消滅が始まる
泣き過ぎてその日は復活できずにいると、頃合いを見計らって、マルコが訪ねて来た。昨日の件を聞いてやって来たに違いない。
「こんにちは、ブリリアール様」
「ごぎげんよう、何かあった?」
「昨日、ケリーの家の赤子を、治療して下さったと聞きしまして、その‥‥」
「治癒魔法の件ですね。治癒魔法は実は高価な治療で、貴族にだけ行われています。しかし、国から資格を与えられた者は、診療所を開く事が許されてるの、それで、今後はここで診療所を開く予定だから、薬棚やカウンター、机とテーブル等を作って欲しいのだけど、お願いできるかしら?冬までに、ゆっくりでいいわ‥‥」
「ここにですか?その‥‥今後は、魔法の治療は今後は行わないと言う事でしょうか?」
「治癒魔法を使った事を国に報告したら、このような診療報酬の表が送られて来て、多分、この村の人達では払えない金額だと思うわ‥‥」
「では、ケリーの赤子の治療費は‥‥」
「受け取らないわ、その代わりに、今後はここで薬草も育てていかなくてね、そうすれば安値で薬が作れるでしょ?」
「あのぅ、ブリリアールはお医者様なのですか?」
「違うわ、診療所を開設できる魔術師よ」
「診療所は、寒さが厳しくなる冬までに開設できるといいわね」と、マルコに話した後のスピードには驚きの連続だった。トウモロコシと豆が収穫時期に入っているのに、ブリリアールの土間は、ブリリアールが思っている以上に素敵に変化して行った。
未だに片付けられていない荷物は、布などが置いてある通称物置部屋に運びこまれたが、棚がないと行方不明になると、アローが言い始め、キングと2人で棚を作り始め収納された。
診療所で使う備品は1週間で揃い、今は、外に、薬草の為の温室を建て始めている。ガラス板を作るには時間がかかるので、樹脂と木材を工夫して建ててもらっている。
「入口のドアは、ガラスを使う予定だから、また、相談するけど、今は樹脂素材でお願いします」と、マルコに指示を出す。
村の人たちの熱意に押されて、ブリリアールも看板の製作を始める。イノシシが現れた時、あまりにも慌てていたので、家に結界を張る事を忘れてしまい、子供と女性たちの侵入を許してしまったので、鍵方式の結界魔法は止める事にして、あの後、家全体に強力な結界を張り、土間だけにマルコ、アロー、キングを許可対象にしたが、それでは、倉庫部屋に入れなくなったので、倉庫部屋も許可対象にした。
結局、診療所にすると、色々面倒なので、この看板が強力な結界の役目を担い、ブリリアールが招き入れた人だけを許可する方法を試す事にした。(魔法陣関係が苦手なので四苦八苦している)
毎日、忙しくしていると、久しぶりにルーツィ様から連絡が入った。
◇◇◇◇◇◇
その内容は余りにも衝撃的で、ブリリアールがこの田舎の村で消化できる内容ではなかった。
・留学先で第1皇子と側近は消滅した為に、第1皇子派の貴族も続々と消滅した事
・閉ざされていた王都門が開放され、残った貴族たちは故郷にもどりその時を待つ事
・王宮が封鎖された、王都の街は無法地帯となる可能性がある事
そして、ブリリアールの両親も消滅したらしいと、報告を受ける。
本当の両親でない為か、長年の恨みが重なっているかはわからないが、特別、悲しいとは思わなかった。
「兄は?兄の消滅は確認されたのでしょうか?」
「否、両親と兄上は王都を出て、ご自分の領土に戻る事にしたようだが、領民たちに抵抗され行き場を失い、町から町へと彷徨っていた時に消滅したようで、そこの代官からこちらに連絡が入った」
「町の人の証言では、ご両親だけだったようだ」
「そうですか、知らせて下さりありがとうございました。ルーツィ様は、どちらに避難されるのですか?」
「家門は全員、第2皇子派で領地経営もしっかりしているので、いざとなれば、そちらに避難するが、今は、王都から比較的近い場所に行くと思う」
