魔法陣発動
何日も眠れない夜を過ごすが、村の人達に救われ、日中は仕事に追われる。収穫の事、温室の事、診療所には時折患者もやって来る。その為、マルコと相談して、住民の確認を行う事になった。ロバの荷台に乗り、筆記用具を片手に名前と家族構成、似顔絵に推定年齢、病歴を聞き取る。
「今回の調査で、あなたを認識できないと診療所には入れませんから、正直に話して下さいね」と、説明すると、ある程度の話は聞ける。マルコも知らなかった事もあったようで、たまに驚いている。
「そう言えば、この村の学校はどうしてるのですか?」
「この村の子供は通ってません。学校は町に有りましたが、通学できなかったので私が教えています」
「それは、凄いですね。助かります」
「教えるのは読み書きと計算くらいで、ブリリアール様のように絵は教えられません」
「絵はね~、お金がかかるし、大変で、わたくしも1番苦労しました」
「しかし、このように紙に書いてあると、本当にわかりやすいです」
「ええ、子供たちの家がやっとわかりました」
「‥‥‥」(まぁ、今更だよね)
◇◇◇◇◇◇
ーー王都からの避難命令ーー
ルーツィからもたらされる王都の情報は、信じがたい物ばかりだが、心のどこかでは、遠い世界の出来事のようで、その世界の戦場で彼は、毎日を過ごし、戦っているように思えていたと、今、実感している。
「王都が消滅の危機にあるのですか?」
「そうだ、王都全域かはわからないが、王宮は必ず消滅するとの予想が発表され、王宮内は、今は、誰も存在しない」
「そして、この後、君にとって酷になる話をする。我々は、森の魔法陣を動かす。魔力切れの我が国を救うために、不可侵の森に仕掛けられているスタンピートの魔法陣を利用して、魔力を溢れさせる作戦だ。無謀な作戦だがそれ以外は考えられない」
ブリリアールは、驚き、口を開けたまま唾も飲み込む事も忘れたような状態で、通信魔術具を見ている。不可侵の森までは数百メートルしかない我が家で聞く話ではない‥‥。
「魔法陣が発動するまでにはどの位の猶予がございますか?」
「僕の立場では、1、2日ではないとしか答えられない。すまない」
「わたくし達はどうしたらいいのでしょうか?どこに逃げれば安心なのでしょう?」
「今は、そこまで研究が進んでいないのが正直な話だ。森の近くが安全だと言う研究者もいる」
「この村で‥‥スタンピートが起こる可能性は?」
「無いとは言えないし、この国すべてが消滅する可能性もある」
「王都の商業ギルドも閉鎖されたのですか?」
「ああ、数日前に閉鎖されている」
「‥‥‥このような時に話す事ではありませんが、もう一度、お会いしたかったです」
「僕もだよ、すぐにでも駆け付けて君を助けたいが‥‥‥‥すまない」
◇◇◇◇◇◇
最後の会話が終わると、通信魔術具は作動が困難になり始めた。繋がったと思っても声が聞こえず、何度も交信を試みたり、夜中も試すが失敗に終わる。
国中のすべての国民が、連絡を取り合おうとしているのだから当然だ‥‥
何処に逃げても変わらないのであれば、この村ごと守るしかないと思い、マルコ達に相談する。
「国は、今、そんな事になっているのですか?」と、アローとキングは狼狽え始めた。
「住民たちを、わたくしの家に避難させられれば良いのですが、マルコは反対ですよね?」
「はい、ブリリアール様のお屋敷は遠すぎて、母を動かすことが出来ません‥‥」
「調査を開始してからわかった事だが、老人の数は、マルコが思っていた以上に存在していた」
「では、わたくしが、こちらに通います。家を建てている時間はありませんので、マルコの家の1室をお借りできませんか?」
「それでは、お迎えする為にお部屋を整えてますので、明日から日中はこちらへお出で下さい」
「後、ロバでの送り迎えをケリーの子供に頼む事にしましょう」
「お願いします。魔法陣の発動は夜には行わないと思いますので、昼間だけお借りします」
ブリリアールは、夜は結界魔法陣の勉強のやり直しを始め、昼間は、その魔法陣を村の至る所に配置して行く、配置しただけでは起動できないので、起動方法も考えなくてはならない。
