どうにか家を手に入れた
テーブルに置かれたコーヒーと砂糖とミルクを、前世と同じ配置に整えると口に含む、酸っぱくて苦く好きな味だ。苦いだけのコーヒーよりも少し酸っぱいコーヒーが好きだった事も思い出した。少しブラックを楽しみそしてミルクを追加してコマサッシュの説明を聞いている。
「現在、国の方針としては、土地の管理を魔力持ちの方に任せる様になったのです。プリリアール様はご存じではありませんか?突然、領主の屋敷や土地が消滅したと言う話を?」
「王都の貴族の屋敷もですか?」
「伏せられていますが、王都でもございました」
「だから、不動産の価格が下がっているのですね‥‥」
「でも、わたくしは平民街に家を構えたいのですが、それもダメなのでしょうか?」
「‥‥‥昨夜の事はすでに貴族街で噂になっていますし、平民の町で結界を張ったとしても、プリリアール様の命の保証はできないと思われますが‥‥」
「そんな、では、どうしたらいいのでしょうか?大金を持ったまま死んだら、このお金は両親が相続するのですよね?」
「そうなりますし、両家がプリリアール様のお命とお金を、狙っていると思った方がよろしいかと‥‥、それに、王都の平民街に住んでも、このままですと、買い物にもいけません」
「そこで提案ですが、国の新しい政策に参加されませんか?」
(なんて詐欺っぽいフレーズでしょう?まさか10憶の大金を国債に変えて身を守るのか?)
「実は、領主邸と一部の土地が消滅した場所がございまして、領主不在の為に魔力持ちによる、村単位での統治を目指しております」
「村ですか?村の中の家を購入するのですか?」
「違います、村を購入して頂きたいのです」
「???よくわかりません。すいません‥‥‥、わたくし、村長になるのでしょうか?」
「そうですね、村長でもいいですし、国から派遣される代官の身分でも大丈夫です」
「貴族学校を卒業したばかりで、見習文官でもなく代官になれるのでしょうか?」
「噂ですと、クズスーザ様の家門より、子爵の爵位を頂いたとお聞きしましたので、領主様にもなれますよ」
「‥‥‥村長でお願いします」(中央のギルド商会の情報を舐めてました。流石です)
「それでですね、昨夜から検討した結果、こちらの村はどうでしょうか?」
「さ、昨夜からですか‥‥」
「はい、昨夜からプリリアール様の周りは、暗殺者が溢れていましたので、入金と同時にこちらのギルトが動き、処理をしておきました」
「それで、今日はこのまま寮に戻らずに村へ移動する方がよろしいかと思われます」
娘を殺すように命令する両親が存在することに驚いているのに、コマサッシュは、慰める言葉もなくこの後の説明を始める。
「こちらの村ですが、10世帯ほどの小さな村でして、現在、納税が行われていません。未納分をまずプリリアール様に払って頂きまして、村の購入金額にしたいと思います」
「え?国にとっては、いい制度に思えますが、来年からも納税があるのですよね?」
「はい、そうですが、プリリアール様にとっては11世帯分の納税価格は微々たるものです」
「ちなみに、未納分と来年からの税金はおいくらですか?」(やはり少し詐欺を疑う)
コマサッシュが提示した金額は余りにも低いので、疑いはどんどん上昇して行く。
「実は、この村の背面は不可侵の森が存在していますのと、たまに雪が降ります」
「雪ですか?」
「はい、王都に住んでいますとわからないと思いますが、空から氷が降って来るような気候で、作物を育てるには向いていない土地なので税金も安くなっております」
「領主が不在の場合の税は、小麦で払う事が出来ませんよね?」
「はい、ですから、ブリリアール様の現金でお願いします」
「‥‥‥」
「お金がなくなるよりも、命があった方がよろしいのでは?」
「はぁ、そうですね、そう致しましょう」
「では、契約の前に、今後の生活に必要な物をリストアップして下さい。職員に集めさせ精算させます」
