危機管理?
相変わらずの夜型生活を続けているブリリアールだが、なぜか毎日のようにルーツィからの通信魔術具で起こされる。寝る前にお風呂に入って、エールを飲みながらサラダや干し肉を食べ、快適な生活をしているが、王都からの情報は、無視出来ない内容だ。
「国内の土地が、消滅しているのですか?」
「その為に、魔力持ちの貴族は王都へ戻るようにと命令が出た」
「それでは、わたくし‥‥も?」
「イヤ、君はこの前の食料提供があったので保留になっているが、君の両親が大掛かりで探し始めている。君の魔力が必要なのだろう」
「わたくしは、表向きには魔力が殆どない事になっているのですよ?」
「詳しくは話せないが、今は、国の為に、貴族の魔力が必要なのだ。しかし、それに平行して食料も必要になって来ている」
「もしかして、穀倉地帯が消滅したのですか?」
「そうだ、だから、君の村の生産量を落としたくないし、危険な目にもあわせたくない」
「‥‥‥ありがとうございます」
「それと、貴族学校が閉鎖になり、領土へ戻る学生もいて、隣の町に戻る平民の学生がいる。君の村は結界が張ってあるが、隣は商人開放の町だ。村人たちにも接触を禁じた方がいい。どこから君の情報が漏れるかわからないからな‥‥」
「はい、多分、マルコは、口止めするように言ってくれてます」
「これは、貴族である君に、知らせるべきだと思って話すが、国王陛下の体調がよろしくない。私は、第2皇子の側近で、これからは本格的に第2皇子の政に関わって行くと思われる。今後も君へ情報提供はしていく予定だが、今まで以上に大変な事が起きると予想している」
ブリリアールは何故か涙が溢れ始め、じっと、通信魔術具を見つめて話を聞いている。
「‥‥それは‥‥、国王陛下の魔力が低下している為に、貴族は王都に呼ばれたのですよね?ルーツィ様は、もう、王都を離れる事はないのでしょうか?」
「ああ、多分、そうなる」
「それなら、映像の魔術具も必要でしたね。わたくし、お顔を忘れそうです」
「‥‥‥それでは、商業ギルドの移動魔法陣は、誰でも君の村に入れる為に一時閉鎖するが、エールの樽と映像魔術具も送るようにしよう。ブリリアール、本当に気をつけて、君と村を守って欲しい」
「わかりました。では、また、お会いできる日を、美味しいお酒と待っていますね」
「ハハハ、飲み過ぎないようにな‥‥」
「ルーツィ様もお体に気をつけてください」
◇◇◇◇◇◇
次の日、ブリリアールは、初めて村の全員を集めるよう、マルコに伝達を頼む。商業ギルドの魔法陣の上は、広い空き地とスカスカの屋根があるので、集会場所には最適な場所だ。
ここで、徹夜で仕上げた紙芝居を取り出し、村民に説明する。
「はい、注目して下さい。今、この国は大変な危機が迫っています。ここの領主邸が消滅したような事が、国中で起こっています。王都には貴族が集められ、貴族学校も閉鎖になりました」と、説明するが村民たちに危機感は伝わらず、そうなんだ~~くらいの反応しか帰って来ない‥‥(徹夜したのに)
そこで、ブリリアールはただ1つだけを、お願いする事にした。
「とにかく、この村は完全に閉鎖、わたくしの事、または、この村の内情を、外の人には絶対に話さないで下さい。ちなみに、他の村の人と連絡を取り合っている人はいますか?‥‥親戚とか?」
「あのぅ、他の村への連絡は、村長の仕事ですから‥‥」と、マルコが、小さな声で、すまなそうに話す。(そうなんだ‥‥知らなかったよ)
ワイワイ、ガヤガヤの中で、ただ、1人だけ、冬の厳しい時に親戚が訪ねて来て、ブリリアールが仕留めたイノシシの肉を渡した村民がいて、新しい村長は魔法が使えると話したと教えてくれた。
「それと、年に1度の交換会も今年は不参加になると思われますが、特に、何か不足している品はありますか?こちらで揃えられる物があればお譲りします」と、聞くと、服や下着のが不足している様で、靴は、1年くらいは待てるようだ。
「では、布は私の家に沢山ありますので、誰か、服を作る事は出来ますか?」と、聞くと女性たちはどうやらできるらしいので、明日、この場所で選ぶことにした。
初めての集会で、言いたいことが溜まっていたのだろう。国の消滅の事など、どうでもいいような感じになり、ここのブドウの話になった。
この場所は、いつも子供達がおやつを食べる場所で、魔法陣を覆っている屋根は、補強後、沢山の柱が立っている。夏の日差しを避ける為に、そこにブドウの苗をいくつか植え、おやつにもなり、ジュースにしてもいいと考えていたが、男性たちはワインにしたいらしい。
実はブリリアールはワインが好きではない為、とっても消極的だ。
「ワインですか?」ブリリアールの冷めた反応に男性陣は驚くが、女性たちの反応はすこぶる良い?