「そちらは安全なのですか?」
「安全は確保されている。多分‥‥」
「そうですか‥‥、両親が消滅したのであれば、わたくしも消滅することがあるのですよね?」
「それは、誰にもわからない‥‥、明日には私が消える可能性もある。王宮では、今まで、魔法陣の見直し、数式の研究などを軸に研究を進めてきたが、ここまで来ると、神の領域なのではないかと、考える様にもなって来た。実際、君の兄上は行方不明なだけで、消滅したとの報告を受けていない」
神の領域、神の領域なら真っ先にあいつは消滅しているはずだ、考えていると、ルーツィが答えをくれた。
「兄上は、貴族学校を卒業してから仕事をしていないようだが、それはどうしてだ?国が管轄する機関などにも席を置かず、領地の経営もしていないが、理由があるのか?」
「兄は正当な後継者として育って来ましたが、幼いころより魔力量が少なく、相当なコンプレックスだと思われます。伯父夫婦も子供に恵まれずに、兄は伯父と平民の間に生まれた子供で、貴族社会からの縁談は望めないと、下級貴族に産まれたわたくしを養女に向かえたのです」
「それは、伴侶にする為にか?」
「伴侶にする為なら、養女にはしないでしょう‥‥、しかし、わたくしが貴族学校へ入学して、魔力で成績を残し始めると、事態は一変しました。側女に用意した子供は魔力を多く、一家を凍らせて脅したのです。彼らの自尊心はボロボロになったのでしょう。自分に用意された側女を侯爵家に売り、大金を得る事にしたのだと思われます」
「彼は、伯爵家の仕事もしていなくて、社交界での情報収集もしていないか‥‥」
「そうです。父上も正当な後継者でなかった為に、伯爵家の中心部分は抜け落ちている様でした」
「‥‥‥」
「実は、その中心部分が知りたいのだ。君の家は、どのように魔力を奉納していたのかわかるか?」
「えっ、魔力を奉納するのですか?」
「‥‥貴族の義務だ。その魔力量によって身分が決まるとされている。伯爵家ともなると、それなりの魔力を奉納していたと思われるが、どうだ?」
「ルーツィ様、わたくしは魔力がわかりません」
「では、屋敷内や離れに、子供が多くいたような事はあるか?」
「いいえ、兄は特に子供を嫌いますから、使用人の子供でも許可しないでしょう」
「メイドはどうだ?他国のメイドはいなかったか?」
「いいえ、いません。メイド達は、わたくしと同じ下級貴族の貴族学校出身で、良く虐められました。貴族学校に行けばわかる事ですが、同じ下級貴族の3女、3男の扱いがひどい事を、メイドになるか、側女になるかで、側女の方が身分が低いのです」
「だから、君は、5年もの間、治癒魔法に力を入れたのだね」
「そうです。職を得てあの家を出る為に、しかし、切羽詰まって、白い結婚に飛びついたのですが‥‥」
「それで、君が氷魔法で攻撃した後、メイド達の入れ替わりがあったのだな?」
「そうですね。噂にでもなったのか、生活魔法が使えない平民のメイドが、多く採用されました」
「そうか、教えてくれて助かる。伯爵家は王都の屋敷に家門のステッキを同化していた為に、消滅と同時に貴族の証を無くしている。彼らはすでに貴族ではない。しかし、君は、侯爵家から子爵の爵位のステッキをもらっているので、まだ、貴族だ。この意味がわかるか?」
「兄は、貴族ではなくなって‥‥、わたくしはまだ貴族」
「そうだ、そして、平民は誰一人として消滅していない、これからも十分に気をつけるように!」
◇◇◇◇◇◇
ルーツィとの会話が終わると、眠れない夜に突入して行く。眠れない時は起きて何かをする様にしてきたが、今晩は息をするのも苦しい。
「この世界に神様が存在するのであれば、どうか、この村の人々を、ルーツィ様をこの世界をお守りください」




