ルーツィと王都事情②
ルーツィが商業ギルドから連絡を受けたのは、帝国が領土を切り離したと情報が入った頃で、王宮に戻る事も危険な状況に加え、作物の供給が不足し始めた頃だった。
「第2皇子、実はブリリアール嬢から、商会ギルドへ残りの荷物を移動の要請がありまして、私が向かいたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「自分か管理している土地には行かないで、ブリリアール嬢の村に行きたい理由は?」
「はい、彼女のリストの中に、カーズ村で採れる野菜が入っていましたので、届けるついでに食料の量産を頼みたいと思いまして‥‥」
「ブリリアール嬢の村は、貧しく村民も50人程度だろう?量産は無理なのでは?」
「はい、その通りですが、土地は広くホーリータウンの倍はあります。実は、彼女はすべての魔法の使い手ですので、農民と協力する事で生産が上がるのではないでしょうか?ホーリーとケルフを見て思ったのですが‥‥」
「う~~ん、今までは輸入や農村を頼ってばかりだった為に、この結果だ。それでは私も視察に同行する。私はルーツィの従者でいいか?荷物運びは出来そうもない」
「そ、それでは側近全員で向かう事になりますが、よろしいのでしょうか?」
「彼らも、そろそろ村に慣れた頃ではないか?」
「‥‥‥」
◇◇◇◇◇◇
女性の屋敷に男性だけで訪問する事は出来ず、フェリクス先生のメイドを借りる事にして、他の側近たちは商業ギルドの職員を装い、村での情報集めをする。大型の氷室の為に、荷物運びは人足を多めに雇い、カーズ村から野菜、ベル商会からコーヒー、スパイスも揃えて向かったのだが、小麦が多めに出来ても備蓄に回したいと断られている。
「備蓄するには大量ではないか?」
「ルーツィ様、わたくしは素人で、村人たちの畑にはまだ雪が残っている中、わたくしの畑の種まきをしてくれたのです。麦が育つかもわかりませんのでお約束は出来かねます」
「まぁ、そうだな、全滅してしまう可能性もあると言う事か‥‥」
ブリリアールは、ルーツィたちがあまりにも残念がるので、掘り上げた魔石を見せて換金をお願いする。
「畑を土魔法で掘っていて見つけたのですが、商業ギルドで換金してくれませんか?」と、商業ギルドの職員を装っている側近に話しかけているのを見て、ルーツィが、
「魔石は売るのに作物は売らないのか?」と悪態をつく、
「魔石はこの村から発掘されたので、村の財産です」
「では、これからも、魔石が出る可能性があるのなら、商業ギルドから通信魔道具を買い取った方が良いのでは?」とルーツィが提案する。
「それは、そうですね、国内も不安定ですし、お願いできますか?」と側近のシモークに聞いた。
シモークは、ルーツィを見て、ルーツィから渡された通信魔道具をブリリアールに手渡した。
「では、魔石の鑑定が終わったら連絡する」
「はい、お願いいたします」と、ブリリアールは、挨拶をして魔法陣の前で元気に見送った。
◇◇◇◇◇◇
キッパリ断ったが、ブリリアールの麦畑は麦踏が終わるとすくすく成長し、予想の10倍以上の収穫を得た。農民たちの畑はまだ芽が出たばかりだったので、大急ぎで収穫し、保存する倉庫も森の近くの日陰に作り、備蓄に成功したのだ。
「ブリリアール、この前いらした商業ギルドに売らないのですか?」と、マルコは聞くが、
「ええ、来年をのんびり過ごす為にこのままにしましょう。あまり王都に関わりたくはないので‥‥」
マルコはブリリアールに何か事情があると察し、そのままにすることを了解してくれたが、そう上手くいくとは思っていない。何故なら、この前の商業ギルドはブリリアール様とは全く違うお貴族様で、見逃してくれる訳が無いと考えている。
「しかし‥‥、国を欺けますでしょうか?」