「ブリリアール様が、ワインは作る予定がないのであれば、仕方がないわね~~」
「‥‥‥」
それから、じっくり話を聞くと、夜の内職で樽を作っている様で、女性たちは家の修理や家事を手伝って欲しいのだと訴え、大麦の収穫後にワインまで手を伸ばすのは反対らしい。
「では、ブドウは食べきれなくなったら、私が乾燥させて保存食にしましょう。明日、布の件で女性陣が集まった時に、エールを2樽プレゼントします。それでよろしいでしょうか?」
マルコが、
「村長、明日、もう一度、ここに集まるのでしたら、ここでエールを飲んでよろしいでしょうか?」
「実は、交換会は、収穫を自慢する場所でもあり、収穫祭のような催しでみんな楽しみにしています」
「そう?いいわね。では、明日はここでパ~~と、大麦の収穫前に飲みましょうか?」
「わぁ~~!!」と言う声が上がり、みんなが嬉しそうが顔で笑っている。テーブルと椅子は資材置き場の材木で簡単に作り始める相談をしたり、料理や飲み物をどうするかもいつの間にか話し合っている。
本来、何かあった場合の避難経路などを話し合う予定が、祭りの相談になるとは思っても見なかったが、彼らは、今年、懐が暖かく、欲しい物もあったのに、ブリリアールの為に閉鎖に同意してくれたのだと思うと、必要な催しだとブリリアール自身も思った。
「マルコ、明日の事を提案して下さりありがとうございます。何より村の人たちが嬉しそうで良かったです」
「去年までの事を思うと、身分不相応な事ですが、年に1度か2度は、このような事があってもよろしいかと思いました」
「ここは、いい村ですね」
「はい、ブリリアール様がいらして良い村になりました」
「ありがとうございます」と、マルコとブリリアールは互いに言って笑った。
◇◇◇◇◇◇
次の日、お昼前から準備が始まり、いつもの3人はブリリアール家から大量の布を運び出し、その後は、ロバの台車に樽とカレー味の干し肉、追加の肉も乗せた。
会場は、いつの間にかキッチンのような場所も併設され、ブリリアールの畑から大きくなり過ぎた野菜が収穫されていて、色々な料理に変化していた。
「このままですと、腐らせてしまうので、みんなで収穫して、次を植えて置きました」
「助かります。1人では食べきれませんし、子供に持たせるには成長し過ぎて困ってました」
へへへと誤魔化し、奥様方に、この前ルーツィが差し入れしてくれた肉を渡すと歓声が上がり、カレー味の干し肉も興味深々だとわかる。そんな中、生地が並べられると視線はそちらに移動して、男性たちは何故か安心してゆっくりとエールを飲み始めた。
子供たちは、食べ物に夢中で、それぞれのガス抜き出来て、心から良かったと思った。
宴会は、陽が暮れるまで続き「後は、お願いね」と、年寄りの上司のように言い放ち、ブリリアールは自分の家に戻って、この世界に来て初めてこんなに早く眠りについた。




