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森への魔法陣①


 第65章


 ーー森の魔法陣ーー


 しっかり目が覚めたフェリクスは、ホーリーの家の隣の家で、貴族らしく朝食を食べていた。


 「坊ちゃん、本当に起き上がって大丈夫なのですよね?」


 15歳で貴族学校を卒業したマリアの就職先はフェリクスの屋敷だった。下級貴族で3番目の女の子が生きて行くのはなかなか厳しく、結婚以外ではメイドが妥当で、フェリクスの屋敷の雇用体制は素晴らしく温いものだった為、3歳になったフェリックスの担当メイドに指名された時に、一生結婚はしないと心に決めた。


 「マリア、大丈夫だよ、どうせベットに寝ていても事情聴取は行われる。心配ない‥‥」


 それでも心配そうなマリアは、フェリックスの好きな紅茶を入れて手渡すと、ため息が出た。しかし、状況は待ってくれずに、ユルが第2皇子が到着されましたと報告に来たのだ。


 「今、行く」


 人数が多い為に、ホーリーの食堂に移り、待ち構えている面々に挨拶をして会議が始まる。


 「元気そうで何よりです。ホーリーはどこに居るのですか?王都の平民教会も避難したと聞きましたが?」


 「ホーリーは、アレクサンダーと一緒にいるようですよ。森の近くに小屋を作ってそこで療養しています」


 「ああぁ、それはいい考えですね」(アレクサンダーは使い魔だと周りの人間は思っている)


 「では、確認したいことがあるのですが、フェリックス先生は、森の魔法陣を覚えていますか?」


 「ええ、多少ですが記憶しました。昨夜のうちに書き込みましたのでアガシー先生にお渡しします」


 一瞬、その場の人間は信じられない者を見る様な目でフェリックス先生を見て、リンさんが、その紙を一番最初に奪い取った。


 「‥‥‥、凄い、優秀だ。これが貴族学校の教師の実力なのか」

 「リン、こら、見せろ、儂が最初だ!」


 アガシー先生とリンさんは、そのまま、その魔法陣に憑りつかれてしまったので、第2皇子が質問を続ける。


 「森の魔法陣が発動するには、何かきっかけがあったのですか?」

 「良くわかりません。突風が前上がり、ホーリーの魔力が漏れ始めたので、その場を離れようと思った時に、彼女が『あっ』って、言ったのです。それから魔法陣が発動し、その魔法陣に集中した為に、ワイバーンの操作をおろそかにしてしまいました。面目ない」


