村に到着後
村への移動はルーツィの号令の下、予定よりも早く行われる事になった。コマサッシュは、不足分を用意する為に、もう一度、移動魔法陣を動かすチケットをこっそり渡してくれた。
魔法陣を動かす為の魔術師が数人、荷物運びの人足、役人、商業ギルドからはコマサッシュが出張して来た。
初めて見る大型の魔法陣に魔力を込め、ブリリアールは自分の村に足を踏み入れた。
「数週間で雪が降るので、それまでに冬支度をしなさい。君の家門とクズスーザの侯爵家には第2皇子が釘を刺して下さるので数か月は安心して暮らせるだろう。春になると、この道を沿いに商人開放している村があり、市場が出来上がるそこで買い物ができる」と、意外に優しく説明してくれた。
魔法陣がいきなりひかり、大勢の人と沢山の荷物が運ばれた村人たちの驚きは相当だとわかる。理解はできるが、ブリリアールはここで長く静かに暮らす為に誰よりも早く挨拶をする。
「皆さん、こんにちは、今日からお世話になりますブリリアールと申します。貴族の為、村長になりますが、私は、この村に結界を張り、国に税金を納めるだけの人間です。村の経営はどうぞ今まで通りに進めて構いませんし、相談事が金銭で解決できる場合は相談して下さい」
と、あまりにも破天荒な挨拶を終えると、1人の老人が前に出て挨拶する。
「こちらこそ、お待ちしてました。森が近く、結界がない状態での生活は恐ろしく、いらしてくれた事を感謝いたします。今は、農閑期ですので、何かお手伝いがございましたらおっしゃって下さい」
「では、資材小屋と物置小屋の建設をお願いします。荷物を運ぶ為の人足は連れて来ましたので」
王都の人間と地方の農民を一緒に働かせる事は酷だと思い、仕事を分ける事にした。ルーツィは、チラッとブリリアールを見たが何も言わずに起点への案内を始める。
「ここが起点となる。起点が決定すると移動魔法陣が設置できるがどうする?」
「当分の間は必要ないと思いますので、国への申請は止めて起きます」
「あぁ、それで構わない。君は通信魔術具は持っているか?」
「いいえ、すべて破壊して捨てました」
「そうか、そうなると、今後、誰とも通信できなくなるがいいのか?」
「願ってもない事です。いつも煩わしいと思っていました、それに、こちらの村で暮らすには必要ありませんし‥‥要らないです」
「では、文官と共にここの調査に入る。君は搬入の指示を出しなさい、その後、結界魔法を教える」
「はい、ありがとうございます」
◇◇◇◇◇◇
ブリリアールの家は、アメリカンスタイルの木造の家のようで、カバードポーチが付いているが木が腐っているのがわかる。室内は高い天井とリビング中心の家で、土間が終わると板張りが始まり立派な柱がそのままの状態で残っていて、この家を支えているのがわかる。
「良い家ではありませんか?」とコマサッシュに語り掛ける。
「私もそう思っていた所です。どこかの商会の持ち物だったようですが、ここまで広いとは思いませんでした」
「別荘だったのですか?」
「森の近くにはたまに魔石が落ちているらしく、それを夏の間は集めさせていたようで、村人たちは農業と魔石採取に追われていたと聞いています」
「村人たちは、その商会に魔石を売らなかったのですか?」
「労働者としての賃金を貰っていたでしょう、村人は弱い立場ですからね‥‥、領主がいなくなって、村の結界が消滅したので、流石に商会もここを去ったようです」
「2階は寝室が4つありますが、主寝室に家具を入れますか?」
「ええ、お願いします」
「主寝室にはバスルームないのですね?」
「バスルームと洗面所、トイレは隣の部屋と1階に有りました」
「わかりました。ありがとうございます」
「布などは1階の広場に取り合えず搬入して下さい。食料、台所用品はキッチンへ、衣装は2階の空いている部屋へお願いします」
