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ルーツィと王都事情③


 窓から見える大麦畑は、どうにか前回くらいに成長し、緑が輝いているように思える景色が広がっている。これなら大丈夫ではないかと自信たっぷりに、ルーツィ様を迎える準備をして移動魔法陣の前に立っていると、魔法陣がひかりルーツィが登場した。


 「お久しぶりです。本日はどのようなご用でしょうか?」(なぜ、5頭のロバを連れて?)

 「少し込み入った話だ。家の中で話そう」

 「メイドさんは?」

 「今日は、メイドも従者もいない。君に関しての話だから2人の方が良いだろう」


 ルーツィ以外は、村の方へ向かい、ルーツィが自分の家に入るように、ブリリアールの家に入って行くので、仕方なくいつものキッチン兼応接間に通した。お茶の用意を始めると、「コーヒーにしてくれ」と言うので、「時間がかかりますよ」と言い残し、コーヒーの準備を始める。


 コーヒーの豆は生豆で、選別し、手製の炮烙で煎り、風魔法で乾燥させてから挽いてと、時間がかかる1杯を用意して持っていくと、ルーツィはすっかり眠っていた。(社畜で忙しいのかしら?)


 「ルーツィ様、ルーツィ様、コーヒーが入りましたよ」と起こして、何事もないように会話が始まる。


 「今回の訪問の理由だが、侯爵家が消滅した。君の婚約者だったクズスーザと愛人も一緒だ」

 「あの‥‥ぅ、それはどのような意味でしょう?死亡したと言う事でよろしいのでしょうか?」

 「そうだ、侯爵家は全滅、領土邸、王都の屋敷も消えて無くなった。残ったのは平民の村だけだ」

 「所で、君は、公爵邸に出向いた事はあるか?」

 

 (いつもの面接口調が始まった。はぁ~~)

 

 「はい、ございます。いつも同じ部屋で1時間程、お茶を出され待たされます」

 「‥‥‥そうか、これからプライベートな事を聞くが、大切な事なので正直に話して欲しい」

 「君は人の魔力量がわからないのではなか?例えば僕の魔力はわかるか?」

 「いいえ、両親から、その‥‥、床に入らないとわからなと言われましたので‥‥、もしかして、今日はそのおつもりで?」


 「バ、バカな事を言うな!完全な誤解だ!君の魔力が多すぎる為の弊害だ!」


 「多すぎる?‥‥‥幼い頃は魔力がない為に、両親から使用人のように扱われていましたが、貴族は貴族学校へ行かなくてはなりませんので、貴族学校への入学を許されました。入学してからは順調に授業も受けられて、魔力がないと言うのは家族のでっち上げだとわかりました‥‥が、多すぎて‥‥」


 「それから、貴族学校での成績が良かった為に、両親や使用人達からの下手ないじめはなくなりましたが、ある夜、許可もなしに、兄が私の寝室に入って来たのです」


 「兄上は、実の兄なのか?」

 「いいえ、父の兄の子供で、私は遠縁の貧しい家庭の子だったようです。推測ですが、父は、誰とも子をなす事が出来なかったのだと思われます」


 「君は、寝室には結界を張っていなかったのか?」

 「勿論、張っていましたが、珍しくメイドが来たので‥‥ドアを開けてしまったのです」

 「その後はどう対処したのだ?」

 「凍らせました。丁度、氷魔法を覚えたばかりで、思いっきり氷の弾丸を打ちまくり、今まで嫌がらせをしてきた両親、兄、メイド、使用人すべてを凍らせて結界を張って眠りました」


 「よく、両親たちは無事だったな‥‥」


 「その辺りの事は、聞かされていないのでわからないのですが、メイドと使用人は入れ替わっていて、嫌がらせは、少なくなりました」


 「1、2年は普通の暮らしが送れたのですが、侯爵家との縁談が持ち上がりそれに飛びついたのです」


 「ご両親は、君の底知れない魔力を侯爵家に売り、兄上は伯爵家に子供ができない呪縛を婚約者に叩き込み、白い結婚を勝ち取った魔術契約だな。実際、クズスーザが死んでいなければ、まだ君は彼の婚約者だったぞ」