プリリアール様が口頭で伝え、職員たちはメモを取り、全力で買い出しに向かい時間を節約する。一例をあげると、これから雪の降る季節を迎える年末の為、木材、クギ、薪、炭、魔石、レンガ、タイル、大工道具、樹脂、作物の種、農業用具、台所用品、調味料、大量の布や糸、綿、布団、家具、洗面道具、化粧道具、服や下着、氷室、大量の食糧、ブーツや靴、タオルなどの日用品、大量のお菓子類、お茶、コーヒーなどの嗜好品、ついでにお酒等である。
「資材は、移動できる量の最大でよろしいのですか?修繕などは、あちらの農夫を使うのでしょうか?」
「はい、出来ればそうしたいです」
「馬はどういたしますか?」
「乗れないので、必要ございません」
「しかし、5、6キロ先には市場がでて、買い物ができますけど、よろしいのですか?」
プリリアール様は少し考える。村への移動魔法はこの商業ギルドからは1回限りで、沢山運んでも足りない品は必ず出てくる。普段使いの乗り物は必須だけど、馬に乗るのは怖くて無理そうだ。
「ロバにしますか?その‥‥プリリアール様は、痩せていらっしゃるのでロバでも大丈夫だと思いますが」と女性の職員がすすめてくれた。ロバはゆっくり動いて大人しいらしい‥‥多分。
「では、ロバにします。それと、ロバが引く荷台、ついでにヤギと鶏もお願いします」
買い出しリストが出来上がると、ギルドに詰めている日雇いたちに仕事が振られて、商業ギルドの移動魔法陣の上に集められる。
「では、彼らが戻るまでに契約を結びましょう。貴族学校のカードを商業ギルドのカードに移行しますね。そこから、未納納税分の金額のお支払いお願いします。そして、今日、購入される予定の金額も多めにお支払いお願いします。精算後に余剰分は戻ります。後、村を購入された分の税金もお願いします」
「税金ばかりで、家の価格は含まれていませんが?」
「家は、古い建物でして、価格は0です。しかし、国の台帳にはしっかりプリリアール様も名前が記載され、起点も出来ます」
「起点ですか?」
「はい、村には魔法陣が存在していますので、今回の移動で職員が同行しプリリアール様の家に起点を決めます。今までは起点があれば領主が村に結界を張って守ってくれていましたが、現在、この地域には領主が存在していませんので、プリリアール様の魔力が頼りになります」
「つまり、わたくしの魔力で結界を張り、雪の降る村を不可侵の森から守るでよろしいでしょうか?」
「平たく言うとその通りです」
「どうして、わたくしのような娘が‥‥」
「命を守る為と、爵位のステッキをお渡しする為です」
そう言えば、クズスーザの家門から子爵の爵位を頂く予定だったが、商業ギルドから1歩でも出ると暗殺されるようで、爵位の譲渡は不可能になっている。
プリリアールが2杯目のコーヒーを飲みながら考えていると、コマサッシュが、「お見えになりました」と席を立ち挨拶に向かう。
そこに現われた男は、育ちが良さそうで、体格も良く、短髪で背が高いイケメン男子だ。
「こちらは、第2皇子の側近でいらっしゃるルーツィ様です。丁度、ブリリアール様が購入される土地のお隣を管理しています」
「初めまして、プリリアールと申します。どうぞ、これからよろしくお願いいたします」
「ルーツィ様、ご足労いただきありがとうございます」と、コマサッシュと一緒に頭を下げた。
ルーツィは、軽く挨拶し、
「陛下より、ステッキを預かって来ました。ステッキは起点と同化させる事も出来るが、腕輪として体内に取り込む事も可能だがどうしますか?」
ブリリアールは、何を言っているのか理解できない為、笑顔で誤魔化していると、ルーツィによって腕に設置され体内に飲み込まれ、その爵位と土地の権利がブリリアールに移行した。
「では、早速、移動しましょう」と、ルーツィの一言がみんなを急がせる。