「通信魔術具が使えればルーツィ様に相談できるのに‥‥」
王都の危機感が伝わらない村は、毎日、変わらない風景が続き、子供達が笑い、農夫たちは汗を流し畑を耕し、ブリリアールとマルコは心配事を話し合う。そのような中、森が大きな音を立てながら震えはじめた。
「ブリリアール様~~、こちらに避難して下さい」
「みんな!子供を優先して!ここに結界を張ります。みんな集まって!!早く!早く!村に戻って!」
◇◇◇◇◇◇
魔法陣発動の数日前、第2皇子は側近たちに話をする。
「魔法陣が発動され、成功してもこの国が救われたと、我々が判断するまでには多くの時間が必要だろう。そもそも何をもって成功したと言えるのかもわからない‥‥状況だ」
「第2皇子‥‥」
「消滅を止める事が出来れば、よろしいのではないでしょうか?」
「それは1年、2年、10年、僕たちが存在している間?永遠はあるのか‥‥?」
「残り数日だと考えと、家族や会いたい人の側で、その日を迎えた方が良いのではないかと、君たちにも家族や恋人、帰りたい故郷があれば帰った方がいい。僕は、ここで母上と共にいる」
「君たちのおかげだ。僕は皇族としてここで立ち会う事ができる。本当に、ありがとう、だから、君たちも家族や一緒にいたい人と共に過ごして欲しい。例え、消滅しても悔いが残らない様に‥‥」
と、第2皇子は話し終わると王妃様の寝室へ向かった。
取り残された側近や貴族たちは、各々に考えたあるようで、留まる者、帰郷する者と別れた。側近中の側近のルーツィは、その場に残る決心をしていたが、年長者の教師たちに促され、意を決して街へ向かった。王都の商業ギルドは閉鎖になったが、ここの街の商業ギルドは稼働しているはずだ。
平時なら2、3日かかる道のりを2日以内でたどり着いたのは、ルーツィの気力が勝ったのだろう。商業ギルドは閉鎖されていなかったが、発動までの時間が迫っていて、手続きをする余裕がない。
そこで、
「森の結界がもうすぐ破れる。急いで避難しろ!」と、権力を使いその場の人間を移動させた。
「間に合え!間に合ってくれ!」そう願いながら、移動場所をブリリアールの村の移動魔法陣に合わせ魔力を注入して行く、魔法陣が光ると同時に、森の魔法陣がゆっくりと地面を揺らしながら発動された。
「ブリリアール!!」
村へ移動した後、大きな揺れは地響きを出しながら、土、砂、草や木を巻き上げて、まるで台風のような風が村を襲っている。
「ブリリアール!!どこだ!どこに居る」土煙で前が見えない。どうなっているのだ!そんな中でもどうにかブリリアールの屋敷にたどり着いたが、ブリリアールの姿が見えない。そして、ドアが開いた。
「結界が、結界が破られている‥‥、森から魔力が溢れているのか?」
ルーツィも一緒に張った村の結界もなくなっていると感じた。あれ程強い魔力で張った結界も、森の魔力には敵わなかったのか‥‥。近くに繋がれているロバを救出して、一緒に村の方へ向かう途中、ブリリアールの書いた魔法陣の残骸が残っているが、まったく用をなしていない。拾いあげて見てみると、
「間違いだらけだ‥‥」
その時、アローは、逃げ遅れたようで、ルーツィを見かけると、ブリリアールはマルコの家に避難していると教えてくれた。
「そうか‥‥、避難していたのだな」
「ええ、風が少し止み始めましたね」
「ああ、どうにか、この村は持ちこたえたらしいな‥‥」
窓からずっと外の様子を観察していたブリリアールは、ルーツィとアローの姿を見つけると、思いっきり走り出し駆け寄ろうとする。しかし、どういう訳か、1番会いたくない人物を発見する。
「ブリリアール~~、死ね~~~」と伯爵家の兄だった男がブリリアールに襲いかかる。ルーツィが、屋敷に向かっている間、村に先回りしていたのだ。ルーツィとブリリアールの距離よりも、ブリリアールへの距離は近い。
その時、魔法陣の第2波が轟く
スローモーションの中で、ブリリアールは振り下ろされた刃物が風に飛ばされ、その男の体は、消滅を始め、体が砂のように舞い上がった。




