05
「今日は豪快にーっと」
「駄目だよ、お金はちゃんと貯めておいた方がいいよ」
横からもっともなことを言われて足を止めた。
振り向くと「そうだよ、ちゃんと足を止めて考えた方がいいよ」と再度末吉が注意をしてきた形になる。
「一カ月に一回ぐらいはいいだろ?」
「駄目、自分に甘くしてお金を使いすぎちゃって後悔している君が容易に想像できるよ」
いや、たまには購買で昼ご飯を買おうとしただけなのだが……。
こう言われてしまうと気になってしまう、が、今日は母に弁当を作ってきてもらっていないからどちらにしてもいかなければ腹が減った状態で授業を受けなければならなくなるのだ。
だから一つだけという約束をして歩いた、破ったらなにを言われるのかわからないからしっかり守った。
「今更だけど放課後にお金を使いたいわけじゃなかったんだ」
「おう、物欲はないから基本的に小遣いを貰っても貯金をするだけだぞ」
現在は二万円ぐらい貯まっている。
物欲がないはずなのにそれぐらいしかないのは少額しか受け取っていなかったのもあるしちびちび使っていたことが影響している。
大きな買い物をしないだけでジュースとか菓子とかそういうのに負けるときは俺にだってあるということになる。
「なるほど、そういうところは悪くないね」
「それより食べようぜ、喋るのは終わってからでも遅くないだろ?」
「そうだね」
最近は一色よりも末吉といる時間が増えている。
昼休み以外は教室からほとんど離れていないのにそうなっているのはやはり貫一が関係していると思う。
最初のようにはいられないと言っていたぐらいだ、頑張ることもできないなら俺といたって意味はないからな。
「一色とはどうだ?」
「んー謝ったら許してくれたけど前みたいな状態じゃなくなったかな」
「それじゃあ困るだろ、一月が終わる前になんとかしないとな」
「別に喋ることができなくなったとかじゃないからいいけどね。ただ、ちょっと暗い顔でいることが増えたというだけ」
義理の兄との件はどうにもできなくても彼女との件だったら俺でもできることがある。
購買で買ったパンはすぐに終わってしまったから連れていこう――としてできなくてもどかしかった、少し関わったことでわかったことだが彼女はとてもゆっくり食べるのだ。
「そわそわしているね」
「一色のところに末吉といきたいのにゆっくり食べているからだよ」
「ずっとこうだからね、それで大体はこういうところで合わなくてどこかにいかれちゃうんだ」
無理やり一緒にいようとして陰で悪く言われるよりはいいと思う。
合う合わないはやはりある、努力でなんでもどうにかできるなんてことは少ない。
それでも遅刻ぎりぎりになるなんてこともなかったから今度こそ末吉を一色のところまで連れていくことに成功した。
挨拶をしてもそれだけだ、一色は彼女の方を見ようとせずにこちらを見ているだけ。
「俺と末吉のことだけど結構仲良くなれたんだ、だからもう許してやってほしい」
「別にもう気になっていないよ」
「そうか、なら俺としても安心だな」
口先だけの言葉だったとしても彼女がいるところで吐かせたのは大きいはずだ。
「なんでそれで天田君が安心するの?」
「だって少しだけでも自分のせいで言い争いをするようになったら嫌だろ?」
「だから天田先輩もすぐに言ってくれたのかな」
「その気がないなら……誰だってそうするんじゃないか」
思わせぶりなことをして相手を変えてから捨てる人間がいないわけではないがそこまで全員が終わっているわけではない。
「諦めるしかないよね」
「絶対なんてことはないんだから頑張ってみたらいいじゃん」
「はは、私に怒られたからお返しかな?」
まあ、未経験でも言えることはマイナス思考でいる内はいい方に変わったりはしないということだ。
相手が優しくしてくれたときだって素直に受け取ることができなくなる、普通に一緒にいることができなくなった時点で相手だって対応を変えるはずだ。
「違うよ、頑張り続けていたらどうなるのかわからないでしょって言いたいの。でも、頑張らないで諦めてしまったら僅かな可能性だって期待できなくなっちゃうんだからさ」
「そこまでメンタルが強くないんだよ、他の人だったらできたことだねそれは」
「広子……」
「って、この話はこれで終わりね、なんにも広がっていかない話だから」
元々、このことに触れるつもりはなかったから終わらせてくれてありがたかった。
自分から近づいておきながらアホだがこういう話はそれこそ二人きりのときにしてほしい。
「日和が天田君に余計なことを言わないようになったならそれで十分だよ」