 「‥‥ルーツィ様は、わたくしの特異な体質をどのように知ったのですか?」

 「最近、高貴な方の体質が、その様だと知ったからだ。君は他人の魔力も己の魔力もわからない、そうだろう?」


 「そうですが、ルーツィ様はわたくしの魔力がわかるのですか?」

 「わからないが、魔力の使い方で判断できる。伯爵家の両親と同じ考えだ。しかし、伯爵家を氷漬けにした後、眠ったのであれば、そこが限界なのかも知れないな‥‥」


 「今、多くの国民が魔力欠乏症で眠りについている。だから、君もむやみに魔力を使って畑を仕事をしない事だな、これは命令だ」


 (命令?いやいや、部下ではないですが‥‥イノシシの時は脳震盪だと思うけど、あれが、限界?魔力切れなのか?)


◇◇◇◇◇◇


 ルーツィが持参して来た王都のお菓子を、ムシャムシャ食べて考えていると、商業ギルドの人たちが外から合図を送ってきたので、2人で外に出ると、1人がルーツィに耳打ちしている。


 「小麦はどうした?成長魔法で収穫まで育てたのか?」

 「‥‥‥」

 「大麦はエールにして冬の間に飲むのか?トウモロコシは何に使う?備蓄か?」


 「村の経営の為に秘匿にしてます‥‥」と、下を向いて答える


 「ブリリアール嬢、現在、ある村にも麦の生産を急がしている。比較的王都に近く、村は貴族が経営しているのではない為に、ここよりも危険が多い、しかし、前回、君の為に、夏野菜の苗などは快く分けてくれた。王都の近くの麦は今後の為に、残して置きたい、どうか、半分でいいので分けてくれないか?」


 「‥‥‥ロバは置いて行かれますか?」

 「ああ、5頭すべて置いて行こう」

 「入金も‥‥」

 「当然だ」

 「では、どうぞ、お持ち下さい。きっかり半分ですよ、それ以上はお断りします」

 「では、エールの樽を10樽追加でいいか?」

 「‥‥‥、では、次に来るときには12樽の空の樽をお持ちください」

 「了解した。では、契約を」


 ブリリアールの家への許可は、この前の従者とメイド、ルーツィにしか出していないので、外のテーブルでの調印になったが、誰も嫌な顔を見せずにスムーズに進んで行く。5頭のロバにはそれぞれ荷車が付いていて、まるで見越してきたようで気分が悪いが、マルコ達がロバを望んでいたので良しとした。


 倉庫から運び出された小麦は、挽かれる前の状態で備蓄されているので量が多い、そう、量が多いのだ、多分、ルーツィたちが試算した時よりも倍の収穫高で、倉庫内もびっちりで少し困っていた。


 「随分と量が多いのではないか?」とルーツィは聞くが、

 「製粉すると嵩が減って、丁度、良くなりますよ」


 「トウモロコシも製粉するのか?」

 「いいえ、多分、そのまま食べて、備蓄に回し、お酒を造ります」

 「‥‥‥」

 「豆は?」

 「豆も、そのまま食べて、備蓄に回し、酒のつまみにします」


 「君は、酒を飲む以外の楽しみはないのか?」

 「このような所であると思いますか?」

 「‥‥‥」


 貴族同士の騙し合いが終わって、お互いに疲れが見えた頃、荷物の運び出しも終了し、ルーツィ達は、王都へ戻って行った。


◇◇◇◇◇◇


 ルーツィに、伯爵家を凍らせた事を話したが、あの時も、魔力欠乏症ではないと思った。ブリリアールの趣味は、物語を書いたり、絵を描いたり、記録を取ったりする事で、楽しみはこの村にもある。


 伯爵家では結界を張っても深く寝る事が出来ず、夜中の暇つぶしに始めた事だったが、その物語の中に浸っている時は、幸福だった。その為、慢性の寝不足は現在も続いているが、今までは、誰にも見せる事のなかった絵や物語は、この村に来て陽の目を見た。


 ブリリアール専用の畑の手伝いに、子供達はおやつの時間にやって来る。目的は冷たいお茶とお菓子、それと紙芝居だ。絵を見ながら物語を聞き、少しだけ世の中の事も教えている。本当は字や計算を教えた方が良いのだろうけど、なんとなく無粋だと思ってしまう。


 これでいい、このままみんなと、年を取れればそれでいいと、ブリリアールは心から願っている。

 


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