。

 こちらを見たら最初は軽く攻撃を仕掛けてきたものの、すぐにやめてくれて先程みたいに戻った。


「ま、これで広子にからかわれなくなるならそれでいいよ、私から頑張って抱きしめたって言ってもにやにやするだけで聞いてくれなさそうだもん」

「一色なら『そうなんだっ』って食いついてくれそうだけど」

「たまに意地悪になるときがあるんだよ、君はまだまだ広子を理解できていないね」


 長くいる親友同士だからできることだよな。

 羨ましい、だけど俺には無理と決まっていることでもない。


「俺はもっと日和のことが知りたい」

「怖いな、もうなんでも聞いてきそうな雰囲気だよ」

「日和も知りたかったら聞いてくれ」

「まー知りたいことがあったらねー」


 まずは三カ月を目指して頑張っていく。

 達成できたらまた新しい目標を立ててを繰り返していけばいい。


「な、なんかさ、こう……手の掴み方が優しすぎてうわあってなるんだけど」

「そうか?」


 実際は頑張るばかりでは疲れてしまうから理想は緩く楽しめるのが一番だがな。

 とりあえずうわあとなっている彼女には悪いがこれは変わらないことだから諦めてもらうしかなかった。

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