気持ちのいい笑みではなかったがなにも触れずに終わらせた。
末吉も納得がいかないという顔ではあったものの、なにも言うことはなかった。
「いらっしゃいませ」
一緒にいける友達的な存在ができてから飲食店にばかりいっている。
そこまで金を使わなくても少しゆっくりできるこの場所がそういう存在達にはいいみたいだが個人的には家でよかった。
ただ、上げるのも上げてもらうのも気になるみたいなのでこうなっているのだ。
「今日の私は大人だからコーヒーにしたよ」
「なあ一色」
「全部言わなくても大人だから天田君の言いたいことはわかるよ、この発言をした時点で大人っぽくないって言いたいんでしょ?」
わかっているならいいがテンションがおかしいことが気になる。
まあ、そう簡単に片づけられることではないか。
酒が飲める状態だったらそういうパワーに頼りそうなところがある、誰かが一緒にいてやらないとつぶれてしまいそうだ。
「お昼休みのあれって日和のためだよね。天田君は天田先輩が優しいって言っていたけど天田君も変わらないよ」
「実際、最初と比べて上手くやれているからだぞ? 一色だってそうだけどまだ一カ月も経過していないんだけどさ」
「日和も結構気にしていたみたいだね」
「それはそうだろ、いつから一緒にいるのかはわからないけど友達と上手く一緒にいられなくなったら誰だって気になる」
時間は短くても貫一が急に変わったらかなり影響を受ける。
「まだなにか気にしてくれているならこっちは大丈夫だから優しくしてやってくれ」
「んー……」
「あとジュースを飲もう、注文したからには飲まないともったいない」
「はは、真面目な顔でそれを言うのが面白いね、私の大人発言よりよっぽど面白いよ」
元を取ることはできないとわかっていてもそれとこれとは別というやつなのだ。
ご飯を食べないならこれで腹いっぱいになるぐらいは飲まないともったいない、そこまで入れるつもりがないのなら学校の教室で話していた方がマシだ。
「ねえ」
「ん? いたのか」
「うん、最初からこそこそと尾行していたからね」
喋り方も声も結構似ているから一色かと思ったが違った。
また納得できないみたいな顔でこちらを見てきている。
「それよりさっきのはどういうこと? 気に入られたいなら広子にだけ優しくしておけばいいと思うけど」
「仲良くしてくれるのかどうかはわからないけどこれだって必要なことだろ」
「なら自分のためにってこと?」
「そうだよ」
さっさと決めて席へ戻る。
人数が増えようと俺がやることは変わらない、ジュースを飲むことだ。
話しかけられたら反応する程度でいい、言いたいことは特にない。
「天田君本人が気にしていないのに動こうとしたところで迷惑にしかならないからやめるよ、ごめんね」
「うん」
「じゃ、あと数杯は飲んでから帰ろう、あと久しぶりに泊まってよ」
「わかった」
金を使った意味があった。
それならと彼女達が帰ろうとする前に沢山飲もうとしたらすぐに限界がきてやめた。
「じゃ、私達はこっちだから」
「おう、じゃあな」
こちらは母作のご飯を美味しい美味しいと食べるために公園で少し走っていくことにする。
心臓と腹のことを考えてとにかく緩くを意識してぐるぐると走っていた。
結構広い公園で俺以外にも利用者がいるから不安にはならない、が、冬ということもあってすぐに暗くなることも影響してかすぐに帰ってしまった形になる。
「ふぅ」
「まさか三十分も走るとは思わなかった」
「末吉は静かに現れる人間だな」
「まだ話したいことがあったんだよ」
それなら歩きながらも微妙だからベンチに座って話すか。
微妙に汗をかいたせいで普段よりも寒いが仕方がないことだ。
「あー……」
「謝らなくていい」
「は、はあ? 別に謝ろうとなんてしていなかったけどっ」
「なら一色とのことか、今度はなんだ?」
最初こそ気まずくてもどうせすぐに盛り上がれるようになるのだ。
できてしまった空白を埋めるように甘えてしまえばいい。
「君も来なよ、広子だって君なら大丈夫でしょ」
「それなら貫一にいってもらうよ」
「あ、やっぱり意地悪な男の子だったの?」
「求められていないからだよ」
そんなことよりも俺はなんと言ってここに来たのかが気になった。
普通ならあのまま仲良く家まで移動して盛り上がり始めるところでこれだ。
「もしもし?」
スピーカーモードで話していることを教えてやってほしい。
「広子、今日のお泊まり会にこの子も参加させてもいい?」
「え、そんなことを言うために離れたの?」
「うん、それでどう?」
「んー別にいいけど……」
