女神様⑤
第64章
ーー森の魔法陣ーー
フェリクス先生とホーリーが森に出かけてから、1時間くらいが過ぎた。仕事中もホーリータウンの全員が、森の方角の空を見上げている。
「まだかね‥‥、もうすぐ戻るよね?」と、シママは薬草の整理をしながら母親に聞く。
シママの母親は、マグネと言って腕のいい薬師で、バーグ先生とも意見交換ができる程に賢いらしく、薬局に、アナベルとグレイも良くたずねて来ては、バーグ先生の伝言を伝えたりしていた。
「シママ、こんにちは、バーグ先生が、シママが集めた薬草の鑑定が終わったから取りに来てって、それから、包帯に傷薬を塗って保管するのは良いけど、瓶に保存の魔法陣を書いてもらうといいって、私は書けないけど、兄が書けそうだと言っていたわ‥‥」
「ありがとう、最近、建築の仕事でケガする人が多いから助かるよ」
「ねぇ、ホーリーは、まだ、戻って来ないの?」
「うん、時間的にもうすぐらしいけど、森の素材を夢中で集めているのかなぁ~~?」
「いや、ホーリーは、そういうタイプではないと思うけど‥‥」
その時、森の方から魔法陣の光と波動が放たれ、ホーリータウンはパニックに陥った。フェリクス先生、ホーリーやワイバーンまでも戻らなかったので、ホーリーの家に集まり緊急に会議が始まったが、第2皇子からの正式発表は行われなかった。
シママは心の中では不満を爆発させたい程に怒っていた、『どうして、ホーリーが‥‥、まだ10歳なのに‥‥』と思って、ずっと、空を見上げてホーリー達が戻って来るのを待っている。
マグネが「シママ、ホーリーがケガして戻った時の為に、薬を作るから手伝いなさい。今はそれくらいしか、彼女にしてあげる事がないのよ‥‥、ここにいる人全員が彼女たちの為に何かしてあげたくて仕方がないの、できる事をしましょう」
「そして、ホーリーを待ちましょう」と言ってシママの肩を抱きながら慰める。
◇◇◇◇◇◇
夕方、まだ、陽が残っている時、どこからかアレクサンダーがホーリーを背中に乗せて現れた。
「ホーリー!!」
みんながアレクサンダーを取り囲む中、バーグ先生がやって来て光魔法で治癒魔法をかける。その後、バーグ先生とマグネが話し合いをして、ホーリーの部屋に運ぶ、バーグ先生は治癒魔法をかけながらマグネは、多数の傷口に薬を塗り、包帯で保護し始めた。ホーリーの状態が落ち着いてからは、フェリクス先生の捜索が本格的に始まった。村の中を探しても見つからず、翌日からは捜索範囲を広げ、カーズ村、その隣、そして、また、その隣へと広げた結果、フェリクス先生を発見する事ができた。
マリアさん達が昼夜一生懸命に看病して、神官様にも見てもらったフェリクス先生は、8日後に目が覚め、ゆっくりと起き上がった。
「ホーリーは?ホーリーはどうした?」
「ホーリーは、アレクサンダーが連れて来て、眠っていますよ。王都から神官様もお見えになって、治癒の祈りを捧げて下さいました。坊ちゃん‥‥、ホーリーはきっと大丈夫です」
マリアの言葉を聞いて、安心したのかフェリックスは「そうか‥‥」と呟き、また眠る。
なかなか食事をとれないフェリックスの為に、マリアは常に待機しているが、それでも1言2言を発するだけで、事情を聞けるまでには回復していない。
一方、ミスドルは大きな木の下に、ワイバーン様に作られた小屋でワイバーンと一緒に過ごしている。
フェリクス先生が見つかった村から、大きなワイバーンがいると報告を受けた騎士たちが教えてくれた。ミスドルが駆け付けるとワイバーンも負傷していて飛ぶことが出来なかった。ミスドルは直ぐに駆け付け、自身ができる最大の治癒魔法を使って治療を始めた。その村に留まり、ワイバーンの面倒を見た。ワイバーンのケガの知らせを聞いたシママも、駆け付けてくれて一緒に治療に当たった。
「羽の傷が少し良くなったみたいですね?」とシママは言う。
