初めての冬越え
「あ~これは冷蔵、いいえ、氷室と言って食品が長持ちします」
「それで、雪が降る前に、倉庫小屋をできるだけ建てて欲しいのですが、大丈夫でしょうか?」
「はい、村には男手が余っていますので、助かります」
「そう、日当はおいくらですか?急がせるので2割増しでお支払いします」
「1銀貨で十分です。それでも多いくらいで、税金も免除の上に肉も頂きました。これで冬が越せます。本当にありがとうございます」
と、3人は頭を下げて持ち場に帰って行った。
部屋を片付けようと思ったが、肉の処理の方が大事だと思い直し、調味料を探し、塩と知らないスパイスを、肉にふりかけ氷室でそのまま寝かした。
部屋は魔術師たちがクリーンをかけてくれたので清潔だが、壁が薄いし、どこからか隙間風も入って来る。この問題を解決する為に、大きな板を壁と床に貼る作業が大切だ。
「土魔法と風魔法の併用で出来るかしら?床は木でも良いけど壁はレンガを張る?」
ブリリアールは片づけながら計測し、設計図を描きながら構想を練る日々が3日間続きた頃、やっと肉の存在に気づき、慌てて氷室から肉を出した。外に出ると農夫たちはどんどん小屋を建てていて、すっかり忘れていたロバとヤギ、鶏たちの面倒も見てくれていた。
「お世話になってすいません」
子供達がやって来て「卵産んでいたよ」と、言うので、「あら、美味しそうね」と言うと、「食べちゃうの?」と聞かれ、少し困っていると、お母さんらしい人が来て、
「村にも鶏がいたのですが、全滅してしまい、それから卵をたべていないので‥‥すいません」
「よろしければ、皆さんで育てて下さい。どうせ、私には世話ができませんので」
「はい、ヤギとロバはどうしますか?」
「え~~と、ヤギは雑草を食べてもらう為とミルクが飲めればいいと思って買って来ました。ロバは私にも乗れるのではないかと、商業ギルドで進められたので買いました」
「お世話は?」
「‥‥できればお願いします」
「ヤギの乳は赤子に飲ませてもよろしいでしょうか?」
「お腹を壊さなければいいです」
「ロバは農作業に使ってもいいですか?」
「ロバにストレスを与えなければどうそ‥‥きっと、牧草もありますので使って下さい」
質問攻めにあっていると、やっと、前村長のマルコがやって来て、救出してくれる。
「何かご用でしょうか?」
「レンガで作りたい物があるのですが、レンガは?」
「あちらに有ります。どこに運びますか?」
「そうね、木や草がない所にお願いします。それと鏝と板も一緒にお願いね」
ブリリアールは土魔法でモルタルを作り、農夫たちにレンガを積み上げてもらいながら、モルタルで固める作業を始めて小さな窯を作り、風魔法で乾燥させた。周りの村人たちは驚いていたが、その辺の枯葉を集め火を起こし魔石を投入し、イノシシの肉を吊るしベーコンを作り始めた。
「はい、これで、明日には食べれるでしょう。何かあったら教えて下さいね、火の管理は私がしますので大丈夫ですよ」
家に戻ると、風魔法で乾燥せた肉を、面倒だけど小さく切って味見をする。
「う~~ん、塩の入れすぎだけど、スパイスが効いていてスープには最適かも、まあいいでしょう。この冬の間は持つのだから‥‥」
「鶏肉と卵が無くなったのは痛かったけど、子供達には必要な栄養素なので仕方がない」
氷室をクリーンで清潔にした後、野菜の保存に入る、芋類は涼しい場所で良いけど、氷室で保存できる野菜は、今日中に片付け、その後は切っては凍らせを繰り返し、冷凍食品を手作業で作った。
雪が降り始める前に倉庫と小屋が出来上がり、ヤギのミルクや卵の配達もこれで終了となり、ロバともしばしのお別れで、ここから本格的に内装工事が始まる。
