ふたりの距離
翌日は、珍しく早朝に起きた。この日を境に、ルーツィか様からの連絡は少なくなって、村の平凡な生活に慣れ始めたブリリアールも緊張感が薄れ、普段の生活に戻る。
1か月が過ぎた頃、商業ギルドの魔法陣が光り、エールの樽が戻って来ていた。樽の上には、映像の魔術具、可愛いお菓子、そして小さな花束等が乗せられていた。
一緒にいた子供達は、目を丸くしていたが、ブリリアールは迅速に子供を帰らせ、自身の収納からエールや製粉された小麦、保存された野菜等を乗せ、ブリリアールだけの魔力だけで商業ギルドに移動させた。その間、約10分弱、すぐに商業ギルドの移動魔法陣は閉鎖されてしまった。
たった10分‥‥
しかし、まだ商業ギルドは営業していて、ルーツィ様は、村や私の事を気にかけていると感じられた。送られて品物を、1つ1つ収納に入れて行くと、なぜか虫よけの魔法陣が数枚入っていて、基本の魔法陣に手で書き込まれている。不思議に思ったが、ここは森の近くで、確かに夏が近づくと虫が出現しそうで、ブリリアールは、衛生面や伝染病などの対策を、考えていなかったのでありがたく使わせてもらう事にした。
移動魔法陣の四隅と、我が家の周りを囲むように設置して行く、畑は虫の力も必要かも知れないので、いつもいる場所だけにした。(ブリリアールは、わからない事に手をださいない方針だ)
「彼は極度の虫嫌いなのか?家にGが出現したらどうするのだろう?」
家に戻り、映像魔術具を再生すると、久しぶりの彼の姿が見える。王宮での撮影は許されない為に、外に出ている時の映像だろうか?自撮りが下手過ぎて、景色も見えずに大きな横顔だけが見える。
「ハハハハハ、おかしい、こんなに笑った事はない。これは、わたくしの撮影技術を見せなくては!」
ブリリアールは、まず足元に映像魔術具を置き、スリッパで歩く後ろ姿から始める。そして、招き入れた事のないキッチンで料理をして、美味しく頂く姿を送信した。
直ぐに通信魔術具が光り、久しぶりの会話が始まる。貴族学校が閉鎖された事で、多くの教師や研究者が王都から流出し始めたらしく、消滅を止める目途が立っていないらしい。
「王都は大丈夫でしょうか?」
「今の所は大丈夫だ。所で、商業ギルドから食料やエールの樽が送られて来たと連絡があったが、良く送れたと、商業ギルドでも話題になっていたよ。君の魔力量は凄いな‥‥」
「丁度、移動魔法陣の上で、村人たちと食事会を開いていましたので、タイミングが良かったのでしょう」
「君の食事会は、もしかして、大量のエールを消費するのか?」
「大麦の収穫もお願いしますし、この村も閉鎖しますので、ガス抜きも必要だと判断しました」
「‥‥楽しかったか?」
「はい、初めて早寝をしました。陽が暮れてすぐに寝たのですよ」
「ハハハハ、それは、良かった」
久しぶりの会話は、悲しい会話でもあり、楽しい会話でもあるが、見えない未来でもあった。
◇◇◇◇◇◇
本格的な夏が始まり、子供たちは、新しい服に着替えてブリリアールのもとに集まって来る。喉が渇いて、冷たい飲み物を欲しがるが、先ずは、暑い中、働いている大人たちへ配る事が最優先だ。最近、体格の良い男の子が、ロバを引きながらブリリアールに卵やミルク、料理のお裾分けを運んでくる。そして、村に戻る荷台には氷が入った樽を2つ持って帰る。夏の水分補給は大切なので、この夏から始めた村長としてのサービスだ。
「ブリリアール様、あの‥‥僕に、氷を売って頂けないでしょうか?」
「どうしたの?氷が足りないの?」
「いいえ、去年生まれた妹の熱が下がらなくて‥‥、冷たい氷があればって、母さんが‥‥」
「そう、では、わたくしが行きましょう。家を教えて下さる?」
ブリリアールは、この日、初めてロバに乗る。男の子が引いてくれるが、とても不安定で、2mくらいで断念し、大人しく荷台に移り、今度は、「ちょっと、待っていてくれる?クッションを取って来るので‥‥」と引き返した。
クッションを積んだ荷台は比較的快適で、男の子の家に着くまでのんびり景色を楽しんだ。到着後は、母親が急いで出迎えてくれて、