「そうだな‥‥動く事が出来る様になったら、ホーリータウンは向かうか?」
「その方がいいと思います。ここの人達が怖がっていますから‥‥」
特大の荷台が完成後に、騎士たちと共にワイバーンもホーリータウンへ戻って来た。ミスドルは、ワイバーンの治療に魔力を使い、夜はスプリンドと一緒にホーリーの護衛も務める。
◇◇◇◇◇◇
一方、ホーリーは、街のアパートに戻ってから、順調に回復し、ミルサーチと本格的な話し合いが始まる。
「お母さんは今回の私の任務は知っていたの?」
「ええ、知っていたわ、今までだって、ずっとあなたの近くにいたのよ。思い出して!って、いつも祈っていた。でもあなたの記憶には私はいなかった‥‥」
「それは、私の一番初めの記憶が、子供だけしかいない世界で、そこで大きな爆発があってそれから転生が始まったの‥‥親と言う概念がなかったから‥‥」
「あの世界は特殊で、異能を持った子供たちが集められていた世界、わたしもお父さんも手が出せなかったから‥‥」
「消滅させたの?」
「ええ、でも、子供たちはすべて自分の能力が発揮できる世界に受け入れられた」
「私は‥‥」
「‥‥‥」
「異能がなかったのね?」
「そうなのよ、どうにか救い出したけど、異能の無かったあなたは適正な世界には送り出されずに、転生を繰り返す事になってしまったの‥‥」
「雇用主にお願いしてあなたの近くには来れたのだけど、あなたは一向に思い出さないでしょ、だから、あなたに今回、与えられた任務は、母親を探し出す事だったはず‥‥」
「でも、どうしてこのような事が出来るの?女神様だから?」
「そうね‥‥、私もあなたの父親も天界では幹部クラスである事は確かよ。そして、この国は、数百年前までは、私の支配下だったわ、いつから国王が支配したのかはわからないけど、女神の国を汚したことには変わりないわ」
「お母さん、この国は、消滅するの?」
◇◇◇◇◇◇
王都、王宮
国中から集まった研究者たちは、フェリクス先生が目覚めた後の聞き取りについて話し合う。
「彼は優秀ですので、発動された魔法陣を多少なりとも、覚えている可能性があるのではないでしょうか?」
「閃光で見えなかったとしても、中心点はわかるはずです」
「中心点の予測はアガシー先生がすでにしていまして、この場所です。ここは、種や葉、花、小枝などが大量に採取できる場所だと聞いています。アガシー先生そうですよね?」
「はい、儂もフェリクス先生もそこが中心だと思っていましたが、あれほど大きな魔法陣が仕掛けられているとは考えてはいませんでした。王都の魔法陣なんて子供騙しのようですよ」
「アガシー先生は、その中心に何か仕掛けた事はありますか?」
「‥‥、ええ、まぁ、しかし、これまでは、無反応で、安全だと判断しフェリクス先生とホーリーを向かわせました。彼らが何かしたのなら目覚めるのを待って、事情を聞きたいと思っています」
「それでは、アガシー先生は森の魔法陣に細工をするのか、それとも新しい魔法陣を作動させるのか、どちらにするつもりですか?」と、久しぶりに現れたリンが質問する。
「新しい魔法陣を仕掛けるつもりです」とアガシー先生はキッパリと宣言した。
リンは立ち上がり、第2皇子に助言する。
「アガシー先生たちが魔法陣を発動する時、王都の人たちを郊外の村や町に避難させて下さい」
「我々はどうする?」
「その日、王都は消滅すると考えるのが妥当でしょう。今でも王都の魔法陣は動いています、必ず消滅するでしょう!」
その日のリンの一言で、王宮から王都の住民へ避難命令が発令された。すでに半分以上の住人は避難している為に大きな混乱はなかったが、危険を避けるために、領主を受け入れないと、抵抗していた領土も最後は領主様を受け入れた。
数日後、フェリクス先生が完全に目を覚ましたと、報告を受けたアガシー先生、第2皇子、バーグ先生たちは、ホーリータウンへ戻って来た。