綺麗に収納された倉庫から板や工具を収納して、雪の中を歩く、勿論、暖かいパンツスタイルで、薄っぺらなドレスなんか着ていたら死んでしまうので、せっせと厚手の布で作った。上は、当然、フード付きのコードで、ズボンはブーツにインできるように細身に作ってある。
「あ~~寒い、床が本当に寒いので、一度、モルタルを引いてから板を張って、樹脂を浸透させましょう。隙間は要らないこれがモットーです」
釘を叩くには女の軟腕では無理があり、床も壁もモルタルに頼る事にした、板を止める為には多少の釘打ちは必要だが、1階全部と2階の自室がこの冬の目標で、余裕があればキッチンも可愛いタイル張りにしたい。
滅多に外に出ないブリリアールだが、子供たちが晴れた日にはやって来て、ミルクと卵を届けてくれるので、王都から持って来たお菓子をいつもお駄賃であげている。
嬉しそうな6人組は、きっと、晴れの日を楽しみに、この冬を過ごしているに違いないと思って自分も笑顔になれた。
隙間風を見つけてはパテ埋めしている作業が終われば、この冬の目標は達成するので、最近はのんびりできる様になった。この世界に来て初めての心の休暇を味わっていると、家の前をイノシシが歩いているのが見えた。
「え?どういう事?結界が外れたの?魔術師たちの取りこぼしか?」
ブリリアールは急いでコートを着て、イノシシを追いかける。晴れた日には子供たちがこちらに向かうからだ。
雪に足を取られおぼつかない足取りでイノシシを負うが、到底、追いつけない。遠くで子供たちの悲鳴が鳴り響き、魔力が全身からみなぎる感覚がわかる。急いで処理しなければ子供たちが危ない。
土魔法で地面を掘りながら悲鳴のした方向へ向かうと、6人の子供はすでに大泣きの状況で、イノシシをより刺激している。向こうからは男衆もカマや矢を持ってやって来ているが、間に合いそうもない、ブリリアールは全身の魔力を使い氷魔法のマシンガンを作り出し、次々とイノシシに打ち始めた。
初めて使う武器魔法だが、イノシシを射止める事は簡単に出来た。『やったーー、間に合った』と、言いながら後ろに倒れたが、むき出しになっている土は柔らかく、そして暖かかった?
気を失ったプリリアールは、プリリアールの家に運び込まれ、リビングのソファに寝かされていた。
「気が付きましたか?」
心配そうに覗き込む6人の子供達と3人の母親らしき人がいて、男衆はいなかった。
「イノシシは?」
「当然、死にましたよ、あのような攻撃では、暴れる事もなく即死でした。本当にありがとうございました」と話しながら泣いている。子供達も、泣きながらお礼を言うので、手や顔にみんなの涙が落ちて少しムズ痒い。
「それなら良かったです。商業ギルドに文句言わなくてはですね」
「‥‥‥イノシシは、私たちのせいなのです」
「すいませんが、みんなにお茶を入れてくれませんか?喉が渇きました」
10人分のお茶を不揃いのカップに入れてもらって、ビスケットを砕いていれた。泣いていた子供たちは直ぐに泣き止み、大人たちは笑顔で見つめる。
「いつもありがとうございます。配達は1人で十分なのに6人で向かうと言って聞かなくて‥‥」
「いいですよ、私も楽しみにしていますので、それで、イノシシは狩場から入って来たのですか?」
「多分、そうです。この村が飢えはじめると、狩場からイノシシや鹿が現れ救ってくれるのです」
「皆さんの食糧事情は厳しいのですか?」
「昨年の収穫が少なく、多少は厳しい状況ですが、ブリリアール様がいらしてからは卵もミルクも手に入りますので何とかやっていけます」
「では、今年は収穫を少し増やさなければなりませんね。王都から色々な種や苗木を持って来ましたので、春になったら皆さんにお分けします。頑張りましょうね」
無償の援助は為にならない、それでも自分1人分の食い扶ちが減れば、それは、村長としての援助ではないだろうか?




