女神様①
第60章
午後からは王妃に治癒魔法を施す事を始める。初めての為、フェリクス先生、バーグ先生、アガシー先生、スプリンド先輩、第2皇子とマダミラン女官が、王妃の寝室に集まった。
「それでは、はじめますね、私は、治癒魔法の教室に通った事がないので、治癒魔法は第2皇子にお願いします。私が平民神殿で聞いたお祈りの言葉を唱えますので、第2皇子は復唱して下さい」
第2皇子は王妃の手を握り、ホーリーをじっと見て、ホーリーは、間違えないように1言1言をゆっくり唱え始めた。
「創世の女神に祈りを捧げます。眠りについた民を救いの手を、我が地に与えし魔力を守り、この地をお導きなさる創世の女神に祈りを捧げます。眠いりについた民を救いの手を、我が森に与えし魔力を守り、この地をお導きなさる創世の女神に祈りを捧げます。眠りについた民に救いの手を‥‥我が霧に与えし魔力を守り、この地をお導きなさる創世の女神に祈りを捧げます」
第2皇子とホーリーは、何度もこの言葉を唱え、第2皇子は光魔法を発動し、最後に2人の声が重なった時に、王妃の指が微かに動いた。夏がやって来て狭い部屋に居る為、汗が止まらない中、第2皇子とホーリーは抱き合い静かに涙を流した。
「今、少し、指が動きましたよね?見ました?第2皇子のお気持ちが届いたのではないでしょうか?」と、ホーリーは明るく振り向くが、共に涙を流していたのは女官のマダミランだけで、残りの3人は複雑な顔をしていた。
「皆さん、どうしたのですか?」
「祈りの言葉を聞いて思ったのだが、平民の魔力持ちの人数は少なく、その中でも奉納している人間はどのくらい存在しているのだろうか‥‥君以外にもいると思うか?」とフェリクス先生は言う。
「さぁ、わかりません、貴族学校を中退した魔力持ちは、比較的いい仕事に就けますから、奉納する必要はありませんし、でも、私が通っていた平民神殿では数人はいました。ケルフも奉納していましたよ」
「お貴族様は貴族神殿へ奉納しているのですか?」
「‥‥‥、冠婚葬祭などで多少は奉納しているが、貴族神殿で祈りを捧げる対象は、国王陛下、女神様ではない‥‥そして、この国で平民神殿に奉納できる人間は極端に少ない、これは予測だが、貴族神殿は、あの王都の魔法陣によって玉座に繋がっていて、奉納すべきは平民神殿の女神様で、玉座に座った国王陛下ではない‥‥‥この国の崩壊も、そう考えると納得ができる」とアガシー先生は見解を述べる。
「この国に必要な魔力を奉納すべき対象が、どこかの時代で変わってしまったのだ」
第2皇子が、
「僕も、王宮で歴史や古代数式を調べ直そうとして、色々尋ね回ってわかった事だが、ある時代から歴史の編纂がなされなくなっていた。それだけではなく、歴史学者が弾圧された時代も存在したようだ。それは、名を名乗ると魔力減少につながると言われはじめた時代よりも随分と前‥‥、それに、不思議な事に古代の書物や資料は王宮でも残っていないのだ」
「貴族神殿が建てられたのはいつなのでしょう?儂が生まれた頃にはあったはずだ。両親もそこで結婚式を挙げている」
「私の考えは、ずっと前の国王陛下が建設したのでしょう。玉座に座り魔力を奉納しなければ、この国は終わると民に教え、国王陛下を敬うように仕向け、皇室以外の者には国王に成れないと知らしめれば、内乱は起こりません。そして、陛下に都合のいい人間には貴族の証を与え、共に国を支えようと信頼関係を築き派閥を広げた。そのような国王陛下が存在していたのではないでしょうか」
「とにかく、1階に降りて、もう一度、祈りの内容を確かめよう」
王妃様の回復の兆しが見え喜ばしい事だったが、3人の先生の顔色が悪くなった。