「赤ちゃんを見せてくれますか?少し様子を確かめたいから‥‥」
赤ちゃんは、確かに暑く、顔も赤いが、少し人見知りをしていて可愛い、ブリリアールは、治癒魔法を習っているので、治癒魔法をかけると、サ~っと熱が引き笑顔を見せてくれた。
「これで大丈夫だとは思いますが、氷に頼らずに、お湯を沸かして、冷まし沢山の水分を与えて下さいね。後は消化のいい物を食べさせてあげて‥‥それから‥‥」
ブリリアールは、しばらくその家に滞在し、様子を確認した後、また、荷台に乗って戻る。畑から父親も帰って来て、ブリリアールに何度も頭を下げて見送ってくれた。
帰り道、「ブリリアール様は、お医者様なの?」と男の子に聞かれたが、
「違うわ、これは治癒魔法と言って、貴族学校で習うのよ。貴族はあまり医者にかからないのに、不思議よね?」
「この村や、近くの村にも、診療所はいないし、町の薬局にも行けない、だから、村が閉鎖されて、こんなに、困った事はなかった‥‥けど、でも、ブリリアール様が居て下さって本当に良かったよ」
「そう、そのような弊害も確かにあるわよね‥‥、今まで良くみんな健康だったわ‥‥」
貴族学校時代、入金されないカードを満たす為に、休日は療養所で働いた。貴族であっても貧乏な子供はいる為の救済措置が、療養所で治癒魔法を行う事だった。魔力が多く、すべての魔法を使えるブリリアールには天職で、この制度があったおかげで人並みの学校生活が送れたのだ。
(この世界の奨学金制度なのか?)
今日の事を、ルーツィ様に話してみようと思っていると、早速、通信魔術具が光った。
「ごきげんよう、ルーツィ様」
「ああ、疲れたよ。今日は君に聞きたいのだが、君の村の広大な畑は土魔法で耕したのか?」
「そうですよ、結構大変でした」
「あの畑は、その肥料と言う物を足しているのか?」
「肥料ですか?森から大量に飛んでくる枯草を燃やしたり、土に混ぜたりしました。そのくらいですかね」
「君は、意外にも肥料と言う物を理解しているんだな‥‥、貴族なのに‥‥」
「ルーツィ様は緑魔法の教室は通わなかったのですか?そこでは色々な事を教えてくれました」
「あぁ、君は魔術以外は、すべての教室で優秀な成績を取っているからな‥‥」
「芸術教室も通ったんだろう?」
「はい、絵は大好きで、1番、熱心に通いました。後は、光魔法の教室で習った治癒魔法ですが、村で使用しても大丈夫でしょうか?」
「病人が出たのか?」
「はい、2歳にもならない子供で、熱があったので治癒魔法をかけました」
「君は、5年以上診療所で働いたのだろう?そこでは、診療所を開く許可は取れたのか?」
「はい、卒業前に頂きました」
「それならいいが、報酬はどうした?かなりの高額になるはずだが?」
「村を閉鎖している為に医者を呼べず、薬局にもいけないので、貰いませんでした」
「そうか‥‥、閉鎖の弊害は、そのような所に出て来るな、村が閉鎖している間はそれでいいが、その後は、君が狙われるぞ!気をつけろ」
「はい、気をつけます」と、ブリリアールは、暗い顔で返事をした。
前世の記憶で、畑を耕したこと、治癒魔法の事を話したが、無料での診療は良くないと、今になって反省する。村中の人の病をすべて無料には出来ない、治癒魔法は国への報告義務があるからだ。‥‥どうしようと、また、不眠の状態に陥り、貫徹して濃いめのコーヒーを入れて外を見ていると、遠くの移動魔法陣が光り出した。
「ルーツィ様!」
パジャマのまま、小さな鞄を手に、思いっきり走り出し、移送魔法陣の上にたどり着くと、そこには、大量の薬や包帯、消毒など診療所が開ける程の医療用品と、国認定の診療報酬表、急いで片付けて、収納から渡せるものを探すが、既に、閉鎖されていた。
「あぁ~~、早い!商業ギルト!仕事でき過ぎよ。渡したい物は沢山あるのに、手紙とか、村にも沢山の花が咲いていて、美しい花束が出来るのに、ただ1杯のコーヒーも淹れてあげられない‥‥」
ブリリアールは、そのまま座り込みしばらく大声で泣いた。こんなに感情を表した事はないが、泣く以外はどうしたら良いのかがわからなかった。
「商業ギルド~~~開けて~~」