「嫌だわマルコ、連絡しないだけでしょ?それとも村の人は誰か買収されたのですか?村の外の人に自慢したとか?」
「いいえ、村の人間は基本外には出ませんが、年に1度だけ、他の村と収穫を見せ合い農産物を交換する日があります」
「そう、去年はどうしたの?」
「この村はいつもイノシシの肉を出して、足りない作物と交換しています。しかし、今年は、作物も豊富にあるので、オスのロバが欲しいですね」
「ロバを増やしたいの?」
「はい、本当に役立ちます。特に荷を運ぶのは事はロバなしでは考えられません」
「‥‥‥ごめんなさいね」
「いいえ、そのような意味ではありません。しかし、年寄りの意見として、麦畑をカモフラージュした方がよろしいかと思いますが‥‥、この前の商業ギルドの職員は村人一人一人に聞きまわったいました」
ブリリアールは少し考えて、土間の中のテーブルに3人を案内する。これは異例な事で3人は初めてブリリアール家の中に入った事になる。(いつもは土間の手前の入り口辺り)
「大麦の種が残っているので、半分は大麦、そしてトウモロコシと豆にしてくれますか?現在の畑の後処理は、わたくしが、2日で行えますので、どうかしら?麦が連作となるけど、この家の窓から見える範囲には植えたいわね」
「大麦ですか?大麦は余り食べません‥‥が、カモフラージュにはいい‥‥ですが‥‥」
あら?大麦は食べないの?美味しいのに?と思いながらエールの入った樽を持ち出した。
「このエールは、わたくしが造っているのですが、味見をしてみませんか?」
3人は嬉しそうにコクリと頷き、ブリリアールが、ここの土地で作り上げたガラスのコップに注ぐのを見入っている。
「どうぞ、召し上がれ、この樽を開けると2,3日で炭酸が無くなり不味くなるのですが、大麦で出来ているのですよ」
3人は目を丸くしながら3秒くらいでエールを飲みほした。ブリリアールも自分専用のグラスに注ぎ、新しく作ったカレー味の干し肉も提供した。
「もう1杯いかがですか?」
「いただきます」3人は5杯くらい飲み干してから「大麦を育てましょう」と快諾してくれた。
「後、この前、ルーツィ様が2樽持ち帰ってしまったので、樽も作るように言ってくれる?」
「大きさはどのくらいでしょうか?」
「この大きさでいいわ、あまり大きくなると魔法が大変になりますから」
「トウモロコシと豆も備蓄しますか?」
「もちろん、食べてもおいしいし保存も出来ますよ。少し魔法が必要なだけ」
「後、夏野菜はどうされますか?」
「村に半分は渡したと思いますが‥‥?」
「はい、頂きましたが、ブリリアール様の分の苗はまだそこに‥‥」
「ああ、そうね、忘れていたわ。今日、この残りのエールを渡したら家の前に植えてくれる?」
「もちろんです」
「半分でいいわ、残りは部屋で育てる予定だから、そのままにしておいてね」
「家でですか?」
「そう、冬も葉物野菜が食べたいのよ」
3人は理解できないでいるが、魔法で、どうにでもなるのかとも思っているので深くは聞かない。実際、ブリリアールも魔法でどうにかしようと思っているからだ。
ほろ酔い気味の4人は、ブリリアールの家の前にブリリアール専用の畑を作り、柵で囲い、植え付けまでして解散となった。マルコ達は残ったエールを大切に抱えて村へ帰って行ったので、その後の大麦の種まきも順調に終わり、トウモロコシ、大豆、その他の豆類もどうにか終わりそうで有難い。
自前の畑で野菜が育つまでは、ルーツィが持って来てくれた野菜でサラダを作って食べてる。それもマヨネーズやドレッシングで食べられるので、幸せいっぱいで過ごしていると、通信魔道具が作動しているのが見えた。
(マルコの直感が鋭いと感心しつつ通信魔道具を動かす)
「ごきげんよう、ブリリアールでございます」
「明日、そちらへ向かうので準備を頼む」
(いつも思うのですが、わたくしは部下ではありません‥‥、ハァー)