 「ホーリーの魔力が発動のきっかけですかね‥‥?」


 「まさか、体を密着していたからわかった位の漏れですよ。魔法陣を動かすには全然足りません」


 「僕は、何かを発見したのかと思っていますが、僕には見えずに彼女だけが見えた物があったのでしょうか?」


 「‥‥‥」


 「中心地はあそこで良いのだよな?」とアガシー先生が質問する。

 「はい、僕たちが思っているあの場所で発動しました」


 「フェリックス先生は、新しい魔法陣をあの場所で発動させる為には、どの位の魔力が必要だとお考えですか?」


 「どうでしょう、既に森は魔力で満ちています。そこに新しい魔法陣を仕掛けるとなると僕は専門外でわかりません」


 「第2皇子は魔力で満ちている森を開放するおつもりですか?」


 「いいえ、僕は、あの森は女神様がいらっしゃる不可侵の森、聖域です。聖域を解放せずに国を救いたいと思っています」


 「どのように?」

 「漏れです。スタンピートが発生する魔法陣を利用して、魔力だけを溢れさせる作戦です」

 「あぁ、いい考えですね。実際、スタンピートが発生して経験がありますし、不可能ではないですね」


 「我々は、王都の魔法陣を解除し、同時に森への魔法陣を発動する予定です。すでに、避難は始まっています。後はワイバーンの回復を待つだけです」


◇◇◇◇◇◇


 フェリックスは、第2皇子達がワイバーンの様子を確認に向かうと、従者を連れてホーリーを訪ねた。


 スプリンドが椅子から立ち上がり、挨拶をして席を譲る。

 「先生、もう、大丈夫なのですか?」

 「こんなに眠った事がない程、眠ったんだ、大丈夫だよ」

 「神官様の力は凄いですね」

 「君の母上が魔力欠乏症の時に、この事がわかっていれば、すべては違っていたのだろうな‥‥」

 「僕もそのように思う時がありますが、仕方がない事だと、自分を納得させています」


 「しかし、この女神様は凄いですね」と、ケルフが置いて行った女神像をフェリックスに見せる。


 フェリックスは、すぐに、その女神像がケルフが作った物だとわかると、スプリンドに聞く、

 「ケルフはどうしてこれを置いて行ったのだ?」


 「ケルフは、ホーリーに言われて、この女神像を売っているらしいですよ。丁度、あの日、森の魔法陣が発動した日からカーズ村で売り出していて、人気商品だと言っていました」


 フェリックスは女神像を手にしたまま、

 「ケルフは、あの日、ホーリーにも同じ女神像を渡したのか?」

 「そう言ってました。お守りに持たせたのに、持って行かないから事故に遭ったとブツブツここで文句を言ってましたよ」


 「そうか、そう言っていたか‥‥」女神様はどう思われたのだろう‥‥と、フェリックスは考える。


 「今日の夜、僕がここで彼女に付き添うよ。睡眠はたっぷり取ってあるので心配ない」


 「それから、ここにケルフを呼んでくれ」


 「はい、わかりました」


 しばらくすると、ケルフはプレジーを連れてやって来て、女神像の事で怒られると思っているのか、挙動が少しおかしい。


 「ケルフ、この女神像を作る時に、何を考えて作った?」

 「‥‥‥ミルサーチさん綺麗だな~~とか、まだ、目が覚めないのかな~~とか、会いたいな~とかは、いつも考えて作っています」


 「ふっ、そうか、わかった。では、学業も遅れている事だしここで授業を始める。ケルフ、ホーリーの近くに、ケルフの魔法で作れる特大の女神像を作れ!私が許可をする」


 驚いたのは、ケルフとプレジーだけでなくユルとジモール、心配して駆け付けたスプリンドとミスドルも、同時に驚いている。


 「先生、それはどういう事ですか?」


 「第2皇子達は王都へ戻られたか?」とミスドルに聞く、

 「はい、先程、戻られました」


 「そうか、君たちは秘密を守れるか?これから話す事を、王都の連中に言う事を禁止する魔術契約を結べるか?」


 「僕は出来ますが、プレジーは魔力がないのでどうしますか?」

 「僕は、ホーリーが助かる為なら絶対に話しません!!」と、プレジーは、フェリックス先生に詰め寄り、フェリックスは、プレジーに契約を結ぶとどうなるか、破るとどうなるかを説明し確認を取る。


 「魔術契約は、魔力がない者でも血液があれば結べる。‥‥‥結ぶか?」

 「はい、お願いします」とプレジーは叫び、その他はただ静かに頷いた。


 ユルは従者らしく、他言無用の契約魔術の紙を取り出し、各々の署名を待ち、プレジーはだけは血判を押す。


 他言無用の契約魔術が発令されて、ここにいる人は、これから秘密を共有する事になった。


 「この女神像と、森の魔法陣は共鳴している」


 夏なのに、涼しい風が吹き、眠っているホーリーにも風は優しく通り過ぎるが、一瞬、その場は凍りつき、ケルフは固まったまま動かない。


 「僕たちが突風に煽られて空中に投げ出される前に、ホーリーは、魔力を使いながらケルフの女神像を、森の魔法陣の中心に落としたのだ」


 「それが引き金で森の魔法陣が発動した。この女神像は発動の鍵になっていると私は思う。そして、ケルフのつくる女神像で、ホーリータウンだけは確実に救われるだろう。この女神像には女神の加護が溢れている」


 「そんな‥‥‥、僕‥‥‥」



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