アガシー先生たちが、王都の魔力を集める魔法陣を疑い始めてから、国中に調査範囲を広め、リンさんの研究の中で不明だった古代数式の解読を行い、そうしている内に次々と領主邸が消滅し、帝国では第1皇子と側近が消滅、そして、国王陛下まで消滅し、王妃も魔力欠乏症に罹った。最近は森の結界を広げられたらと、希望を抱いていたが、平民神殿の神官が使う言葉の意味を考えると、この国の破滅は近いとホーリーでも思った。
(ミルサーチが女神様だとすると、間違いなく消滅する国だと言える。彼女は雇用主に忠実で、虚偽の報告はしない‥‥‥、そして、彼女に会えば、私の仕事の結論も出て報告する事になる)
◇◇◇◇◇◇
1階に降りて、メイド達が整えて終わった食堂は、王宮から運び入れた会議用のテーブルと椅子が配置されており、誰もが話し出す時を待つ。
「第2皇子、失礼ですが、王妃様は皇室の傍系親族ではないのでしょうか?」
「違います。母は貴族学校で父上と出会い結ばれたのですが、郊外の子爵の娘でした。子爵家は領土も持っていません。もし母の実家に権力があれば、宰相たちにつけ入れられずに済んだでしょうが‥‥」
「いいえ、傍系でなかった事が良かったのかも知れませんぞ」
「王妃様のご実家は、確か、ミスドルたちの領土よりも北にあると思いますよ」とバーグ先生は言う。
「結婚する為に、公爵家へ養女に入る提案を断ったと聞いたことがあります」
「その公爵家は‥‥、もしかして宰相の家だったのでしょうか?」
「わかりませんが、そうだったとすれば、王妃は王宮で苦労なさったと思われますよ。あの女官は子爵家から連れて来た女官でしょう。きっと、彼女だけしか見方がいなかったのではないでしょうか?」
「‥‥それで、祈りの言葉ですが、ホーリーが唱えた中に、地、森、霧が出てきましたよね。それについて、皆さんはどう思われますか?」
「地は土地、森はあちらの森、霧は霧ですか?やはり、森は聖域で間違いないでしょう。どうにか森に入って行きたいですね」
「ワイバーンに乗れるのは2人で、1人は乗り手だとすると、たった1人だけ森に入れる訳ですが、誰が行きますか?」
「王都の2倍以上もある森に、何をしに行くつもりだ。魔法陣に弾かれるぞ」
「大体、森のどこに行くつもりだ、目標もないだろう?」
「そう言えば、昨夜、サドと話した時に、帝国で数年前に遺跡が見つかったって、言ってましたけど、我が国ではどうですか?」
「遺跡?遺跡か‥‥、第2皇子はご存じですか?」
「いいえ、僕は知りません。遺跡とはどのような物なのでしょうか?」
「遺跡を大切にする国の中には、国の祖を祀る場所と認識されている事があります」
「遺跡か‥‥、見てみたいな、どんな魔法陣が存在しているのだろう」
「魔法陣の中心には何か絶対にあるはずですよね?これだけの結界を張るのですから?」
「女神像があるのではないでしょうか?」とフェリクス先生は言う。
「確かに‥‥それか巨大な魔石とか?魔石で出来た女神像?」
「では、明日からは租となる遺跡や女神像の捜索と、結界魔法を広げる為の研究を始めましょう」
「第2皇子は引き続き王妃様の治療にあたって下さい」
「僕が捜索に加わった方が良いのではないだろうか?」
「ーー皇族は女神様に嫌われているだろう?何か反応があるかも知れない‥‥」
「それでしたら、順番にしましょう。第2皇子だけですと王妃様の治療と捜索で負担が大きすぎます」
「そうだな、乗り手の交換しなくてはいけないな」
「ホーリー、君もワイバーンに乗って捜索に参加してくれ!」とフェリクス先生は満面の笑顔でホーリーに参加を促す。
スプリンドは、急いで否定する。
「フェリクス先生、ホーリーはまだ上手く魔力を使えません、上空でなんかあったらどうするのですか?無理ですよ」
「大丈夫だ。ホーリーが乗る時には僕が乗り手になる。ホーリーはどうしたい?」
「参加したいです」ホーリーは躊躇わずに参加を表明した。