当たり前だが明らかに歓迎されていないからこの話はこれで終わりだ。
「じゃ、一色と仲良くしろよ」
「えー」
これは寄り道をした俺が悪い。
だが、走ったおかげで腹もなんとかなったから母に怒られることはなくなった。
あとはゆっくりするだけだった。
「腕相撲で勝った方が今日はご飯を作る、それでどうだ?」
「別に勝負なんてしなくてよくないか? 母さんを楽させてやりたいなら作ってやろうぜ」
結局、なにもしないままご飯を作ることになった。
冷蔵庫なんかを確認してみると魚があったから焼いてしまうことにする。
家の人間はおかわりをする人間がいないから少なめに米を炊いて、魚の方はグリルに任せてゆっくりしていた。
音がわかりづらいがかわりに匂いでわかるため焦る必要もない。
「なんか慣れているな」
「父さんに比べたら回数は少ないけどやっていたから」
「俺も見習った方がいいかもしれない、弟よりもなにもできない兄なんて嫌だろうからな」
「料理以外のところで役に立てばいいんじゃないか、実際、貫一は俺にはできないことをしているだろ」
複数の人間と関わってみんなと上手くやるとかな。
しかも発言通り、まだ俺のところにも来てくれているからその点でもすごいと思う。
口先だけの人間だと思われたくないからだとしても俺に対して頑張れることがもうやばい。
「ただ、なんで急に作ろうと思ったんだ?」
「最近、ため息を多くついていたからだ」
ほーん、やはり俺にはまだまだ見せられないところがあるということか。
まあ、見られたところで俺にできるのはこうして少しご飯を作ったりすることぐらいだから変わらないとも言える。
「ただいま、いい匂いがすると思ったら鉄が作ってくれていたんだね」
「貫一が言い出したことなんだ」
だから褒められるようなことではないとアピールをしていく。
そして母はそれをちゃんと考えてくれる人だった、「そうなんだね、ありがとう」と終わらせてくれた。
礼を言われていても悪い気分になることはなかったがこれでいい気分になれた。
「ふぅ」
ため息増加の理由が俺ではなければいいが。
父に不満が、などということにならなければ最悪は家から出ておけばなんとかなるか。
そんなこともあって今日はあまり寝られなかった。
「寒い……眠い……」
中途半端にしか情報を得られないのであれば知らないままの方がよかった。
翌日に持ち込まないという自己ルールも今回は破ったことになる。
「おはよー……って、後ろから見ているときでもわかっていたけどすっごく眠そうだね?」
「おう、ちょっと寝られなくてな」
「それなら少し寝たらいいよ、早めに登校していることがいい方に出たね」
そうだな、どうせ椅子に座ってじっとしておかなければならないから変わらないか。
授業中に寝ることになってしまうよりもマシだと片付けて突っ伏していたらもうやばかった、座っていたって本気で寝られてしまう。
本当にギリギリまで寝てしまった件については冷や汗をかくことになったが。
「見にいったけどいびきをかくぐらい本気で寝ていて驚いたよ」
「これは恥ずかしいところを見られたな」
でも、その恥ずかしいところを見られたかわりに少しすっきりできたから満足している。
「で、なんで末吉は隠れているんだ?」
「さあ?」
廊下から顔だけ出して見てきている。
当然、そんなことをしていればクラスメイトからはじろじろ見られているのだがそのことは気にならないらしい。
向き的には彼女を見ているような俺を見ているようなという曖昧な状態だ。
「答えは?」
「まだまだ見ておかなければならないからだよ、いつ広子の敵になるかわからないからね」
「神に誓ってもいいけど俺が敵になることはないぞ、一色がこっちのことを嫌って離れていくとかならありえるけど」
「まだどうなるのかなんてわからないからね、これからもちゃんと気を付けて行動をした方がいいよ」
俺が正しく生きていく中でこういう存在は貴重か。
正しい意見なら言い訳をすることもできずに受け入れるしかないわけだから得でしかない。
問題は末吉が時間を無駄に消費してしまうということだがコントロールできることではないからな。
嫌になれば自然とやめて彼女とだけ、というか友達と楽しく過ごすために時間を使うように戻るだろう。
「よう、今日も揃っているな」
「天田先輩っ」
「落ち着け、末吉は元気だな」
「当たり前ですよっ」
これもいつまで続くのか。
末吉には悪いがあっさり上手くいく、などということにならないでほしかった。
だが、貫一でも末吉でも本気になったのなら頑張ってほしいという矛盾した考えもあった。