色々な事をお願いしたいが、ここでの人生は長いのでおいおい片付ければいいと思っていると、ルーツィが、大きなイノシシ2頭と鹿を仕留めて戻って来た。
「ど、ど、どうしたのですか?」
「結界が消滅していた間に入り込んでいたようだ。どうする?」
ブリリアールが返答に困っていると、先程の老人が「こちらで処理致しましょうか?」と言ってくれたので任せる事にした。
「また、野獣が入り込んでくる前に結界を張ろう」
「はい」
ルーツィが老人に声をかけて聞く、
「他に熊とかも出るのか?」
「いいえ、イノシシと鹿が良く入り込みますが、村に狩りが出来る若者がいますので、どうにかなっています」
「あそこは、村で狩場にしているのか?」
「‥‥はい、なぜかあの場所にだけ現れます」
「今回、結界を張り直すと狩場が無くなるかも知れないが、どう思う?」
「狩場から近い家に子供が産まれましたので、村ではいつも心配していましたので閉鎖された方が安心して眠れます」
「では、はじめよう」
結界の魔法陣は貴族学校で習った基本魔法陣に手を加えて完成する。強度はその人の魔力量で違い、今回、ブリリアールの魔力量がルーツィに知られた事になった。
「君は‥‥、否、なんでもない、これで終わりとなるが、本当に大丈夫なのか?」
「大丈夫です。伯爵家で過ごすよりも安心安全で心が軽くなっています」
その後、コマサッシュ達と合流し、村の人達が用意してくれた軽食とお茶を頂き、作業が終わると移動魔法陣で戻って行った。
陽が暮れて周りが暗くなると、家に入り、暖炉に薪を入れ、新しい生活がスタートしたのだと腰に手を当て、気合を入れた。
「でも、今日は、このまま食事をして、眠って終わりにしましょう、ふ~~、さぁ、出すか」
実は、ブリリアールは収納魔法が使える。貴族学校では教わらなかったが、魔法はイメージで、前世の記憶に則っていつも携帯している小さな鞄に収納できた、貴族学校の寮の部屋のすべてを‥‥
「せ~~の」と主寝室ではないバスルームがある隣の部屋に並べる。食べかけのパンやお菓子、お茶のセットもそのまま表れて、乱れたままのベットやクッションまでもそのままだった。
「あ~~、収納して来て正解だった。昨日の生活が続いている感じで落ち着く~~、お風呂に入ってからベットに入りましょう。あっ、シャンプーも石鹸もタオルもそのままある、ラッキー!」
湯舟に浸かりながら今後の計画を練る。
ブリリアールが沢山の資材を移動させたのには訳があった。前世で雪の寒さを知っている為だ。冬を快適に過ごす為に、収納に資材を入れて家の中を断熱する予定だ。明日からは少しづつ収納しては運びを繰り返し、どうにか雪が降る前に冬支度を終えなくてはと決心する。
◇◇◇◇◇◇
翌日、早起き予定だったが、目覚めたのは10時頃で遅い朝食を取っていると、昨日の老人が訪ねてきた。
「村長、昨日のイノシシと鹿が解体されましたが、いかがなさいますか?」
「いつもはどうしているのですか?」
「村の世帯で分けています?」
「人数分ではなくて?」
「はい、そうしてます」
「それでは今まで通りでお願いします。あの‥‥もしかしてあなたが前の村長でした?」
「はい、マルコと言います。この二人はアローとキングです」
「では、村の人に私の事は、ブリリアールと呼ぶようにしてくださいと伝えて下さい」
「わかりました。では、こちらはプリリアール様の分です」
運び込まれた肉の塊は、30~40キロ、いいえ、50キロくらいあって、2人の若い男の子が運んできた。『うっ!どうする?』と思っていると、玄関に新しい氷室が2つ置きっぱなしなっていたので、氷魔法でジャンジャン氷を出して、
「ここに入れて置いてください。それから工事の日当は、おいくらですか?」と聞いていると、呆気にとられているのか、なかなか返事が返ってこない。
「こ、これは何ですか?」
「あ~これは冷蔵、いいえ、氷室と言って食品が長持ちします」




